座間9人殺害事件裁判を傍聴した②

前回:座間9人殺害事件裁判を傍聴した①

前回からの続き。

座間9人殺害事件裁判の傍聴券が当選し、待機していたカフェから東京地裁立川支部に向かった。

前回も書いたが、私には裁判傍聴の経験が無く、何時間続くのか・休憩はあるのか・裁判所に入るのにどんな手順なのか、など何も分からなかった。


・初めて裁判所に入る、傍聴席に着くまで

東京地裁立川支部に入る際、手荷物をX線で通すチェックがあった。空港で通る検査所のような感じ。

そこを抜けて、座間9人殺害裁判が行われている101法廷に向かう。

私が着いた時には既に、私と同様の傍聴当選者はほぼ並び切っていた。というのも、傍聴席の席は整理券番号によって決まっていないので、先頭から選べる形だった。私はそれも知らなかった。

法廷の手前で、腕に巻いている整理券を傍聴券と引き換え、貴重品・ノート・筆記用具以外の全ての荷物を預ける事になる。既に遅れている私は、貴重品・ノート・筆記用具は持っていて良い事も分からず、荷物を全て預けて、全くの手ぶらになった。

その後、再度電子機器や武器など何もないかをボディチェックされて、列に並ぶ。

一般傍聴の列とは別に、部屋の外に報道関係者の列もできている。

傍聴席は、報道席・一般傍聴席・被害者遺族の席に分かれていて、被害者遺族の席はパーテーションがされていて、報道席や一般傍聴席からは見られないように配慮されている。

私は、一般傍聴席の後方に着席した。

ちなみに、今一般傍聴席はコロナ対策で1席空けた形でしか座れないようになっているので、傍聴抽選の倍率は更に跳ね上がっている。

右側がパーティションがなされた被害者遺族の席、目の前には既に裁判長が着席している法廷、そして法廷の中の左側にもう一つパーティションがあった。


・開廷

開廷時間になると、その法廷の中の左側のパーティションが開かれ、中には刑務官に囲まれた被告がいた。

この事件は裁判員裁判なので、裁判官が裁判員を連れて入廷してくる。その際に、被告と刑務官は立ち上がる。ちなみに報道席・一般傍聴席は立ち上がらなくて良かった。

そして、公判がスタートした。

私は、刑務官に囲まれた被告をずっと見ていた。

黄緑色のつなぎのような服、鎖骨まで伸びた髪、ネットで出ていたよりもふっくらしたような顔と身体つき。

当たり前だけど、人だった。
そして、普通の人だった。

もちろん人が起こした事件という事は理解しているし、その人とその人が起こした事件の裁判を傍聴しに行ったのだけど。

どこかで、あんなに残虐な事件を起こす人は、人ではないようであって欲しいという期待があった。だけど、人だった。

だって、逮捕される前の写真よりも太っている。食べているという事。髪が伸びている。生きているという事。
法廷と傍聴席を仕切っている柵のこっち側と向こう側にいる、被告以外の人と変わらない姿形の同じ人間。異質でも異物でもなく、同形。


公判では、弁護人が被告の母親の調書の一部を読み上げていた。
それを被告は目を瞑ったまま聞きながら、前後に体制を変えたりしていた。

後に、前後に動きながら聞いているという事は、まだ興味がある内容の時なのかもしれないと思うのだが、特に感情もないように聞いているように見て取れていた。

被告の幼少期・青年期を母親から見た様子が、弁護人から語られていく。どこに”普通”の概念を置くかにもよると思うが、至ってごく普通の家庭。何なら恵まれている部類なのでは、と思った。

虫も殺せないような子供だった被告が、ゲームを与えられてから、ゲーム優先の生活になりその怠惰を両親から叱られ、それについて激昂し、、と、どこにでもあるような話。
その後被告は、頑なに自分本位以外は認めず・自分本位を一切止めず、成人まで歳を重ねていった。

被告は過去に家出を3回した事があり、この家出について母親は「自殺についてネットで調べたりしていたので、自殺のための家出だったと思う」と述べ、自殺願望についても両親に仄めかしていたという。

ただ、この仄めかしについては被告人質問に先駆けて書いてしまうが、被告自身は親を心配させ金を無心する為、と述べていて、自殺願望はないとの事だった。

被告の母親は、「どうして息子がこのような事件を起こしたのか分からない、亡くなった9人には謝りきれない」と供述していた。

被告の自分本位・自分絶対ファーストは、犯行までずっと貫けた環境だったのかもしれない、と感じながら、弁護人の犯人母親供述調書読み上げが終了した。


・めちゃくちゃ情報が多いぞ、裁判は

この時点で、公判が始まってまだ40分程だった。
だが、私は既に少し疲弊していた。

被告の表情、被告の動き、被告を人間として認識して。
被告の母親の感情、右側のパーティションの奥から感じる被害者遺族の憤りの感情、裁判官・裁判員の複雑な表情、ペンを一時も止めない記者。

初めての傍聴経験は、この空気感と情報の集約に集中する事から始まった。
ノートもペンも持ち込まなかった私は、必死に聞いて頭の中で整理した。

被告の母親の供述調書読み上げが終わる頃、公判の進行や法廷の感じにやっと慣れてきた私に、とんでもない衝撃が襲いかかった。


被告人質問だった。


次に続きます。


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