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ちびっと丸い人生

「ちびまる子みたいだね」
 
鳩子の人生をそう表する者がいた。
 
ちびで丸い?
ちびっとしていることは否定しない。丸いかどうかは大きなお世話だ。多少丸いかもしれぬが、完全なる球体ではない。腹回りには、控えめに言って太めのちくわぶを一本巻いている程度の余禄よろくはあるが、これはいざという時のための備蓄だ(注1)。海(注2)で溺れた際には、浮き輪となるやもしれぬのだから捨てたものではない。

私はそこそこ真面目に生きてきたつもりであるが、傍から見るとどうやら随分面白い(らしい)。何気なく語った昔のエピソードなどは腹を抱える者も少なくなかった。一方、引き潮のようにさーっと引いていく者もいた。要は好みの問題で、ある意味お互い様でもある。気にすることではない。
面白いのは昔のエピソードだけかというと、そうではない(らしい)。ちびまる子的人生を歩む者の周りでは、大小問わず常に何かしら巻き起こるもので、本人は慣れっこになっていたりする。だから自覚がないことのほうが多く、ゆえに人に話すまでそれが面白いことだとは気づいていなかったりもする。多くのエピソードが語られぬまま空の彼方に消えていったと思う。

さて、ご本家のちびまる子ちゃんでは、主人公のまる子をよく知るのが友人のたまちゃんである。まる子がミギワさんや冬田さんのような女子おなごに絡まれた(注4)と聞けば、撃退法を伝授できるほどしたたかではないが、味方でいてくれる頼もしい存在だ。結局どう撃退したかというエピソードを「すごいね~、まるちゃん」と聞いてくれるのもたまちゃんである。鳩子にとってのたまちゃんは玉夫たまお(注3)であり、玉夫はこんな鳩子の数少ない理解者でもある。しかし、時にまる子はそんなたまちゃんをも、意図せず恐怖に突き落としてしまう。これは鳩子と玉夫にとっても同じだったりする。今日は、そんな話を書こうと思う。

というわけで、はじまりはじまり。

某コンビニでベルギーチョコソフトクリームが再販された。
鳩子は浮かれ、早朝ウォーキングの足で最寄の店舗に向かった。こんな時間にソフトクリームを買う者などいないからか、それとも機材の不具合か、店員さんが作ってくれたソフトクリームは、それはそれはゆるかった。
つまり『なん(注5)』である。
ソフトクリームは受け取ったそばからぽたぽたと滴り落ち、白いシャツにシミを作っていく。
気にならないわけではなかったが、まあいいわいと店を出た。

実にいい。甘すぎず、ほろ苦い大人の味だ。

久々の歩きソフトを満喫し、その足で行きつけのパン屋に寄って朝食用のパンを買い、意気揚々と帰路についた。

「何があった?」
帰宅した鳩子を見るなり、寝起きの玉夫がぎょっとした。
少し怯えたようなその表情には見覚えがあった。ついさっきパン屋でレジを打ってくれた店員さんも、そんな顔で鳩子を見ていた。
 
まさか!
 
鳩子ははっとした。
 
口の周りにソフトクリームが付いていたのかもしれない。
 
あわてて口を拭った。

なんだ、付いてないじゃないか。
 
ほっと胸をなで下ろした。
早朝に、口の周りをソフトクリームで汚した大人を見かけたら、鳩子だってどうかと思う。

それにしても某コンビニのスイーツは抗し難い。
その後発売されたイチゴ杏仁ドリンクの誘惑にも負け、師匠(注6)の教えを破ったことは言うまでもない。
私もまだまだである。

ご参考まで。
硬度 ―
軟度 ★★★★★★★★★★
難度 ★★★★☆
 
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注1 「へそのごまは、いざという時のために残しとくもんだよ」と、ごまを取り過ぎてへそが化膿してしまった鳩子に玉夫たまお(鳩子の伴侶)はアドバイスをくれた。以来鳩子は、多少の余剰は許容する心の広さを持つに至った。人生のパートナーから学ぶことは多い。
ちびまる子的人生にはこういった小さなエピソードが溢れている。ちなみに、化膿したへそについてはオロナインで埋めておいた。
 
注2 鳩のため、基本的には空を飛ぶか、地面で餌をついばんでいるが、鳩子のオーシャンに対する見解は『Q & Qという自問自答』と題された自己紹介記事を参照されたし。
また、海エピソードもないわけではない。溺れたことはないが、波にさらわれたことはある。これについては、『はと子劇場 夏休みスペシャル』で上演予定。どうぞお楽しみに。

注3 鳩子の伴侶。ちびまる子的人生に巻き込まれる者は少ないに越したことはない。そういったわけで、今のところ鳩子と玉夫以外の登場人物はいない。我こそはという方はご一報下さい。なんちって。
出演いただくには覚悟が必要です。オーディションでは、巻き込まれ損人生および巻き込み事故遭遇回数を猛アピールしていただくことになります。なんちって。
 
注4 鳩子の人生は比較的絡まれ人生でもあった。現在はそうでもない。
 
注5 『軟』については『はと子劇場』の初投稿エッセイ『硬いエッセイ』を参照されたし。
 
注6 酔拳の師匠の教えについては『Q&Qという自問自答』と題された自己紹介記事を参照されたし。

潜っても 潜っても 青い海(種田山頭火風)