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ラウンド間の読書録3 ー転生は魂の救いか?ー

はじめに

私の名前は,ハット。
普段は,マジック:ザ・ギャザリングと呼ばれるカードゲームをプレイしている。と言っても,本記事は,カードゲームに関するものではない。

普段カードゲームの大会に出ていると,ラウンド間(各試合と試合の合間)でどうしても待ち時間が発生する。次の対戦まで20~30分なこともざら。オンラインでの大会となれば,ラウンド間の時間の使い方はなおのこと自由であり,課題でもある。

友人と談笑するのも有意義な過ごし方の一つだが,私は本を読むのが好きなので,読書に耽っていることも多い。

本記事では,そうして読んできた書籍達をご紹介しようと思う。1本の記事あたり2~3冊,できるだけジャンルの被らない2,3冊を選んでいくつもりだ。もちろん書籍の選択は,完全に私個人の趣味であり,本記事も備忘録的なものでもある。が,少しでも興味を持ってもらえた書籍があれば,手に取って頂けると幸いだ。



こちらは,過去の記事になります。合わせてご覧いただければ幸いです。

また,マジック:ザ・ギャザリングについての記事も,note内で2024年3月時点で9本程執筆しております(こちらから)。統計データでMTGを語ったり,ローグデッキを真面目に調整した過程等、多岐にわたっております。有料記事も多いですが,満足いただけるだけのコンテンツとなるよう誠心誠意執筆しておりますので,そちらもぜひ一読くだされば幸いです。

本記事は,全文無料となっております。ですが,もし気に入って頂けましたら,フォロー・サポート頂けると大変うれしく思います。次回以降の記事の励みになります。

それでは,どうぞお楽しみください。

今回の2作品

わたしを離さないで

科学技術が進歩し,人間の完全な複製が可能となった近未来。やがて自身の臓器を差し出すために育てられる”提供者”と,提供者の半生を支える”介護人”3名を主人公に,彼らの過ごす寄宿学校ヘールシャムでの生活を描いた作品。ノーベル文学賞受賞作家,カズオ・イシグロ著。

いかにもSF的な設定。だが,本作で登場する”提供者”は,至って生身の人間達だ。いかにして人間の複製が可能になったかという生物・遺伝子学的な視点は皆無。その代わりに,提供者である人々が,ごく普通の子供として成長し,思春期を迎え,大人になっていく。そんな描写が恐ろしいほどに丁寧につづいてゆく。提供者と介護人,そしてそういったこととは無縁の人々が,一見して何の境もなく,同じ世界で暮らしている。

提供者達は学校に住み,幼いうちから絵画や音楽といった芸術に触れ,心豊かに成長してく行く姿が描かれている。単に医学的に利用可能な臓器を生成するのであれば,無機質な再生医療として「培養される」ような表現も可能かもしれない。

現代における臓器提供とは,科学的な視点で確かに認められた「命の転生」ともいえる。やがて提供者として臓器を差し出されるために生きるのであれば,心の豊かさを与える必要性はどこにあるのか?彼らは他の人々と一体何が違うというのか。

幼いころ,映画「ターミネーター」を観たときの印象が今でも残っている。冷酷無比なT-800がどこまでの追ってくる様相は,子供ながらに恐ろしく感じた。だがそれ以上に思うことがあった。

「もし外にターミネーターがいたら,どうやって気づけばいいのだろう?」

”Pay attention. The 600 series had rubber skin. We spotted them easy. But these are new. They look human. Sweat, bad breath, everything. Very hard to spot. I had to wait 'til he moved on you before I could zero him.”

「旧式の600型は,皮膚はゴム製だった。だからすぐに見分けもつく。だがあれは新型だ。人間そっくりで,汗をかき,息も臭う。完璧だ。だから君に銃を向けるまで,それが奴だと分からなかったんだ」

人間と機械の違いを,いったいどこで見分ければよいのか?
T-800に銃口を向けられ,カイル・リースが駆けつけてくれるまで待つよりほかないのかもしれない。

人間と機械の境目を明確にするには,「人間とは何か」ということを明確にするということに他ならない。生物学的な要素で定義はできるものの,そこに宿る魂や心は,どのように扱うべきなのだろう。T-800など比較にならない冷徹さで,人を殺傷する人間もいれば,献身的に自身を投げうち,人を救おうとする人造人間がいる。そんな世界では,人間とは何かを再考させられるのではないだろうか。

本作で主人公が成長する様を読んだ際,あなたはどこから,彼らを「人間ではない」と思えるだろうか?

私にとって本作は,「純文学における『ブレードランナー』」だ。

月の満ち欠け

あなたにとって大事な人が亡くなり,別の人に生まれ変わったとしたら,「その大事な人」と分かるだろうか?一組の愛し合った男女が,死によって引き離されるも,その生まれ変わりは続き,互いを求めて彷徨う。かつて愛した女性が,幼い子供に「生まれ変わった」として,かつてのように向き合えるのか。

「なぜその話を,あなたが知っているの?あなたが産まれる前の出来事のはずなのに」

本作では,前世という言葉を手掛かりに,生まれ変わった愛する人の面影を追い求めていく純文学となっている。

「個人とは何か」を定義するうえで,その人の生い立ちや経歴,すなわちストーリーは欠かすことのないものである。では逆説的に,姿かたちは異なっても,記憶とストーリーを引き継いだとしたら,「同じ人物」と見ることができるのだろうか?

何が人を人たらしめているのか。ストーリーこそが大事というならば,この肉体は単なる入れ物?昨今盛んになっているAIが紡ぐようなストーリーに,個人・人間味を感じることができるだろうか?人間の定義という非常に根源的な問いを,鮮やかな人間模様や心情描写によって豊かに描きこまれた一品になっています。

おわりに

今回の書籍紹介は,以上になります。

ご紹介させて頂いた書籍についてのご意見など,いつでもお待ちしております。また,本記事をお読みいただいた方々からも,おすすめの書籍があればぜひとも教えていただければと思います。雑食なので,わりと何でも読みます。合わせて,私のXアカウントまでご連絡ください。
それでは,よいマジック&ブックライフを。

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