精神科の病院に1年務めて感じたこと②~日本における精神医療の価値評価~
いきなりこむずかしいお話にて恐縮ですが…
現在、厚生労働省やWHOでは、5大疾病として『生活習慣病その他の国民の健康の保持を図るために特に広範かつ継続的な 医療の提供が必要と認められる疾病として厚生労働省令で定めるものの治療 又は予防に係る事業に関する事項 (医療法施行規則第30条の28)。 疾病は、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病及び精神疾患とする。』のように精神疾患診療の重要性を掲げています。専門家の調査によると、精神疾患を患い、社会活動ができなくなってしまったための経済損失は年間10兆円に達するとも言われており、現代社会が本気になって取り組むべき課題の一つです。救急診療や外科的療法などの華々しさはありませんが、まずはその様な分野に関わらせていただいたことに感謝申し上げたいと思います。
以前にもお話させていただきましたが、精神科の病院に来て一番驚かされたのは、その料金の「安さ」です。例えば、入院中に誤嚥性肺炎を起こした患者さんに対し、酸素を投与し、抗生物質を点滴から投与して治療したとします。どこの病院で治療しても治療内容はほぼ同じ(というか同じ医者が治療しているので、内容が変わるはずがない)なのですが、以前勤めていた二次救急病院での治療費と比較して約半額です。大学病院などの特定機能病院と比較すると料金が1/4以下になる可能性も…。初めて聞いたときは、まるで自分の提供する価値が半分になったような気がして寂しくなりました。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
現在日本の医療費は、国民皆保険制度の下に診療報酬(値段)が公的に決められており、おおよそ「基本料+手術などの手技料+α(リハビリテーションなど)」という形です。基本料は、外来はどこでもほぼ定額、入院は病院の持っている機能によって決められています。内服薬や点滴などの薬物療法は、包括医療費支払い制度によりそのほとんどが基本料に含まれています。ここでポイントになるのが、精神診療において治療の80%は薬物療法であり、それらは基本料に含まれてしまう。手技料や+αの部分が存在しないもしくは圧倒的に少ないのです。結果として、病院が国から頂けるお金は少なくなってしまいます。もちろん患者さんにとっては同じ医療を受けて支払う金額が少なくなりますから良いことなのですが、だったら「うちで治療した方が安いですよと言えば?」というお話は医療界ではタブーらしいです。「この事実をホームページに載せよう!」と言ったら、周りに全力で止められました。(笑) ちなみに急性期病院では、料金を高くとるために不必要な検査を行ったり、適応がきわどいケースも積極的に手術をしてるのでは?という話は、その是非はともかく聞かないお話ではありません。
値段だけがその価値という訳ではありませんが、冒頭にも述べたように精神診療が現在の医療界において重要であるにもかかわらず、その対価が低いという点はあまり合点がいきません。とはいえ、この制度や値段を決めているのは行政であって、自分で変えられる範疇ではありません。これは関心の輪であって、影響の輪の外にあります。だとしたら、この点における自分の影響の輪とは? この病院の経営再建を担って1年前に赴任しましたが、未だ奮闘する毎日です。次回からは、その奮闘記についてお話させていただきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献:「新たな医療危機を超えて~コロナ後の未来を医学×経済の視点で考える~」真野俊樹先生 日本評論社
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