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心理の専門家が考える"心理的安全性"が担保されたチーム・職場の作り方

1. 心理的安全性とは?

心理的安全性は、古くは1965年に組織心理学者のエドガー・H・シャインと経営学者のウォーレン・G・ベニスによって提唱された概念です。その後、1999年にエイミー・C・エドモンドソンが”効果的なチームにとって、心理的安全性が重要である”という検証と提言を行っています。その後時を経て、近年改めてこの概念が注目されるようになりました。

心理的安全性が守られている状態のメリット

心理的安全性が守られている状態では、

・チーム内のメンバー同士は課題やネガティブな事柄も言い合える。
・チームに対しリスクの想定される行動をしても大丈夫だと思える。
・チーム内のメンバーで、自分を陥れようとする人がいないと感じる。
・このチームでは、自分のスキルや才能が発揮されていると感じる。

といったメリットが期待できます。

無理をして和気あいあいな雰囲気を作る必要性はなく、あくまでも緊張感や、否定的な意見に対する防衛で意見が言えなくなる状態を脱して、集団の目標や問題解決に注目することができる状態を目指すための概念となっています。

Googleのリサーチチームは、発表している5つのチームの効果性に影響する因子のうちで心理的安全性が圧倒的に重要であると述べています。実際にGoogleにおいて、心理的安全性の高いチームのメンバーには

・離職率が低い
・他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができる
・収益性が高い
・効果的に働くとマネージャーから評価される機会が 2 倍多い

といったポジティブな特徴が見られました。

出典: Google『ガイド : 「効果的なチームとは何か」を知る』

心理的安全性が守られていない場合のデメリット

反対に、職場における心理的安全性が守られていない場合ではどのような影響が見られるのでしょうか。

・言いたいことはあるが、全否定されそうで怖い
・自分としては疑問があるけど、上司の意見は絶対だからな⋯
・ここで意見を言って上司に嫌われるのも損だから、黙っておこう

チームメンバーがこのような気持ちを持ってしまうため、結果的にチームとしての効果性が低くなってしまう可能性があります。

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心理的安全性の提唱者であるエドモンドソンは、心理的安全性が確立されてない状態で個人が抱きやすい4つの不安を挙げています。

【4つの不安】
無知(IGNORANT)だと思われたくない
能力がない(INCOMPETENT)と思われたくない     
邪魔だ(INTRUSIVE)と思われたくない
ネガティブだ(NEGATIVE) と思われたくない

心理的安全性が確立されていない状態では、これらの不安によって、個人はチームにとってマイナスとなる回避行動をとりやすくなるのです。  

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今日、職場における心理的安全性の重要性は増しています

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図表: 出典をもとにピースマインド作成
出典: 労働安全衛生調査(実態調査)

厚生労働省が平成30年に実施した労働安全衛生調査(実態調査)によると、「強いストレスとなっていると感じる事柄がある」と答えた労働者割合が約58%、その中で強いストレスの要因を「対人関係(セクハラ・パワハラを含 む)」とあげている人が31.3%となっています。組織の中でチーム単位で仕事をしていく中で、対人関係の悩みは尽きないものであるため、チーム間での防衛心や過度な緊張感を解放しようとする心理的安全性は重要な概念でしょう。

また、「仕事の失敗、責任の発生等」と回答した人が34%にのぼっている点でも、批判されることへの防衛心や不安から解放されることを目的とする心理的安全性の概念は職場において必要だと言えるでしょう。

また、2020年6月1日からは「パワハラ防止法」が施行され、パワハラ防止のための措置が義務化されています。こういったチームのあり方を見直そうという日本全体での潮流も、今日で心理的安全性の考え方が注目を増している理由の一つかもしれません。

2. 心理的安全性を高める方法

個人ができること

エドモンドソン氏は、心理的安全性を高める方法として3つの事項を意識することを挙げています。

1. 仕事を「実行の場」ではなく「学びの場」としてとらえること。
2. 仕事上のミスは必ず起こるものだと認識すること。
3. 積極的に質問をする好奇心を持つこと。

