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【短編小説 ルチアーノ -白い尾のオナガ- 6】Human 人間

6 Human 人間

鳩の群れが去り、辺りは急に静かになった。
翼を伸ばすと背中が痛んだが、差し込む朝日の眩しさが心地よかった。
「夢を見なかったからかな」
葉に残る雨粒を啜り、サンザシの実を啄んで、水色の空に染み出す朝焼けをぼんやり眺めていると、ルチアーノははたと閃いた。
「空を飛びまわれば、空みたいに青くなれるかもしれない」
それから毎日空を飛び続けた。両翼が痛みはしたが、うまくやれば飛べないことはなかった。
「おい。あのオナガ、尾っぽが白いぞ。珍しいな」
枝にとまって休んでいるうちに微睡まどろみかけていたルチアーノは、茂みの中から聞こえる人間のひそひそ声ではっと目を覚ました。
「ついてない。こんな時にカメラのバッテリーが切れてやがる」
「撃ち落しちまえば、何よりの証拠だ」
男がルチアーノに銃口を向け、片目をすぼめた。もう一人もカメラをさっとライフルに持ちかえた。
ルチアーノは、ばっと飛び上がった。乾いた銃声が響き、近くの木にいた鳥が一斉に飛び立った。二度目の銃声がして、たまは木の上に出たルチアーノのすぐ横をかすめた。
一人が舌打ちをして、逃げるルチアーノを目で追った。
「この辺りにいるってことだ。次は仕留めてやろう」
男達はライフルを担ぎ直し、けもの道をざっざと下っていった。

ルチアーノはどこに向かっているのかもわからず飛び続けた。両翼はもう大して動かなかった。なんとか風を捉えようとしたものの、ぐわんと煽られた。とうとう力尽きて、いびつにまわりながら落ちていった。

潜っても 潜っても 青い海(種田山頭火風)