見出し画像

パンプスと女心【2021/11/14】

靴はクツウでしかなかった。デパートで売られているのは、日本女性で平均とされる、幅が広めの足囲(ワイズ)2E~3E、「甲高」が多い。ところが私の足はDの「甲低」。この取り合わせは少数派のようで、なかなか売っていない。

無理に合わない靴を履いて痛くなった経験は数知れず。特に悲惨だったのがサンダルだった。バックルの留め金がかかとに当たり、歩くたびに釘を足に打ちつけているようで、家にたどりついたときには血だらけになっていた。

いきなり川の土手やあぜ道を駆けなければならない仕事もしていたので、自然、動きやすいぺったんこ靴ばかり履くようになった。一度ラクを覚えてしまうと、ハイヒールはおろか、パンプスさえも「足」を伸ばそうとは思わなくなった。

2年前、職場でのパンプス、ハイヒール強制に「ノー」の声を上げた#KuToo(クートゥー)運動が盛り上がり、我が意を得たりとばかりに拍手喝采を贈送った。ファッションも、肩が落ちたジャケットやスーツ、力が抜けたような「抜け感」のある「ゆるカジュアル」がトレンド。世の流れもラクな方へ向かっているのだと感じていた。

冠婚葬祭に近く参列することになり、パンプスが必要になった。ワイズDを手広く展開する靴店に行って買うことにした。美しく陳列されたパンプスやハイヒールを見て、「こんなに綺麗な形をしているんだな…」と気持ちが華やいだ。

試しにハイヒールを履いてみたら、あら、意外と似合うではないの。つま先まで伸びる脚のラインがきれいに映えた。立ち振る舞いも品良くしようという意識が自然と働くから不思議だ。

私の観察するところ、ヒールが7センチ以上になると、優美さがぐっと増す。できれば7センチ以上のパンプスがほしかったが、店員さんに「もう少し低めのヒールから履き慣れていった方がいいのでは」とアドバイスをもらったので、5センチのパンプスを買った。いずれは、10センチのピンヒールにチャレンジしたいな。

自分自身の反応に驚きつつも、思い至ったことがある。大人になってから、「女だから」とか「若いから」とか、「らしさ」を他人から押しつけられ、決めつけられることに反発を覚えてきた。そしていつの間にか、生まれ備わった「らしさ」という属性を楽しまなくなってこなかったか? 楽しみたい欲求を抑えてこなかっただろうか?「らしさ」の強制と、「らしさ」を楽しむことは違うはずだったのに。

楽な方に流されるだけではなくて、ちょっと背伸びをしておしゃれする気持ちも大切にしたいと思った。


この記事が参加している募集

#買ってよかったもの

58,756件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?