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劇団四季『リトルマーメイド』を観て アリエルの姉たちがすごい

 大阪四季劇場 10月公演



 なんかずっと浮いていた。


 アリエルといえば、ディズニープリンセスの中でも抜群の人気を誇るプリンセスである。
 ほとんどディズニーに興味のない私でも知っているくらいだし、グッズはあちこちで売られているし、説明は不要だろう。

 その『リトルマーメイド』の舞台版である。劇団四季が上演するのだからクオリティは高いだろうし、東京初演から各地で好評だった。しかし舞台写真のアリエルのビジュアルは、かわいらしいが髪形が明らかにとんがりコーンだった。水中での髪の流れの表現だという。あまりにもシュールに見えたので、どうなんだろうなあ、と思いながら、しかし観ないという選択肢はなかったので、それなりに楽しみに観劇日を迎えた。

 まあすごかった。とんがりコーンなんか全然気にならなかった。
 シンプルな舞台美術だったが、深海の表現の八割方が役者の身体の動きによって表現されており、シンプルだからこそ透明感があった。役者は常に身体を前後にゆったりと揺らし、舞台の上を泳いでいた。

 名曲「パート・オブ・ユア・ワールド」では、アリエルがフライングしたまま芯のある透き通った歌声を響かせた。体幹どうなってんの、と思った。

 それにしても「パート・オブ・ユア・ワールド」は名曲である。アリエルの地上への憧れ、叶えたいけれど叶わないだろうと少しだけ混じる諦め、その他どうしようもなく切実な気持ちがあんなにもきらきらした曲調で歌われる。アラン・メンケンの曲は名曲ばかりだが、「パート・オブ・ユア・ワールド」はその中でも一、二を争うだろう。

 アリエルの六人の姉たち(シスターズ)と魚のフランダーが歌う「恋してる」も最高に盛り上がるかわいらしい曲だった。フランダーは明らかにアリエルが好きなのだが、本人はバレてないと思っている。

 何度かアリエルの前で口に出してしまっているというのに、アリエルは彼の気持ちに気づいていないあたり、アリエルの鈍感さもここまできたら罪である。

 それでも好きであり続けるフランダーは健気でかわいらしいのだが、「恋してる」ではシスターズに茶化されまくる。

 フランダーが「何がおきた?」と言えばシスターズは口をそろえてズバッと「鈍感すぎね」と笑い、とどめに「目が ハートに」とアリエルが他の男に恋してることを言ってしまう。
 これにはフランダーでなくても「うそ⁉」となるだろう。フランダーはアリエルの恋に対して言ったが、私としては言ってしまったシスターズに対し「うそ⁉(妹に片思いしてる子にそれ言っちゃう?)」である。

 本家であるアニメーション映画を観ていなかったので、シスターズがちょっと意地悪なことにびっくりした。全員いいキャラしすぎだろう。

 アースラの策略によってアリエルが声を失い海から出て行ったとき、「あの子がいたらソロは全部あの子のものだもの」というような台詞を口にした姉がいた。つまり「アリエルがいなけりゃソロは私のもの」と同義のものを言ったのだ。おまえこそアースラだろ、と思った。

 ただ、それは別にその姉が悪人であるわけではなくて、現実の姉妹間でも似たようなことは多々起きる。そんなところで生々しさ出さなくても、と思ったが、口ではそんなことを言ったって姉たちはなんだかんだアリエルのことを思いやっているのが伝わる物語だった。

 しかしシスターズを演じる女性アンサンブルのみなさんは大変だろう。シスターズのあとはエリックの城の侍女たちをやり、エリックの結婚相手を探す「コンテスト」のシーンでは姫君たちを演じる。アンサンブルというのは基本的に忙しいものだが、よく早替え間に合ったな、と感動してしまうくらいだった。

 ちなみに、その後アニメーション映画の方も観たが、シスターズは舞台版ほど意地悪じゃなかったし、そもそも出番がほとんどなかった。



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