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リズム&デザイン


 武田はさおだけ屋になって死んだ。溺死だった。あわれな最期だったという。
 そう報告をうけた卓也は、淹れたてのコーヒーに口をつけた。

 とくに内容は意識せず、言葉のリズムだけに注目した文章を書いてみる。次も同様。

 淹れたてのコーヒーに口をつけ、目を閉じる。死んだのは竹森だと聞き、孝典はすぐに犯人が墓守であることを確信する。

 ほとんど似たようなシチュエーションだが、後者の方がテンポがゆったりしているぶん、ほんの少しだけおごそかな印象をうける。
 文章は、「意味」だけでなく「リズム」や「テンポ」も保有している、という話。
 物語のテーマ性や雰囲気、ストーリー展開にあわせて使い分けられるようになりたいな、と思う。

 瀬尾にだされた深煎りシティローストは豪州産。さらりとのみほすと、水菓子とともに嚥下。
 ふれあうひろばはお手製だったが、憤慨により殺害。さらには頑固一徹黙秘エターナルクワイエット

 こちらは、意味もリズムも考えていない。考えたのは「デザイン」。「出す」を「だす」、「飲み干す」を「のみほす」、「広場」を「ひろば」にしつつも、同時に画数の多い漢字を使ったりルビをふったり、聞き慣れない単語を使ったりして、「重みづけ」の意図がひと目でわかるような文章にしてみた(本当は改行位置や「送り」までこだわりたかったが今回は無視)。
 画数や情報量が多かったり、特徴的だったり印象的だったりする単語ほど、重力も引力も大きい、とわたしは考えている(あるいは逆に、普段漢字にするものをひらがなにして印象づけるということもできる)。
 ただし、ここぞという場面で的確に運用しなくては、気が散ってしまい、読み手に乱雑な印象を与えてしまう。とくに「カタカナ語のルビ振り」なんかは、乱発するようなものではない。

 というわけで、今回はとりとめのない、覚書きのような内容。
 以下、このあたりを意識するきっかけになった作品。

 著者の坂入慎一は大成しなかったが、同時期にデビューしたラノベ作家のなかでは、ダントツで文章力が高かった。ちなみに、この作品のあらすじは、おおむね映画『レオン』。わたしは今でもたまに読み返す。

 上田早夕里のSF短編集。「魚舟」、「獣舟」はこの作品世界オリジナルの固有名詞だが、わたしには単純にこのワードチョイスが刺さった。フェチズムに刺さる固有名詞たちを追いかけているうちに、「狙って重みづけしているに違いない」と勝手に深読みすることに。

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