新入社員への債券学習のガイド

この4月から学生が金融機関に就職し、債券ビジネスやリスク管理にかかわるケースも少なくないと思います。そのような方にとってはこれまで私が記載してきた債券の入門シリーズが参考になると思います。ありがたいことに若い人や役所の人が読んでくれているという声を聞くことが増えてきた気がします(役所の人を一定程度想定読者にしていることはここで記載しました)。これまで記載したものはこのリンクにあるので、こちらを見てほしいのですが、基本的に新しい文章が上に載っています。

2020年くらいからコツコツ記載してきましたが、今見ると膨大に記載しているので、どこから読み始めて良いか分からないかもしれません。個人的には、「国債先物入門」から読み始めて、古い論文から新しい論文へ順番に読んでもらうのがいい気がします。もっとも、デリバティブについては少しマニアックなテーマも多いので、先物を勉強したあと、オプションを飛ばして、「金利リスク入門」「コンベクシティ入門」などリスク管理の知識をつけるとともに、金利の基本的な話については「イールドカーブ入門」、国債の制度の話については「国債入札入門」などを読んでもらうといいと思います(リスク管理のセクションに配属された場合は、「金利リスク入門」から読んでいけばいいと思います)。もっとも、私の文章だけだと国債に関する本当の基礎的な知識が抜けてしまうので、財務省の債務管理リポートを手元に置いておくといいと思います。

金融機関に入る新人に対して伝えたいことがあるとすれば、小さな疑問を大切にしてほしいということです。仕事を始めると、色々なことに疑問に持つと思うのですが、いちいちそれを考えていったらきりがないので、どこかで機械的に覚えるということになりがちです。例えば、先物のコンバージョンファクターを機械的に覚えるということがあるのですが、こういう姿勢であると、本質的な理解につながらないし、新しい問題に直面した時の応用が利かないなどの問題を生むとおもいます(そもそも、こういう人に金融の相談したくないのではないでしょうか)。

私の入門シリーズでは私自身の経験に基づき、自分が疑問に感じたことをメモしたものに応える形で記載しているイメージです。実際に、私が若いころには、先物のコンバージョンファクターをきちんと導出した文献がありませんでした(結果、私が導出して、今ではJPXの公式資料になりました)。コンバージョンファクターの導出はその一例にすぎませんが、私の文章では、若い人が直面しがちな細かい悩みに答えている部分も多いとおもいます。

私は相対的に物事に疑問に持つことが多い人間だとおもいますが、その背景には、私が経済学を学んでいるということが大きいと思います。経済学を専門にしていても、「来年の株価や金利の動向はどうなりますか」などの問題にまるで答えられません。その一方で、当たり前だとされている物事を疑う力は身に付きます。東大の入学式で、かつての総長が学生に対して「常識を疑う確かな力を養ってほしい」と指摘しています。経済学を学ぶことで直接ビジネスにつながることはあまりある気がしませんが、常識を疑い、メカニズムの本質を見抜く力はつくという実感はあります(むしろ、来年の株価や金利の動向などが簡単に分からないということを明らかにする学問だといえます)。

一方で、改めて入門シリーズをみると、本当の初学者の基礎的な話がすっぽり抜けているとも思いました。そのため、いつか全体を概観するようなものを出そうと思います。ちなみに、私の大学の講義では、もちろん、債券も取り扱うため、本当の基礎から説明しています(最近では、役所などで国債や金融の基礎的な講義をする機会もでてきました)。

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