座間9人殺害事件裁判を傍聴した③

これまで:

座間9人殺害事件裁判を傍聴した①座間9人殺害事件裁判を傍聴した②

被告の弁護人による、被告の母親の供述調書の読み上げが終わって、被告人質問に入る事になった。

ネットニュースや新聞などから文面で、TVのニュースなどからアナウンサーの言葉で知っていた犯行の一部内容に関しては、以下に一部抜粋。

「失神した女性でなければ…」白石被告が法廷で明かした異常な“こだわり”                     引用:文春オンライン
遺体はバラバラに……21歳女性殺害のきっかけは「私以外の男性との付き合いがあるような雰囲気」            
引用:文春オンライン
「バラバラにした遺体を鍋で……」白石隆浩被告が証言した、おぞましい犯行の一部始終        引用:文春オンライン

中身を読んでもらわずとも、いかに残忍な事件が分かってもらえるようなタイトルが並ぶ記事。文春だから、という点もあるかもしれないが、そうでなくてもそもそもが残忍な事件。

私はこういったニュースを読んで、事件の内容や残忍さも大まか把握した”つもり”で、公判を傍聴していた。残忍過ぎて、どこか自分とは別の世界の絵空事のように、事件の内容を受け取っていたんだと思う。

被告の母親の供述調書読み上げも、一人の男性としての被告のこれまでの人生の話だったので、大きな衝撃もなく聞いていた。

合わせて実は私は、今日の公判では被告人質問はないもの、と思ってしまっていた。

というのも前回の公判までで、それぞれの被害者の殺害に関する細かな証拠調べについて終わっていたので、今回の公判は細かな殺人の様子などの話はないと思っていた。

むしろ、被告人質問もなく、被告の精神鑑定をした医師への尋問が、今日の公判の主だと思っていた。

それくらい明確な前情報を入れておらず、気持ちの武装もしていなかった私は、関係者でもなくただの一般傍聴人である私は、この日、この先も当分忘れられない一日を過ごす事になった。

・被告と弁護人との不和

今回は被告人質問の事について書きたいと思っているが、その前に改めてというか今更ではあるが、この公判の争点は、被害者から承諾を得た殺人であったか、起訴内容の強盗・強制性交等殺人罪であったかという点になる。

もちろん弁護人は、被害者から承諾のあった殺人である、と主張している。

ただ、被告自身が承諾殺人を否定しているのだ。被害者からの承諾はなく、普通に殺した、と。

被告が自身を弁護する弁護士の意見に、真っ向から反対しているという事。
つまり、通常の殺人で起訴されている事について、被告自体が争う気がなく認めている。

被告は弁護人について「裁判を完結に終わらせたい私の希望に合わせて、起訴内容を争わないということで選任したのに、公判前整理手続きに入ると急に争うと主張した。裏切られて根に持っている」と説明し、当初公判にて弁護人の質問を全て無視するなどして、反発していた。

裁判を完結に終わらせたいという意思は、被告自身が自分の家族への影響を考えてという事らしい。自分が殺害した被害者遺族の事ではなく、自身の家族の事を理由にするあたりが、引き続き自分本位極まりない。

とはいえ、もしかして、万が一の可能性として。

裁判を早く終わらせたいから、もし起訴内容とは違う部分があったとしても、争う姿勢を取っていないのでは?という疑問や勝手な期待も出てくるが、この後の被告人質問で、清々しい程にその可能性は一掃された。

・被告人質問

前置きが長くなったが、やっと本題に入る。

黄緑色のつなぎを着た長髪の被告が、刑務官に囲まれたまま、のっそりと立ち上がり証言台につく。
被告は、メガネもかけている。後に知るのだが、このメガネは7人目の被害者から奪ったお金で購入したもの、との事だった。

私の右側のパーティション奥にいる被害者遺族の前でよくもかけられるな、と一瞬思ったが、この公判を傍聴した後に知った事だったので、その気持ちは一瞬で消えた。多分、被告にはそういう感情が無い。

どの公判でも行っているものかと思うが、証言についての注意事項と、当該裁判における被害者についてアルファベットを用いた匿名で呼ぶなどの決まりについて、裁判長から被告に向けて話があった。

その説明を受けて、被告は
「はい」
と答えた。

初めて聞く被告の肉声。

それは自分が想像していたものとは全く違い、明瞭でとてもハッキリしていた。

その明瞭でハッキリした声によって、これまで知っていた事件内容についてもより怖さが増し、これから起こる被告人質問についてもっと怖くなっていく。

最初は弁護人からの質問だった。

前述の通り、その関係値はやはり不協和音のようだった。法廷はとても静かで、両者の間に流れる空気も伝わってくるように思う。

とはいえ、この日は弁護人からの質問に対して以前の公判のように黙秘もせず、しっかり答えていた。


弁護人は、被告自身にも自殺願望があったものとしたいのか、

「2017年2月に職業安定法違反の疑いで逮捕され、執行猶予付きの有罪判決が確定した後、あなたは実家に戻り、お父さんと暮らしていますね。その際に、首吊りを想定させるようなロープをベランダの物干しに吊るしていたのではないですか?また、あなたは遺書のようなメモも残していましたよね?」

と質問した。

被告は、

「はい、ロープは置いていました。ただ、それは父親から金を無心する為のポーズで、自殺するつもりはありません。以前三度家出した時も心配させる事で金を無心できたので、その成功体験を元にした流れです。遺書のようなメモも自分の創作の文章で、私に強い希死念慮があるように印象付けをしたかっただけで。それで実際、滞納していた税金などは父親に全額払ってもらえましたね。」

