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第二章 プーが訪ねて行って、狭いところに入る話

Winnie-the-Pooh
by A. A. Milne (1926)
IN WHICH Pooh Goes Visiting and Gets Into a Tight Place
よしの訳

 友達にウィニー・ザ・プー、またはプーとして知られるエドワード・ベアは、ある日誇らしげに歌を口ずさみながら、森の中を歩いていた。ちょうどその日の朝、ガラスの前でずんぐり体操をしながらちょっとした鼻歌を作ったのだった。可能な限り手を上に伸ばしながら、トゥラ・ラ・ラ、トゥラ・ラ・ラ、そしてつま先に手を伸ばして、トゥラ・ラ・ラ、トゥラ・ラ——うわ、無理!——ラ。朝食の後、それを暗記するまで何度もなんども繰り返し、今やきっちりと歌い切れるようになっていた。こんな歌だった。

トゥラ・ラ・ラ、トゥラ・ラ・ラ
トゥラ・ラ・ラ、トゥラ・ラ・ラ
ラム・タム・ティド・ラム・タム
ティド・リド、ティド・リド
ティド・リド、ティド・リド
ラム・タム・タム・ティド・ラム

 さて、彼はこの鼻歌を口ずさみながら、他のみんなは何をしているんだろう、他の誰かになるというのはどんな気持ちなんだろうと思いながら陽気に歩いていた。すると突然、砂っぽい土手に行き着いた。土手には大きな穴が開いていた。
「ははあ!」とプーは言った。(ラム・タム・ティド・ラム・タム)
「僕が何かについて何かを知っているとしたら、それはあの穴にウサギがいるということだ」と彼は言った。「そして、ウサギは友人だ」と続けた。「そして、友人が意味するのは食事とか、僕の鼻歌を聴いてくれるとかそういうことだ。ラム・タム・タム・ティド・ラム」
 そこで彼はかがみ込んで穴に頭を入れ、呼びかけた。
「誰かいる?」
 穴の中でふいに物音がして、その後沈黙が流れた。
「『誰かいる?』って聞いたんだけど」と、大声でプーは呼びかけた。
「いない!」と声が返した。そしてこう付け加えた。「そんなに叫ばなくてもいい。最初の声で十分聞こえてる」
「おかしいな!」とプーは言った。「ここには本当に誰もいないの?」
「誰もいない」
 ウィニー・ザ・プーは穴から頭を出して、少しの間考え、こう思った。「誰かはいるはずだ。『誰もいない』と誰かが言ったんだから」。そこでもう一度穴に頭を入れ、言った。
「こんにちは、ウサギ。君、いるんじゃないの?」
「いいや」とウサギが今度は違う種類の声で言った。
「でも、ウサギの声に聞こえるけど?」
「そうは思わないがね」とウサギは言った。「そんなはずはないんだが」
「へえ!」とプーは言った。
 彼は穴から頭を出し、もう一度考えた。そして穴に頭を戻してこう言った。
「じゃあ、ウサギがどこに行ったか教えてもらえませんか?」
「彼なら親友のクマのプーに会いに行ったよ」
「でも僕はここだよ!」とクマはとても驚いて言った。
「僕って?」
「クマのプー」
「確かかい?」とウサギが、さらに驚いた様子で言った。
「もう、間違いなく確かだ」とプーは言った。
「ええ、それなら、まあ、中へ入りなよ」

