小林マコト

猫とミュージカルと芝居が好きなゴミ人間です。思ったことを思ったままに書きます。おそらく…

小林マコト

猫とミュージカルと芝居が好きなゴミ人間です。思ったことを思ったままに書きます。おそらく文学について学んでいた。普段は小説も書いています。 https://mypage.syosetu.com/167484/ Twitter→@makoto_167484

マガジン

  • 【長編小説】澄美子

  • 【私小説】ひとでなしのむすめ

    母の死と、その後の生活と、わたしのこと。2019年執筆の私小説です。しっかり身辺のことも書いているので、二話目から有料にさせていただいています。

最近の記事

【短編小説】ムラサキ

 叩きつけるように書いた。今ここにある感情を、マコト自身のことばで書かなければならない。今、見えているうちに。強迫観念にも似た焦りが、ノートにペンを走らせた。  濃い、鮮やかな紫がマコトの胸の中にある。歯を食いしばり、強く握りすぎて痛みを訴える右手を無視して、ペン先を紙に押し付ける。  ――おまえがどれだけの苦しみを抱えて生きてきたかなどわたしにはわからない。わからないけれど、それでもそのむらさきの輝きは誰にも奪われてはならない。不幸に黒く染まってはならない。絶対におまえ

    • 就活生、テレビ番組ADなんか目指すな

       こんにちは。テレビ番組のADやってます小林(23歳女性、彼氏なし)です。  いつもドロドロした内面話しか書いてないので、今回は魂の叫び系記事を書きます。  突然ですがみなさん、「テレビ番組AD」にどんなイメージを持っていますか?  キツそう、芸能人と会える、ロケが楽しそう、キツそう、帰れない、休みがない、キツそう、色々あると思います。  そのイメージ、全部「番組による」の一言に尽きます。  昨年4月入社、AD2年目のわたしが見たADの現実の一部をお伝えします。  

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      • 19連勤目、仕事をやめたい気持ちとやめにくい気持ちと、

         19連勤だった。明日も仕事をする。  昨日、大変に嫌な仕事をして、上司を見て「こんな人間になりたくねえ」と思ってしまった。  悲しかった。本当ならもっと尊敬をしたかった。  新卒で入った業界は、入る前から「ヤバい」と巷で話題の業界で、入ってみたら思いの外ヤバくなかった。  一昔前は噂通りのブラックな業界だったらしい。19連勤どころか半年ずっと休みなし、みたいなこともよくあったという。  今はそんなことはない。たまたまわたしが19連勤になってしまっただけで、それはわ

        • 「負けてる」と感じてしまっていること

           人のことがわからなくなったのはいつからだろう、と時々考える。  昔っからこうではなかった気がする。幼少期、よく母に「あんたは人のことよく見てる」だとか「人に気が使えるいい子」だとか言われていた。だから、このままちゃんと人を見ていようとか、気を使おうとか、色々思っていたような気がする。  大体の記憶はほとんど薄れた。それもいつからかわからない。  昔から本を読めば大体の文章を覚えていたし、見た映画の映像も鮮明に覚えていた。今では漠然と、ごく一般的なくらいにしか覚えていら

        【短編小説】ムラサキ

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        • 【長編小説】澄美子
          4本
        • 【私小説】ひとでなしのむすめ
          4本

        記事

          【長編小説】澄美子【最終話】

           別名義で第45回すばる文学賞に応募しました小説「澄美子」を公開します。 二〇一八年 九月  安室奈美恵の引退は紀代にとって衝撃だったが、それ以上に、その情報を得たのが街月末の引退直前になってからであった自分に驚いた。聞けば連日報道されていたというのに、紀代の記憶にはまったく残っていない。毎日ニュースを見ていたし、暇さえあればテレビをつけていたし、人並みにSNSもやっている。それなのにまったく知らなかった。七月に石垣島に行って勝志に会い、戻ったホテルの部屋でたまたまつけた