と、サラサラと、何の淀みもなく、言った。

弁護人の思惑は、もうフォローのしようがない程、いとも簡単に挫かれる。
弁護人の質問は、初めて傍聴した私からでもわかるくらい、的を外れたような、何の質問をしているか分からない質問になっていく。悪くいえば、だだ滑り。

というのも、全ての質問の回答において被告は、的を外れているわけではなく本人は至ってシンプルに正直に答えているのだろうけど、事実とは信じたくないような呆気にとられる回答をするので、そのように感じてしまうのだ。

弁護人は続けて、遺体を解体している間は必死だった?というような印象付けをしたいようで、
「ご遺体を解体している間、他の被害者の方や連絡を取り合っている方とのやりとりはどうしていたんですか?」と質問した。

被告は、またサラサラと
「解体している途中も、他の人とメッセージのやりとりをしていました。次のターゲットを確保したかったので。解体している時は、一回、一回、目の前のことに集中していました。最初の解体には2日かかりましたが、慣れて解体時間が短くなりました。メッセージのやりとりは、基本寝転んで携帯を触っているだけなので、肉体労働とは違って楽です。」と言った。

ここで被告が言うターゲット、というのは、お金を引っ張れるか、ヒモになれるか、レイプできるか、という意味だ。それができない相手と踏んだ時点で、失神させてレイプして殺して解体する、という事を続けていた。ちなみに、被告は10万円程あれば生活できるから、1人から1万円前後引っ張れたら良いと思っていたようだ。逆に言えば、1万円以上引っ張れなかったら殺す、かもしれないという事。。。

・・・”集中””楽”という言葉をそのシチュエーションで使う、という事に深い違和感と嫌悪感を抱いた。

弁護人は、もう弁護の余地がないと思ったのか、普通に疑問が出てきたのか分からないが、

「ユニットバスにご遺体がある時、お風呂やトイレはどうされていたんですか?解体をされている時は、かなり血が出ますよね。ユニットバスにも、廊下にも、解体する際に着ていたレインコートにも血がついていたのではないですか?」

という質問をした。

もう何が聞きたいのか分からないが、被告は引き続き明瞭に話していく。

被告は、

「血抜きをしていれば、肉を削ぐときには血はほとんど出ませんね。ご遺体が風呂にある時風呂は使いませんでしたが、血抜きも1時間くらいなので、その後はやらなければ、バレたらまずいという必死な気持ちで。あとは効率的な作業法を考えていました。レインコートは、ユニットバスを洗い流す時に一緒にシャワーをかけるんです。洗濯とかはしません。」

と言った。

弁護人は引き続き、解体の事について質問した。解体の仕方、肉片の捨て方の事だったように思う。

被告は「肉片はジップロックに入れて、新聞紙で包んで捨てました。1回で大きめのゴミ袋4~5袋になるので、分けて捨てました。バレないように、朝になって他の住民もゴミを捨てて、ゴミが溜まって匂いがあるような時に捨ててました。」

「骨は一人あたり、大きな骨が8本かな。両面煮て、残った周りの肉を削ぐんですけど、1回で30分ぐらいかな、煮ます。」

被告はそのまま「あ」と言い、その後続けて

「肋骨は煮ます」

と言った。

これまでの質問と証言は、何とかかんとか処理できていたけれど、この、まるで挨拶くらいのテンションで出てきた

「肋骨は煮ます」

という被告人の言葉で、私は傍聴人席で文字通り頭を抱えてしまった。
この直後は、少しボーッとしてしまっていた。

あまりにも不可解で、理解不能な意味の言葉が、人の肉声で、音声として、音として、法廷内に波のように広がっていく様が見えて。

私の前の列にも、裁判員席にも、報道席にも、被害者遺族席にも、その煮られた対象と同じである”人間”が座っている。呼吸によって微動する肺の周りにある、肋骨。

これを煮る?これを煮た?

ずっと基本的にとても静かな法廷の空気が、さらに何段階も静かになって、まるで埃も舞っていないんじゃないか、というくらい静まり返った。

その言葉を受けた弁護人も
「うん・・・」と言うのみだった。

弁護人としては何の受けにもなってないと思うが、もう同情する気持ちに変わっていく。それしか言えない、というか、もう術がないのだ。

裁判長は、そう言う被告をジッと見つめていた。検察官も裁判官も裁判員も、傍聴席にいる人間も全て、この不可解を解そう・何か理解できる理由がと思う気持ちはあれど、圧倒的にハッキリと答える不可解に対して、拒否反応としての無になっているようだった。

ここで午前の公判終了の時間が迫っているのか、裁判長が弁護人に質問終了を促すが、もう少しだけなので、と弁護人は言い、一縷の望みのような気持ちで、

「ご遺体を解体している時の表情が目に入らないのか、被害者の方の心情は考えないのか」と質問した。

被告は、またサラサラと
「最後の被害者の方の表情は覚えてます。目も口も半開きで。こんな顔をするんだな、と。ただ、全員のことは思い出せません。解体している間はバレたらマズイという気持ちだけで、被害者の方の心情とかは考えませんね。」
と言った。

ここで午前の公判が終了。1時間後に公判再開との事で、おそらくお昼休憩を想定しているのだ、と思うが、お昼ご飯を食べられる事なんてなくて。

「肋骨は煮ます」が、頭の中で繰り返し繰り返し鳴っていた。

101法廷の傍聴人待機室にあった自販機で買ったコーヒーを飲んで、頭の中で反芻し続ける午前の公判内容を思い返していた。

次に続きます。

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