まずは、これらのシンプルなことをチームの一人ひとりが意識することが心理的安全性を高める一歩となります。

管理職ができること

その上でエドモンドソン氏は、心理的安全性を高める上でのチームリーダーの役割は非常に大きいと述べています。

まず、上司として「接しやすい」立場にいることで、チームメンバーが共に学ぶようにすることができます。ここでいう「接しやすい」とは、心理的に・物理的にの両方の意味合いを持っています。

例えば、エドモンドソンの研究によると、ある二人の外科医を比べたところ、いつでも質問できる距離におり(物理的に近づきやすい)、常日頃からチームメンバーに対し常に積極的に話す時間や説明する機会をとり、どんな質問をしても馬鹿にされることがない、と思えるような態度をとっていた(心理的に近づきやすい)外科医Aのチームでは、実際の手術の際も質問をしたり、積極的に意見を述べたりとチーム間でポジティブな反応が見られました。この外科医Aのチームにおいては心理的安全性が高まっている状態だったと言えます。
一方で、チームメンバーに対し外科医Aとほぼ間反対の対応をとっていた外科医Bのチームでは、実際の手術の際も心理的安全性が確保されていない過度な緊張感のある様子が見られました。

次に、このチームはミスや失敗を受け入れるチームである、ということを管理職として率先して示しましょう。例えば、管理職自身が自分のミスを積極的に認める、など。エドモンドソン氏は、チームリーダー自身が自己開示をすることもミスを認める雰囲気づくりのための有用な手段のうちの一つだと述べています。自己開示をする上では、「自分一人だと何か見逃してしまうかもしれないから、一緒にチェックしてくれませんか?」など、自分の気持ちを素直に伝えることを心がけましょう。

出典: 「Managing the risk of learning: Psychological safety in work teams

管理職としてこれらの心理的安全性を確立するメソッドを試す上で重要な点として、「明確な言語化を心がけること」をおすすめしています。たとえば、部下に対し心理的安全性を促進しようと試みた上の言動でも、言葉足らずだとかえって誤解を招いてしまう可能性があります。

相手の発言を促し、気兼ねなく発言できる雰囲気作りをしたいという意図で、「どう思うか、意見を言ってくれる?」このような声かけをしたとします。この場合、状況や言い方によっては受け取り手が「ちゃんと意見を言え」とプレッシャーをかけられているように感じてしまうケースがあるかもしれません。

「今までの君の様子を見ていると、自分で考える力があると思うので一緒に考えてみよう。」このように、明確な言語化を意識をすることで、心理的安全性を高めたいという目的を相手との齟齬なく実現できるとよいでしょう。

特に、コロナ禍においては、直接面と向かってのコミュニケーションが難しい場合もあり、コミュニケーションに齟齬が生まれるケースが非常に増えています。面と向かっていれば、相手の表情や緊張感などを読み取り、適宜声を掛けられていたのが顔をあわせないコミュニケーションが増えると、そのような読み取りが困難となります。

そうして声かけの微調整ができない中で、今までと同じように声をかけていたつもりが、言葉足らずになってしまったり、部下からしたら必要以上にあたりがきつく感じられて、心理的安全性が低下するようなご相談が増えているように思います。

コロナ禍はもちろん、今後多様な働き方が増えていく中で、相手に届きやすいような言語化を心がけることは非常に有用なことです。

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おわりに

今日、多くの人が職場で感じている対人関係や仕事への失敗に対するストレスですが、その裏側には、心理的安全性が守られていないことによる不安があるかもしれません。心理的安全性を確立し、チームメンバーが恐れにより発言や行動を制限される状態を脱するには、個人の意識と、管理職の協力の両方が必要です。部下に対するちょっとした声かけからでも始められますので、ぜひできることから始めてみましょう。

監修者プロフィール

中村 洸太
ピースマインド株式会社
ワーキングベターラボ 主任研究員
公認心理師、精神保健福祉士、臨床心理士、産業カウンセラー
博士(ヒューマン・ケア科学)

筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学博士課程修了。心療内科・精神科クリニックや大学病院勤務などを経て、現職。
ピースマインドでは、EAPスーパーバイザーとして、臨床、研修、育成などに携わる。その他、複数の大学・大学院にて非常勤講師として教鞭をとりつつ、教育領域での臨床や、性的マイノリティのメンタルヘルスやオンラインを用いた臨床活動の研究や実践など多岐にわたって活動。


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