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【臨床心理士監修】放っておかないで 部下のメンタル不調、離休職のサインかも

1. 管理職としてメンタル不調者への対応は重要、、、だけどもしかして見逃してる?

管理職としてメンタル不調者への対応の重要性は理解しているけれど、何をすればよいのか、いざという時に慌ててしまうのではないかと不安に思っている人も多いのではないでしょうか?管理職が理解しておくべき、メンタル不調のサインとその対応について、専門家の話を踏まえ、様々な事例を紹介しながらお伝えします。

監修者紹介

梅田 典子
ピースマインド株式会社
コンサルティング部 臨床心理士・精神保健福祉士・公認心理師

大学院修了後、臨床心理士として教育、医療領域において研鑽に励む。教育現場では5年間スクールカウンセラー業務に従事。その後の医療領域では約10年間、精神科病院にて個別のカウンセリングとグループセラピーを行う。ピースマインド株式会社入社後はEAPコンサルタントとして、従業員や管理職のメンタルヘルス向上のための相談業務に従事している。


2. メンタル不調とは

メンタル不調とは、「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むもの」のことを指します。

例え本人に自覚がなくとも、周囲から見て明らかに業務上の効率が悪くなる、ミスが増える、身なりに無頓着になるなど、今までとは違う異変をきっかけに病院を受診し、メンタル不調が発覚するといったケースも少なくありません。

メンタル不調者の実情

ピースマインドが企業向けに提供するストレスチェックの受検データを集計・分析した結果、高ストレス者比率は12%で高止まりしており、その内、約半数が翌年も高ストレス者判定を受けています。つまり、高ストレス者の多くは、慢性的なストレスに悩まされており、メンタル不調に陥るリスクが非常に高いということです。このことは、高ストレス者と判定された人の中で医師面接指導を受ける人が約9%の人に留まっていることからもわかるように、高ストレス者に対するケアが十分に行われていないことが要因の一つだと言えます。(※1)

慢性的な高ストレス状態をそのまま放置すると、突然会社に来なくなる、辞めてしまうという結果になりかねません。管理職としては部下が突然、休職、退職してしまうことを防ぐために、日頃から部下の様子に目を配る事、また異変を察知した場合に迅速かつ適切な行動を取ることが求められています。

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管理職が部下のメンタルヘルスを気にする必要性

管理職が部下のメンタルヘルスに気を配ることはそんなに重要な事なのか、と思うかもしれません。しかし、部下が長期休職によって復帰が困難になること、それに伴う周囲へのしわ寄せといったリスクは不調者だけに降りかかるものではないのです。「メンタル不調を生み出すような高ストレス職場では、生産性が大きく低下する」ということが科学的に証明されています。(※2)

管理職が部下のメンタルヘルス不調のサインを察知し、早期発見・早期解決をしていくことは、職場の生産性を落とさないためにも重要な職務の一つと言えます。

3. パターン別メンタル不調者

メンタル不調者と言って思い浮かぶのはどのような人ですか?多くの人は、仕事を抱え込みすぎた結果、疲弊してしまった、そんな人を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、実際には、メンタル不調者にも様々なタイプがあり、先に挙げた例はあくまでそのうちの一つに過ぎないのです。

大きく分けて「鬱的症状」「躁鬱性障害」「適応障害」の三つのタイプがあり、タイプごとの不調の特徴と適切な対処の仕方があります。下記画像では、それらを簡単にまとめています。(※3)

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4. 予防の対応、事後の対応

以上、三つのタイプを紹介しましたが、メンタル不調者の中には二つのタイプの特性を併せ持つ方もいらっしゃいますので、管理職の方で不調のタイプを決めつけるということはせずに、あくまで参考としてください。後述しますが、不調については医師の診断を求めることが大切です。管理職が行うのは、診断や治療ではなく、職場での対応を決めていくことです。

したがって、メンタル不調者の対応において一貫して重要な姿勢は、一人で抱え込まないことです。管理職もまた上司に相談し、専門家と連携することで、はじめて部下に対する適切な支援ができることを忘れないでください。また、そのほかにも、社内外のストレス対処能力の向上や管理者のマネジメント講習により、予防や環境整備を行うノウハウを身につける機会を活用することも有効です。

日常的なコミュニケーション

専門家の力を借りるといっても、発見の段階に専門家が直接関わるケースはほとんどありません。多くは日常的に接している上司、管理職が、部下の異変を察知しメンタル不調に気づくことになります。では具体的にどのような異変が起こるのかというと、凡ミスが増えた、身なりが急に乱れてきた、態度がきつくなったといった、本人は意識していなくても今までと何か違う、おかしいといった変化です。

しかしコロナ禍では、テレワークなどの拡大により、従来の「部下の様子に素早く気づきケアをする」というラインケアの基本対応が困難になっています。また部下からすると、「わからないことがあっても中々聞けない」「リモートでスピードが速く、誰が何をやっているかわからない」「求められていることができていないのではないかと不安」と感じる機会も多く、以前にもまして問題をひとりで抱え込みやすい状態です。したがって、リモートワーク環境では、現状の問題について社員から発信してもらう取り組みが重要になります。詳しい取り組みについては以下の記事でも扱っています。是非、参考にしてください。

