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映画「見わたすかぎり人生」感想

2008年、イタリア。
監督/パオロ・ヴィルズィ
出演/イザベラ・ラゴネーゼ サブリナ・フェリッリ エリオ・ジェルマーノ他

教授陣の賛辞をほしいままに優秀な成績で哲学科を卒業した女子大生、マルタ。美人だし、こりゃ前途洋々だなと思っていたら、日本以上に厳しいのではないかと思われるイタリアの就職事情。母親は長期入院、恋人は海外へ。それでもマルタは弱音も吐かずへこたれず、懸命に職探しをし、ようやく仕事を見つけます。

それは、ベビーシッターとパートタイムのテレフォンアポインター。この浄水器か何かのテレアポの職場の様子が印象的で、モチベーションをあげるために朝は歌とダンスで始まるのですが、陽気に踊っている彼女たちの様子がなんだか宗教儀式のように見えてくる。
彼女たちの上に君臨するスーパーバイザー。
獲得件数に対しての表彰と見せしめ。
経済が逼迫すればするほど、こういう厳しい管理の下におかれる職場は増えていくのでしょう。
所属を聞かれるたびに「9時-13時のマルタです」と答えるシーンも印象的。ほんの1秒の隙もなく、とりつかれたようにセールストークをくり返さなければならないとなれば集中力も4時間が限界だからか、ワークシェアといえば聞こえがいいのですが、労働者はいかにも効率よく使われている感じです。
そこに関わってくる労働組合の男。その弱者に対する真摯な気持ちが裏腹な結果となって弱者を苦しめることになる顛末。

現在の日本も抱えている、ワーキングプア、経済的混迷、子育て問題といったものを時代背景として描かれているのですが、全体の雰囲気としては適度な「軽み」もあるおかげで、いたずらに重苦しい気分にならずに、むしろ描かれている一つ一つを丁寧になぞるような気持ちで観ることができます。
マルタが知り合ったばかりのおばあさんにすがりついて泣くラストシーンがとても良かった。
いい映画でした。

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