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部下の成長or仕事の成果? | 臨床心理士に聞く、部下の育成に伴う葛藤を解消するヒント

本記事の監修者紹介

プロフィール_武田

1. 成果か、成長か?

部下の育成が重要業務だとわかっていても、そこにどれだけ注力するかは、管理職の裁量に任されることが多いため、部下の育成に熱心な上司であっても、業務量が多い部署では、業務をこなし、成果を上げることで手一杯というケースはよくあります。「頭では部下の育成をする必要性を理解していても、なかなか手が回らない」「部下に申し訳ない」「成果が出せないと育成をする余裕すらない」といった成果と育成の板挟みに苦しめられている上司の方々に、部下の育成に伴う葛藤との折り合いの付け方とその乗り越え方をご紹介したいと思います。


あなたは成果と成長、どちらを優先させますか?
きっと、成果を取る人の方が多いのではないでしょうか?それは部下を成長させたことが評価に結びつかないことが理由だと思います。部下の育成には時間と労力がかかります。求められる成果と両立させるのはなかなか難しいことでしょう。端的に言うと「成長は投資、成果は目先の利益」ということです。異動がある会社員だと、せっかく部下を成長させても異動先に部下を連れていけるわけではありませんし、投資の恩恵を直接受けられないのであれば、成果を優先するというのも納得できます。

しかし、ベテランが多い会社だと急に世代交代を迎えて、「急いでノウハウを教えないといけない」という状態になることも少なくありません。長期的に考えると、部下の育成は非常に大切です。中には、若手にどんどん新しい事を教え、ミスすることのリスクを抱えながらも場数を踏ませる勇気を持つ会社も数多くありますが、育成という投資を一管理職規模でやることは難しいことです。忙しい日々の中で部下を育成するコツをご紹介します。

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2. 誰にどんな仕事を任せるか?

膨大な業務を抱える中で、誰にどのような仕事を割り振るか、というのは非常に重要なポイントです。

例えば「この人に頼めば確実だし早いけど、そろそろあの人にもこの仕事を覚えて欲しい」「でも失敗できないし、早くやってほしいから、やっぱりこの人に頼むか」という場面に身に覚えがある人は多いのではないでしょうか。部下の成長と仕事の成果が天秤に掛けられる場面です。

「誰にどのような仕事を与えるか?」を考えるうえで重要なのは「誰を成長させるか?」ということです。時間の制約がある中で、全員を同じだけ成長させることができないのであれば、「誰にどう成長してもらいたいか?」ターゲットを決めましょう。

2-1. 成長が著しい部下の育成

成長が著しい部下は、上司がとやかく言わなくても、最低限のチェックをすればきちんと仕事をこなしてくれるような部下です。育成という観点で見ると、このような方々は手取り足取り教えるられることや、命令・細かな指示を求めていません。したがって、ある程度の裁量を持たせて、その人がよりよくできる環境を用意することが上司の役割となります。


成長が著しい部下を育成することのデメリット
意外に思う方も多いかもしれませんが、「成長が著しい部下を成長させることのデメリット」もあります。成長が著しい部下がいることは、非常に生産性も上がり職場にとって良い事ばかりです。しかし、成長が著しい部下に依存していると、その部下が異動や転職・産休や育休で職場からいなくなった時に非常に困るのです。その部下しか知らない、できない仕事だからといって、そのまま放置しておくわけには行きません。特定の部下への依存を防ぎ、日頃から他の部下もある程度のレベルまで成長させておくことが、安定した成果を生み出すための基盤となります。特に、その部下しかできない仕事を作ることは、時にとても大きなリスクになる怖れがありますので、必ず複数人ができる仕事にしておくことを意識しましょう。


部下が偉そうな態度を取る
成長が著しい部下は仕事がよくできるために、時に偉そうになることがあります。それを注意することは難しいですが、度が過ぎてパワハラに該当するようでしたら厳正に対処する必要があります。よく聞く事例としては、「新しく異動してきた管理職を見下す」ということです。職位での優位性を無視して、部下から上司への嫌がらせ行為を行うことはパワハラに該当する場合もあります。お困りの場合は、パワハラ社内相談窓口や提携先のEAPに相談すると良いでしょう。

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2-2. 成長が停滞している部下の育成

では、成長が停滞している部下はほっといて良いのか、というとそれは違います。彼らに足りないのは、技術や知識、仕事の進め方などの基礎的な部分です。これらの多くは、教えてもらう必要のある事ですから、OJTの中でもきちんとティーチングして行く必要があります。

