おじさん交換日記 グルメ風雲録編 その7
【オトウバシ・タツキ】
ソウルフードはそれ自体が"ものがたり"なんだなあ
あんかけパスタ、美味しいよ。
いいお店も見つけた。
名古屋のソウルフードとして有名なんだよね。
ただ、オレ、大人になるまで食べたことなかったんですよ。
ハラダさんにもヒカリさんにも、話したことあると思いますが、オレ、名古屋城をのぞむ団地で生まれ育ちました。
当時は外食することは本当に稀だったから、今みたいにあれこれ食べているわけではないです。
それでも味噌煮込みうどんやきしめん、スガキヤラーメンとかは馴染みがあったし、初めて食べた時の衝撃はよく覚えています。
ただ、あんかけパスタは知らなかったんですよ。
社会人になって東京で暮らしはじめた時に、東京出身の同僚に教えてもらって初めて知ったんです。
もちろん、去年名古屋に戻ってから、満を持して食べに行きました。
名店が多いされる西のエリアの情報をチェックして、評判のお店に。
美味しかったです。
ミラカンのケチャップベースのソースは、濃いんだけど飽きが来ない。
ソースに煮込まれている野菜がいい出汁になっているのに加えて、たっぷり入っている野菜が口の中をさっぱりしてくれるからなんだろう、と感じました。
ほっとする味でした。
でも、懐かしい味じゃないんです。
オレにとってのソウルフード的パスタは、鉄板ナポリタン一択なんです。
なんのことはないんです。
スパゲッティナポリタンを鉄板の上に置いて提供するってだけなんです。
卵を溶いたものを鉄板に敷くのがポイント。
熱い鉄板のおかげであったかいまま食べられるのと、彩り鮮やかな卵が味変の役割を果たしてくれるところが特徴。
書いていて、自分でもわかる気がするんだけど、多分、世の中の人たちは、二つ並べられたら「ミラカン」の方を選ぶ人が多いんじゃないかな、と思うんです。
ミラカンには、見た目の特徴もあるし、独自性の高い風味もある。
比べて、鉄板には、見た目も風味も、独自性はやや薄い。
でも、いいんです。
僕に限って、食べた時の感動は、圧倒的に「鉄板ナポリタン」の方が上でした。
懐かしかったんです。
子供の頃の我が家が、たまの外食の際に行っていたレストランで、ほぼ毎回頼んでいたんですよ、オレ。
名古屋に拠点を置くことに決めてまもなく、評判のお店を見つけて、約40年ぶりに食べたんですけど、「あの時」の味がよみがってきたんです。
古びたレストランの真っ白なテーブルクロスとランチョンマットの上で、じゅうじゅう言いながら鎮座しているそれと、一緒に頼んだクリームソーダの緑色の液体に炭酸の泡が立ち上っていく風景込みで。
オレ、京極さんの気持ち、一瞬でわかったような気がしたもの。
ご存知ですよね。京極さんって『美味しんぼ』に出てくる食通。
海原雄山に故郷・四万十川の鮎を振る舞われて「なんちゅうもんを食わせてくれたんや」と涙したんだよね。
もちろん美味しかったです。
でも、ソウルフードって、美味しいかどうかだけではない。
懐かしさ補正が入った時点で、それ自体がナラティブになるんですよね。
あんかけパスタと鉄板ナポリタン。
文献を読んだら、どちらも昭和30年代に登場して、名古屋市内では結構ポピュラーだったようなんです。
育った地域や立ち回り先の違いで、もしかしたらミラカンが僕にとってのソウルフードになってたかもなあって。
そこ、ちょっと面白いな、と思いました。
オトウバシ・タツキ
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