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誕生日の過ごし方

昨日は私の誕生日だった。

2週間ほど前、夫に「何か欲しいものある?」と聞かれたのだけれど、今欲しいものと言われても特に思い浮かぶものはなかった。
でも何かしらの形で祝ってもらえるのは嬉しいことだから、せっかくだし何かはしたい。物はいらないけど…

そう考えていた時に、パッと思い付いたのが

「あそこのお店のカレーが食べたい!!!!!」

ということだった。

"あそこのお店"とは、子どもたちが生まれる前に二人で時々行っていたお店のことだ。
そこはそれなりのご年齢のご夫婦がお二人で切り盛りされている小さなチキンカレーのお店で、メインメニューはカレーとオムカレーのみ。カレーはサラッとしたタイプで、スパイスがしっかりと効いた刺激的な味。でも何とも言えない旨味が癖になる、夏に食べたい爽やかな辛さのカレーなのだ。

提供されるカレーはその一種類のみなので子どもが食べられるものがなく、随分とご無沙汰してしまっていた。

「あそこ行きたい!いい?!」

そう尋ねると夫は「え、そんなのでいいの?」と不思議そうな顔をしつつ、私の提案を受け入れてくれた。

そして昨日、パラパラと小雨の降る中、満を持して夫とそのカレー屋さんに向かった。

「12:00くらいになると混むし、11:30のオープンと共に入ろう!」

などとノリノリで話していたにも関わらず、なんやかんやしていた私たちは結局11:55頃に入店することとなった。
お店は階段を上った2階にある。
階段を上る時には気が付かなかったのだが、いざお店のドアを開けると店内はもう満席で、既に3人のお客さんが並んでいた。

「遅かったかぁ〜」と思う気持ちと、「今もこんなに人気なんだな。よかった」と思う気持ちとが半々だった。

夫と並ぶ。

店内に漂うスパイスの香りで、私の食欲メーターは振り切れていた。
何を隠そう、私はこのランチの為に前日の夜も当日の朝もかなり節制した食事をしていたのである。空腹も空腹。空腹中の空腹!!!(うるさい)
全てはここのオムカレー大盛りを食べる為だった。

普段大盛りを頼むことはほぼ無いに等しいのだが、ここのカレーは次いつ食べられるかわからない。この機会に目一杯味わっておきたい!!!
そんな想いで当日を迎えていた。

並々ならぬ気合いの入り用である。

メニューは二種類とシンプルなので提供されるスピードも早く、それほど待つことなくお客さんが回転して行く。

私たちの番になった。
カウンターに案内される。
夫はチキンカレー大盛り、私はオムカレー大盛りを頼んだ。

壁にかけられた絵を眺める。
青空を背景に、綺麗な白とピンクの花が咲き誇る大木の絵だった。

二人で外食なんてどれくらいぶりだろう…?
考えてみたものの、前回がいつだか思い出せなかった。
壁の絵について少し会話する。
子どもたちと一緒だとこうはいかない。

子連れで外食…となると、子どもたちは常に何か騒いでいて、ちょっとしたことでケンカをする。私は周りに迷惑をかけないように常にアンテナを張り巡らし、「ごはんまだぁ〜〜?」とぶう垂れる二人をなだめて、料理が到着したらしたで二人のフォローをする必要があるのだ。

今日はそれが全部ない。

夫となんでもない会話をしながらカレーを待つ時間が、ものすごく贅沢な時間に感じられた。

そして!
ついに!!!

カレーの到着である!!!!!!!!!!

久々のご対面。
変わらぬ姿がそこにあった。

卵がふんだんに使われたふわふわのオム。
そこにたっぷりとかけられた、サラッとしたチキンカレー。チキンの身もゴロっと乗せられている。

相変わらず、そそる見た目である。

丁重に「いただきます」をし、ひと口食べた。

あーーーーーーーーーー!!!!!!!!!これこれこの味!!!!!!!!!!!
辛い!!!!!!!!美味しい!!!!!!!
あーーーーーーーー!!!!!!!!

発する言葉は夫向けられた「美味しいね!」なのだが、心の中で大興奮である。

このお店のチキンカレーは、何も変わっていなかった。
1ミリの狂いもなく、あのチキンカレーだった。

美味しい美味しい美味しい。
最高である。

最初はカレーだけを味わい、次に半熟のオムと合わせて行く。
卵と合わさった時のまろやかさがまた、堪らなく美味しい。

私は夢中で食べた。
夫は横で汗をかき始めている。

ここのカレーは舌が痺れるような辛さではないのだが、体の芯から熱くなり、汗が吹き出すような辛さなのだ。

美味しい辛い美味しい辛い美味しい辛い(忙しい)。

でも少しずつ終わりが近づいて来る。
お腹はすっかり満足していて(そりゃあ大盛りを頼んでいるのだから当然である)大満足〜!なのだが、気持ちが寂しい。
脳がまだこのカレーを欲している。
欲を言えばもうひとつ食べたいくらいだったが、私の胃袋がそれを許さなかった。

最後のひと口。
1ミリも残さないように、このカレーを最後の最後まで味わえるように、お皿にある限りのカレーをかき集めて味わった。

あぁぁぁ美味しかった〜〜〜〜〜〜〜

最高の一皿だった。

私より先に食べ終わった夫を見ると、ありえない量の汗が吹き出していて、思わず笑ってしまった。代謝が良い人はすごい(私は…)。

お店のご夫婦に「変わらない美味しさでした!本当にごちそうさまでした!!!」と伝えると、控えめなお二人は控えめな笑顔で「ありがとうございます」と返してくださった。
この落ち着いた佇まいからは想像もつかない、あの刺激的な辛さのカレーをお作りになるというところがまた何とも言えないギャップだな…などと一人心の中で思っていた。

永遠、というものがないことはわかっているけれど、このお店は永遠に続いて欲しいと思ってしまう。

お店を出ると、雨はすっかりやんでいた。
でもそこには雨に濡れたかと思う程汗をかいた私たちがいた。

何ひとつ変わらぬ美味しいチキンカレー。
それを夫とゆっくり味わう時間。

最高の誕生日だった。

「私もうこれからの誕生日は毎年このルーティンでいいわ!」

高らかに宣言する私の横で、夫が笑っていた。

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