このような変化には日頃から密にコミュニケーションを取ることや、良好な関係性を構築することで気が付くことができます。あるいは、部下がふとした時に悩みを漏らすことをきっかけに日頃の異変が不調によるものだと気づくこともあるでしょう。

事後の対応策

では部下の異変に気づいたあとで、管理職は何をすればよいのでしょうか。場合によっては、些細な職場環境の改善などのサポートで不調が改善に向かうこともありますが、今回は病院での治療や専門家の助言が必要な場合について紹介します。

まずやるべきことは二つです。一つは、メンタル不調者をカウンセリングを専門とするカウンセラーや治療のための医療機関、産業保健スタッフにつなぐ事、二つ目はその情報を共有し対策を講じる事です。以下注意すべき点も合わせて、二つのポイントそれぞれ見ていきましょう。

①専門家につなぐ

まずは異変を察知したら、メンタル不調者に対して「最近調子悪そうに見えるのですが、大丈夫ですか? 私で良ければ話を聞きますよ。」と声を掛けると良いでしょう。本人が話すことを望まない場合には、無理に話す必要はありませんが、心配していることを伝えて専門家とつながるように勧めるというのも一つの手です。相談にのる場合には、自分が解決してあげようとするのではなく、相手の話を受け止めたうえで専門家につなげることを念頭に置きましょう。

管理職はあくまでメンタル不調者の事例性を担い、疾病性に関しては医師の領分であるということです。つまり、病名を特定することは医師の仕事で、管理職はメンタル不調者の職場における不調や支障をきたしている状況を把握し、専門家へつなぐところまでが役割です。

また、専門家の中でもカウンセラーはカウンセリングを専門とするため、病院に行くかどうか迷っている場合におすすめです。ストレス不調の症状を客観的に判断してもらうことで、受診への心理的準備性が高まったり、正確な情報を得られます。

責任感からそれ以上に踏み込んで、病気を診断しようとすると、本人は「鬱だと決めつけられた」「無理やり病気ということにされた」と、被害意識を持つ場合があります。このような被害意識は復帰やその後の関係性に悪影響をもたらす事があるので、善意であっても深入りすることは避け、管理職としての支援に徹する事が重要です。

②情報共有して対策を講じる

次に行うことは、管理職の上司に対して情報を共有することです。本人から相談を受けた際に、誰にも言わないで欲しいと言われた場合には相談者の情報は匿名で、カウンセラーや上司に相談することをおすすめします。

相談内容は、相談者本人の同意を得ずに第三者に話してはいけませんが、リスクがある場合などは、主治医や産業医、上司や人事といった適切な人に共有した上で連携し、チームとして動き、支援することが管理職の孤立を防ぎ、会社としての対応を円滑に進めることにつながります。

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5. メンタル不調者への対応で疲弊しないために

メンタル不調は当の本人が大変なのは勿論ですが、その対応を担う管理職も負担を強いられる場合があります。

例えば、不調者自身の被害意識が強いことや管理職側がうつ病者に「頑張って」と言ってはいけないと思い込むことで、適切な業務指示をすることが出来なくなってしまう場合があります。このような状況は管理職にとってもストレスですし、周囲にしわ寄せが来ることで周囲からの反発を受ける可能性も考えられます。

また、本人の安否がわからないような緊急の場合には、家族や主治医との連絡を緊密に取り、対応することが求められ、強いストレスがかかります。このような状況を一人で抱え込むと、管理職本人が疲弊してしまいます。

しかし情報を共有することで、専門家から「病気の問題は医師が担うから、管理職は今まで通り業務指示をして大丈夫だ」というアドバイスや「何かあったら私たちが対応します」とサポートしてもらうことで、肩の荷が下りるはずです。管理職としての役割をしっかりと果たすには、情報を共有し、チームでの解決を目指すことです。その過程で、専門家の存在が必要になった時には、迷わず相談することも重要です。

6. まとめ

日頃から部下の様子に気を配り、異変を察知した場合には専門家につなぐ、情報共有をするという一連の業務は、いつ発生するかわからない、発生したらしたで負担の大きな仕事かもしれません。

しかし、日頃から部下とのコミュニケーションをこまめに取り、職場改善図ることで、ストレス不調者への対応の負担は減らすことができます。以前のnoteで、部下とのコミュニケーションの仕方仕事のストレスを低減させるヒントについて詳しくご紹介しているので、そちらもぜひ参考にしてください。

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出典

※1 ピースマインド株式会社 イベントレポート5「高ストレス職場によくある課題と改善策,1.ストレスチェックの実態と課題」


※2 EWCS2005,A sector perspective on working conditions,https://www.eurofound.europa.eu/sites/default/files/ef_publication/field_ef_document/ef0814en_0.pdf,最終閲覧日2020/10/20


※3 ピースマインド株式会社 イベントレポート8「再休職を防ぐためのタイプ別休復職支援セミナーⅡ」

参考


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