しかし現実には、本人が進んで成長しようという意欲を示す人は多くはありませんし、上司の方でも部下の特性を考慮して仕事をアサインすることは現実には難しく、とりあえずやってみてもらうということは多いと思います。最初のきっかけは、指令として半ば強制的に挑戦させることになるのはある程度は仕方がない事かと思います。重要なのは、頼んだ仕事をきちんと評価することです。仕事を任せきりにしてしまうと、部下としては仕事がただ増えていくだけに感じられます。頼んだ仕事に対して、本人がどのように成長したのか、客観的に伝え、細やかなフィードバックを行うことで、本人が達成感を感じ、前向きな気持ちで仕事に取り組んでいくことでしょう。


なかなか成長しない時には
全員が早く成長することができる状態が理想ではありますが、人を成長させるにはマンパワーを多く要します。人手不足に加えて、部下自身がなかなか覚えない、覚える気がないという場合には、今できていることを確実にやってもらうというのも一つの手です。しかし、ずっと同じ仕事をこなすことによって部下のモチベーションが下がってしまうことを防ぐため、ルーティンワークにおいても褒めることが重要です。縁の下の力持ちとしての仕事ぶりを褒めて、評価することで部下のモチベーションを維持することが出来ます。

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3. 成果も成長も

あなたは管理職になる前に非常に優秀な社員で、管理職になること楽しみにしていたかもしれません。辞令が出た時には、「管理職になってもいい成果を出そう」と思い、同時に「どんな部下を持つのだろうか、部下に尊敬される上司になって、優秀な部下を育て上げるのだ」と考えていたのではないでしょうか。

しかし実際に管理職になってみたら、「仕事の成果も、部下の成長も」というのは夢のまた夢、現実には成果を選ばないとやっていけない、と感じている方も多いのではないでしょうか。ここでは、仕事の成果と部下の成長というふたつの目的の間で揺れ動く管理職の方の悩みを深堀していきます。


早く答えを出したい!
部下の仕事ぶりを見ているとつい、「こうやればいいのに」、「そこはあの人に聞けばすぐにわかるじゃないか」口を出してしまう時はありませんか?「この仕事ならすぐ終わるだろう」と任せても、全然成果が上がってこないとイライラしますよね。これはつまり、管理職が早く答えを言いたがっている状態です。

部下の成長を思って、指導という名目、口を挟みたくなる気持ちはわかりますが、部下の育成を促す自己効力感を高めるには、部下たちだけでやりきることが大切です。自己効力感というのは、「これなら自分でもやれそう!挑戦してみよう!」という感覚です。この感覚は自分だけでやりきったときの達成感や成功体験によってもたらされるものです。色々言いたい気持ちをぐっとこらえて、思い切って部下に任せてみてください。そのためには、ある程度時間にゆとりを持って仕事を任せることも必要かもしれません。

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新しい職場が合わない

管理職として新しい職場に意気込んできたのに「部下からはやる気を感じられないし、やり方も考え方もなってない」とがっくりしてしまう、なんてことはありませんか?そこから、「よし、職場改善に取り組もう」とやる気を出してみても、一向に部下がまとまらない、空回りしてしまうこともあるかもしれません。このような自分の価値観と大きく異なる職場に配属されたとき、どう立ち回って、チームを作っていけばよいのでしょうか?

まずは焦らずに、しばらく部下や職場全体を観察してみましょう。どのような特性・価値観を持っている人たちなのかを理解することが重要です。相手への理解なしに、自分の考えで職場改善をはじめてしまうと、押しつけがましい、裁量を奪われたと感じさせてしまいます。信頼感を時間かけて積み重ねて、一緒に変えていくことが必要です。


4. まとめ

最近では、昔ながらのリーダーシップを発揮する管理職から、部下をサポートする管理職へと管理職に求められる役割が大きく変化してきました。部下をサポートするリーダーとして力を発揮するには、日頃からのコミュニケーションや部下のモチベーションが上がるような方法での指導・育成が重要になってきます。業務に忙しい日々の中で、部下の特性を理解し、それぞれに合った成長をもたらすことは容易ではありませんが、外部の研修や勉強会を紹介することや1on1ミーティングを上手く活用することで、部下の育成を効率的に図ることが出来ます。

監修者プロフィール


武田 英彦(タケダ ヒデヒコ)
ピースマインド株式会社
EAPコンサルタント
飲食業にて店舗運営スーパーバイザー、番組企画制作会社にてテレビ番組の企画制作を担当。 その後、退職し心理系大学院に進学、臨床心理士の資格を取得。国立精神・神経医療研究 センターでの臨床検査、東京都知事部局において、職員のメンタルヘルスケアに従事。 その後、ピースマインド株式会社に入社。現在、EAPコンサルタントとして社員と企業向けのコンサ ルティング業務を担当。


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