初孫 アヤメ

北国に詳しい90歳の祖父と、賢く愉しい叔母と3人、やや内輪な感じでエッセイクラブをはじ…

初孫 アヤメ

北国に詳しい90歳の祖父と、賢く愉しい叔母と3人、やや内輪な感じでエッセイクラブをはじめました。

マガジン

  • 爺娘孫三代エッセイクラブ|北の家族の図書室

    • 45本

    祖父とその娘、孫娘の三代で作られたエッセイクラブ。主に孫娘、初孫アヤメが運営していきます。

最近の記事

大人になってから食べる母のお弁当

数年ぶりに家族4人で旅行をすることになった日の朝、離陸前の羽田空港で、母は「はい、あやの分。飛行機の中で食べたら?」とお弁当を渡してくれた。私にとっては突然の嬉しいサプライズ。もう最後に母の弁当を食べたのは、10年以上前だもの。 旅先で捨てられるようにプラスチックでできた弁当箱を見てみると、つやつやに炊かれた筍の炊き込みご飯の上に、分厚くふっくらと煮た甘い椎茸が並んでいる。黄色い卵焼きにほうれん草の胡麻和え。シンプルだけど好物ばかり。空腹の私はたまらず、ひとりで飛行機に乗り

    • 90歳越えの祖父を巻き込んで、家族で「noteエッセイクラブ」をはじめた話

      はじめまして、初孫アヤメと申します。 noteはもっぱら仕事で使っていたのですが、ひょんなことから家族で「noteエッセイクラブ」をはじめることになりました。これが、ことのほか我が家で盛り上がりを見せており、私個人としても「やってみてよかったな」と思っているので、熱の冷めないうちに事の発端と運営方法、1ヶ月ほど運営しての感想などをまとめておきたいと思います。 きっかけは祖父の入院祖父は元新聞記者で、いまだに物書きとして仕事をしています。そんな祖父も90歳を越え、病気をして

      • ひげじいちゃんと最後に会った日

        母方の祖父が亡くなったと聞いたのは、妹からの電話だった。ずいぶん大人になったと思っていた彼女の声は弱々しく、絞り出すような声でつぶやいた「ひげじいちゃん、亡くなっちゃったって」という声は、未だに私の耳に残っている。 ひげじいちゃんは、その愛称の通り、立派な口ひげを蓄えた恰幅の良い肉体派のおじいちゃんだった。祖父母たちの中でもいちばん若い彼が最初に逝ってしまうなんて、誰も予想していなかったのではないかと思う。 突然の別れはちょうどコロナが猛威をふるい始めたての頃で、近くに住

        • 『虎に翼』を見て、曽祖父に思いを馳せる

          私のまわりは今、NHK朝の連続ドラマ『虎に翼』に沸いている。 平日の9時にもなれば、いつもお世話になっているクライアントのあの人も、仲良しのカメラマンのあの子も、前の会社の隣の部署だったあの人も、SNSで伊藤沙莉演じる寅子や彼女を取り巻く人々に喝采、激励、共感の声をあげている。 かくいう私もNHKオンデマンドで毎日その日のストーリーが配信されるのを楽しみにランチタイムを待ち、あれやこれやと言いながら短すぎる15分を大いに満喫している。ここでは、本作を見て私が感じたことを少

        大人になってから食べる母のお弁当

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          叔母

          祖父の入院をきっかけに、仕事を休んで急遽札幌へ飛んだ。事情を話すと「そりゃあ、お祖父さんのそばにいてあげるべきですよ」と仲間たちに背中を押され、思い立った次の日の夜には新千歳空港に到着。祖父母宅に五日も滞在することになったのは、実に小学生ぶりだった。(ちなみに後日蓋をあけてみると、嬉しいのか少し寂しいのか、社員たちは私の居ない会社を実に正常にまわしてくれていた)。 祖父母が暮らす札幌の家には先んじて叔母が到着しており、明日は朝から祖父の病院に行こうと作戦を立て、それぞれ眠り

          ヘルシンキの老婆、少女の面影

          ヘルシンキの小さな路面電車を降りた先には、異様な光景が広がっていた。 鼻息まで白く、指先がかじかむ寒空の下を談笑しながら闊歩する水着の老婆たち。大粒の汗を全身に光らせ、もうもうと真っ白い煙をまとった彼女らは、たった今100度のサウナ室から解放され、その足でバルト海へとジャンプする。まるで少女たちのプール教室のように和気あいあいと寒中水泳を楽しむマダムたちは、その後ピンク色に肌を染めて陸に舞い戻り「ロンケロ」なる愛称で呼ばれる、ジンをグレープフルーツソーダで割った、いわばフィ

          ヘルシンキの老婆、少女の面影