 そういうわけで、プーは穴を踏ん張って、踏ん張って、踏ん張って進み、やっとのことで中に入った。
「まったくもって君が正しかった」とウサギは彼を頭からつま先まで見ながら言った。「君じゃないか。会えてうれしいよ」
「誰だと思ったのさ?」
「いや、自信がなくて。森の中のことは知ってるだろ。誰でも家に入れるってわけにはいかないのさ。慎重にならないと。何か少し食べていくかい?」
 プーは午前十一時に何かを食べるのが好きだった。そしてウサギが皿やマグカップを出しているのを見て、とてもうれしくなった。ウサギが「パンにつけるのはハチミツと練乳、どっちがいい?」と訊いたときは、あまりの興奮に思わず「両方」と言ってしまい、欲張りに見えないように「でもパンは結構です」と付け加えた。その後、長い間彼は何も言わなかった……最後に、ややベトベトした声で鼻歌を歌いながら立ち上がり、心を込めてウサギの手を握り、もう行かなくちゃと言うまで。
「もう行ってしまうのかい?」とウサギは礼儀正しく言った。
「そうだな」とプーは言った。「もう少し長くいることもできるけど、もし——もし君が——」と彼は食品庫の方を一生懸命見ようとしながら言った。
「実のところ」とウサギは言った。「私もすぐに出かけなきゃならない」
「ああ、それなら、じゃあ、僕は行くことにするよ。じゃあね」
「うん、それじゃ。もう食べないって言うなら」
「まだ食べるものがあるの?」とプーは素早く尋ねた。
 ウサギは皿の覆いを次々と外して言った。「いいや、ないさ」
「そうだよね」とプーはうなずきながら言った。「じゃあまたね。もう行かなくちゃ」
 そうして彼は穴からはい出ようとした。両手で引き、両足で押し、少しすると鼻が外に出た……そして両耳が……そして両手が……そして両肩が……そして——
「ああ、助けて!」とプーは言った。「戻った方がいいな」
「ああ、困った!」とプーは言った。「進むしかない」
「それもできない!」とプーは言った。「ああ、助けて困った!」
 さて、この頃にはウサギも散歩に行きたくなっていた。表玄関が詰まっているのを見たウサギは、裏口から回り込んでプーのところへ行き、彼を見た。
「やあ、君、はまっているのかい?」とウサギは尋ねた。
「い、いや」とプーはうかつにも答えた。「ただ、休みながら考え事をしながら鼻歌を歌っているだけさ」
「ほら、手を貸せ」
 プー・ベアは手を伸ばし、ウサギはそれを引っ張って、引っ張って、引っ張って……
「いた!」とプーは叫んだ。「痛いよ!」
「これは」とウサギは言った。「はまってるぞ」
「すべては玄関が小さすぎるのがいけないんだ」とプーは不機嫌に言った。
「すべては食べ過ぎるのがいけないんだ。食べてる間も思ってたんだ」とウサギは厳しい口調で言った。「言いたくなかっただけなんだ」「誰かさんが食べ過ぎてるって」「誰かさんというのは私じゃないぞ」と彼は続けた。「やれやれ、クリストファー・ロビンを連れて来ないと」
 クリストファー・ロビンは森の反対側に暮らしていた。ウサギと一緒に戻って来て、プーの前半分を見たとき、彼がとても愛情の込もった声で「可笑しなクマさん」と言ったので、みんなまた希望を抱いた。
「考え始めたところだったんだ」とわずかに鼻をすすりながらクマは言った。「ウサギがもう二度とこの玄関を使えなくなるんじゃないかって。そんなことになったら嫌だ」
「私だって嫌だ」とウサギも言った。
「玄関が使えなくなるって?」とクリストファー・ロビンは言った。「もちろんまた使えるようになるさ」
「良かった」とウサギは言った。
「引っ張り出せないなら、押し戻したらいいんじゃないかな」
 ウサギは考え込んだ様子でほおひげをかき、こう指摘した。プーが押し戻されたら、彼は部屋の中に戻ることになり、もちろんこれは喜ばしいことだが、とは言え、木の中に住む者もいれば、地中に住む者もいるわけで——
「僕はもう外に出られないってこと?」とプーが言った。
「私が言いたいのは」、ウサギが言った。「せっかくここまで出た分が、戻すにはもったいないということだ」
クリストファー・ロビンはうなずいた。
「じゃあ、できることは一つだ」と彼は言った。「君がまた痩せるまで待つしかない」
「痩せるのってどのくらいかかるの?」とプーは心配そうに訊いた。
「一週間ぐらいじゃないかな」
「ここに一週間もいるなんて無理だよ!」
「できるさ、可笑しなクマさん。出るほうがずっと難しいだろ」
「本を読んでやろう」とウサギが陽気に言った。「雪が降らないといいな」と付け加えた。「そして君、私の部屋の相当部分を占領しているわけだ——後ろ足をタオル掛けに使っていいかい?だってほら、そこにあって——特に使われているわけでもない——タオルをかけるのにとても便利だと思うんだ」
「一週間だなんて!」とプーはむっつりして言った。「ご飯はどうするのさ?」
「残念だけど、ご飯は抜きだよ」とクリストファー・ロビンは言った。「早く痩せるために。でも本は読んであげるよ」
 クマはため息をつこうとしたが、あまりにきつく穴にはまっているのでできないことに気づいた。彼は涙をぽろりとこぼしながらこう言った。
「それじゃ、きついところにはまって動けなくなったクマを助けて慰めるような、元気が出る本を読んでくれるかい?」
 それで一週間、クリストファー・ロビンはプーの北側の端でそういう類の本を読み、ウサギは南側の端で洗濯物を掛けた……その中間でクマは、どんどん自分が痩せていくのを感じた。そして、その週の終わりにクリストファー・ロビンは言った。「今だ!」
 クリストファー・ロビンがプーの手をつかみ、ウサギがクリストファー・ロビンをつかみ、ウサギの友達と親戚がウサギをつかみ、みんなで一緒になって引っ張って……
 プーが言ったのはひたすら「ああ!」とか……
 「おお!」とかだったが……
 突如、彼は「ポン!」とビンからコルクが抜けるような音を出した。
 そしてクリストファー・ロビンと、ウサギの友達と親戚は真っ逆さまに後ろに倒れ込んだ……その上に、ウィニー・ザ・プーが被さった——自由の身で!
 さて、彼は友達たちにうなずきながら感謝を示すと、森の中をまた誇らしげに鼻歌を歌いながら歩き出した。クリストファー・ロビンはというと、それを優しい目で追いながら、「可笑しなクマさん!」とつぶやいた。

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