GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ②:アベノミクス時の変更

伊藤先生の「証券アナリストジャーナル」「月刊資本市場」の論文に、アベノミクス時における基本ポートフォリオの考え方についてコンパクトかつ分かりやすく記載されていたので、それをメモとして記載しておきます。下記に関心を持った方は是非、論文そのものをご覧ください。
tokusyu_150201_1.pdf (saa.or.jp)
201703271710147683.pdf (camri.or.jp)

日本国債入門」にも記載しましたが、GPIFの運用は、アベノミクスで大幅に修正されました。歴史的には財投制度の一環で運用されていたものの、グリーンピア問題などで批判がなされ、財投改革の中で、公的年金の自主運用が始まりました。したがって、GPIFはその成り立ちから、かつては国内債券中心の運用でした(下記も参照)。
GPIFの歴史:アベノミクスによる運用変更は成功したのか|服部孝洋(東京大学) (note.com)

GPIFは、アベノミクスによりその運用が大幅に修正されます。下記の図は伊藤論文の抜粋ですが、従来は国内債券:国内株式:外国債券:外国株式:短期資産=60%:12%:11%:12%:5%(一定のレンジあり)としているところ、平成26年の財政検証の結果を受けて、国内債券:国内株式:外国債券:外国株式:短期資産=35%:25%:15%:25%:0%(一定のレンジあり)となりました。国内債券を大幅に下げるとともに、国内株を大幅に上げたということです(その後の株高により、これが大幅にGPIFの運用益へプラスに寄与しました)。

https://www.camri.or.jp/files/libs/437/201703271710147683.pdf

伊藤論文では、大幅に国内債券を下げた理由として、①利回りがひくいこと、②株への分散投資によりリスクをむしろ減らせること、③アベノミクスが成功すれば金利が上昇してやられること、としたうえで、安倍政権の改革として、④海外の事例を分析した結果、5%程度でオルタナを認めるという変更を指摘しています。

オルタナについては、下記の図にあるとおり、現時点でも、「 オルタナティブ資産(インフラストラクチャー、プライベートエクイティ、不動産その他経営委員会の議を経て決定するもの)は、リスク・リターン特性に応じて国内債券、国内株式、外国債券及び外国株式に区分し、資産全体の5%を上限とする。ただし、経済環境や市場環境の変化によって5%の上限遵守が困難となる場合には、経営委員会による審議・議決を経た上で、上振れを容認する。」としており、その大きなスタンスは安倍政権後に大幅に変わっていないと理解しています。現在の実態として、GPIFの業務で人手が必要な部分は、オルタナティブ・ファンドの投資ということのようです(これに加えて、アクティブ・ファンドのポートフォリオ評価などがあるようです)。

https://www.gpif.go.jp/topics/Adoption%20of%20New%20Policy%20Portfolio_Jp_details.pdf

上記の文脈では、国内債券:国内株式:外国債券:外国株式という形ではなくて、国内債券:国内株式:外国債券:外国株式:オルタナ=35%:25%:15%:25%:0%としたうえで、オルタナの上限を5%と記載したほうが、実体としてオルタナに投資している以上、わかりやすい気もしましたが、とはいえ、現時点でも下記のp.3に記載してあるとおり、「オルタナティブ資産の年金積立金全体に占める割合は1.53%(基本ポートフォリオでは上限5%)」程度です。
2023_3Q_0202_jp.pdf (gpif.go.jp)

伊藤論文は、アベノミクス時における大きな変更として上記に加えて、ガバナンス強化を上げています。歴史的にはグリーンピアの問題により自主運用した経緯があるため、GPIFの運用が無駄に使われていたことがあるため、この点は非常に重要であると感じています。GPIFが例えばESGやインパクト投資などをやるべきかということは常に議論があるのですが、この点は大きな話になるのでまた別の機会に記載しようと思います。

なお、伊藤論文では、当時は、GPIFが運用する際の「安全かつ効率的」という定義について議論しています。効率的とは、伊藤先生の言うように効率的フロンティアを考えるという解釈かとおもいます。また、前回のメモで記載しましたが、現在では「新しい基本ポートフォリオは、運用目標(実質的な運用利回り:1.7%)を満たしつつ、最もリスクの小さいポートフォリオを選定したもの」という表現されており、伊藤先生の言葉を借りれば、「リターンが決まっていてリスクを最小化せよ」ということなのだと思います(ちなみに、ここのp4に記載されているとおり、この表現はGPIFの発足時より記載されているとも解釈できます)。
GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)

<今までのGPIFのメモ>
GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
GPIFの歴史:アベノミクスによる運用変更は成功したのか|服部孝洋(東京大学) (note.com)
GPIFによる貸株停止再開についてのメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)

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