          【長編小説】澄美子【最終話】

          【長編小説】澄美子【第3話】

           別名義で第45回すばる文学賞に応募しました小説「澄美子」を公開します。 二〇一八年 六月  ここ数日続いた雨は、古い家の中に湿気を貯め込ませて、寝苦しい夜をもたらした。  娘も沖縄の梅雨に不機嫌な顔をするようになり、蒸し暑さからくる肌荒れに苦しんでいた。赤くなった娘の背中に、皮膚科で処方された軟膏を塗れば沁みるらしく、わあわあ泣かれて暴れられた。耳をつんざくその高い声に、紀代は、ごめんや、ごめんやと繰り返すことしかできなかった。  肌が弱いのは、父親に当たる男から受け

          【長編小説】澄美子【第3話】

          【長編小説】澄美子【第2話】

           別名義で第45回すばる文学賞に応募しました小説「澄美子」を公開します。 二〇一八年 四月  飛行機を降りれば、他の土地では感じられない湿気を孕む重たい空気が紀代の身体を沈ませた。搭乗口を突っ切って手荷物受取に向かう間、床に描かれた点字ブロックの無意味さを思う。絵で描いたって、これらを必要としている人々には見えやしないのに。土産屋から漏れ聞こえる軽快な三線の音楽は、三年前と同じ安い音だった。  三年ぶりに会った姉の智恵(ちえ)は、紀代を見るなり頬を張り倒した。部屋の奥か

          【長編小説】澄美子【第2話】

          【長編小説】澄美子【第1話】

           別名義で第45回すばる文学賞に応募しました小説「澄美子」を公開します。 二〇一七年 四月  ぱしゃ、と水風船の割れる音がして、全身から血の気が引いた。  たったひとりの部屋での破水だった。紀代(きよ)はベッドに寝転がったまま、ただ真っ暗な天井を見上げていた。ばくばく心臓が鳴っている。幼いころに、公民館の前の駐車場でいとこらと水風船を投げ合って遊んだことを思い出した。股が濡れていくのを感じる。紀代の他に誰もいないワンルームに、は、は、と細切れの吐息だけが響く。すぐに病院

          【長編小説】澄美子【第1話】

          先輩と後輩

           後輩が学長賞を取ったらしい。  わたしと彼女は芸大に通っていて(昨年、わたしは卒業したが)、卒業制作がある。  その卒業制作で、いちばん優秀な作品として認められ、学長賞を取ったのだと連絡を受けた。  昨年、わたしも同じように卒業制作を仕上げ、同じように学長賞をもらった。  だからと言ってはなんだが、彼女にはずっと「あんたも絶対学長賞取るよ、あんた以外いないよ」と言ってきた覚えがある。  わたしの代は曲者ぞろいで、団結力なんてものは一切なく、全員が個人プレー、団体で

          先輩と後輩

          オトカドールはわたしの救いだった

          女児ゲー群雄割拠の昨今、ひっそりと存在する「オトカドール」というKONAMIの本気アーケードゲームをご存知だろうか。 水彩風の3Dモデル、当然かわいらしい登場人物たち、一人が全曲歌っているとは思えない神楽曲、ライバルキャラたちの女児向けらしくない設定。 オトカドールは、どこまでも、本気だった。 わたしがオトカドールに出会ったのは、おそらく高校1年のころだった。 友人の勧めで知り、そのクオリティの高さ、キャラにちらつく闇の深さに一発でK.O.された。 毎日学校帰りにイ

          オトカドールはわたしの救いだった

          【ひとでなしのむすめ】4.ささやきの夢よ【私小説】

           気がついたら筆を執っていた。  処女作は十にも満たない頃のものだ。  今読んだら目が腐りそうな酷い文章のそれは、しかし今の私が紡ぐものより圧倒的に生き生きとしている。  どんな思いで文章を書くようになったのかは、今となっては思い出せない。書き続けて、もう十年以上になるだろう。  たくさんの物語を書いてきた。  興味があるものはほとんど書いた。  いつしか書きたいと思って書いているのか、書くしかないと思って書いているのかもわからなくなり、執筆という行為に喜びも楽し

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          【ひとでなしのむすめ】4.ささやきの夢よ【私小説】

          【ひとでなしのむすめ】3.おろかものと冬の夜【私小説】

           冬の朝は幸せな気持ちがよみがえる。  白んだ空と足元の冷えこそ幸福で、電車の小気味よいカタンカタンという音、車窓からだんだんと明るい光が差し込んでくる。  そんな朝だけ呼吸がしやすくて、辿り着くあの小さな劇場に、魂だけでいいから永遠に存在し続けたい。  ミュージカルに出会ったのは二〇一七年五月のことだったけれど、印象深いのは冬だ。  バイトと学校の休みは観劇に費やしたあの冬、わたしは毎日満たされていた。  苦しかろうが悲しかろうが、あのきらきらした空間にいれば、世

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          【ひとでなしのむすめ】3.おろかものと冬の夜【私小説】

          【ひとでなしのむすめ】2.土葬墓地にて【私小説】

           親の死を『亡くなった』と書くのは仰々しすぎて嫌だ。  では『他界した』と言えばいいのか、とも考えたけれど、なんとなくわたしの抱えるこの感覚に合わなくて嫌だった。  結局、やっぱりわたしの中では『死んだ』がしっくりくるので、そう言っている。  言い方が悪いとは会う人みんなに言われるし、そのせいで母の死を気にしていないように思われるしで、結構な損をしているような気もするのだけれど、無理に『母は他界しまして』なんて言って生き返るわけでもないので、もう深く考えないことにしてい

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          【ひとでなしのむすめ】2.土葬墓地にて【私小説】

          【ひとでなしのむすめ】1.シシン【私小説】

           ぽつ、と落ちた一滴の鼻血を見て、思う。 「五年以内に、あの人と仕事するわ」  口に出すと決意はより凝縮されて、濃いものになった気がした。  実家の母との電話の最中にするには、かなり意味のわからない決意だったけれど。  ああ、なるほどあの場所ならわたしも努力できる。  努力が報われずに終わったとして、そこに向かったわたしを認められる。  会ったこともない、一方的にこちらが知っているだけの関係。  わたしはファンで、あの人は舞台の上に立つ人だった。  ライトに照

          【ひとでなしのむすめ】1.シシン【私小説】

          カップ焼きそばのこと

          カップ焼きそば  食欲がなかろうが腹は減るもので、生きようとしているだけの肉体が忌々しかった。  身体に悪いと言われ続けるのならなぜ長らく存在し続けるのか疑問に思いつつ、ずぶずぶの精神ではまともな食生活など得られるはずもなく、まだ元気だったころに買い溜めたカップ焼きそ ばくらいしか、わたしが手に出来るものなど考えられなかった。  電気ケトルの中の水はどれだけ放置したかも思い出せず、洗うのも面倒で、百円ショップで買った安い小さなボロ鍋で湯を沸かす。  のろい手つきでカッ

          カップ焼きそばのこと

          「家族」というつながりがどうしても受け入れられない話

           きっと胸糞悪い話になるので不穏な気配を感じたら見ないでください。  ものすごく個人的な話、「家族」というつながりがものすごく嫌い。  なんでもかんでも「家族だから」という言葉で片付けられてしまうのがすごく嫌い。  わたしはごく平凡な家庭に生まれて、ごく普通に親が離婚して、ごく普通に母親について行った娘で。  それを不幸だと感じてしまったのが運の尽き。  そんなのどこにでもあることで不幸なんかじゃない、むしろ母は懸命にわたしたち子どもを育ててくれて、貧乏だけど学びた

          「家族」というつながりがどうしても受け入れられない話