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『永遠にひとつ』第15話 暴かれた秘密 (1/2)
アメリカは日本よりもアンドロイドが普及・発展していると聞いていました。確かにニューヨークの街中至るところで、様々なアンドロイドを見掛けます。彼らは自分自身のことをどう思っているのか知りたくて、コミュニケーションを取ってみたかったのですが、全く会話が成立しませんでした。彼らは、マスターと自分以外には全く興味がなさそうで、私が話し掛けても視線すらくれなかったのです。
(私は、他のアンドロイドと違うのかしら……?)
それは、更なる不安を私に与えました。私だけが違っている。それはなぜなんだろうと。
遠矢の送り迎えをするために、車の運転免許を取った時にも、ますます不安は強まりました。アンドロイドでも、所定の検査と試験を受けて、問題がなければ免許が取れます。その検査官が、私の脳波を見て首を傾げたのです。
「いや、異常な脳波というわけではないんです。ただ、一般的なアンドロイドとは違うというか。……敢えて端的に言います。あなたの脳波は、人間に近い形をしている」
私の身体は、いわゆる機械です。軽量金属、プラスチックなどで作られていますから、X線を当てれば、すぐにアンドロイドだということが分かります。しかし、私が作られてから十年。現在では、人工皮膚や、動物の細胞のクローンから生成した臓器を持つ、「作られた人間」とも言えるアンドロイドが登場していました。
それでもなお、アンドロイドと人間を隔てる決定的な違いは、『心』でした。人間と比べて感情が乏しいアンドロイドは、脳波の測定によって識別されていました。
(なぜ、私だけが他のアンドロイドと少し違うの……?)
発行された運転免許証を手に、私は、自分の出自に対する不安で背筋がうすら寒くなり、思わず身震いをしました。
その日以来、私をからかうかのように、私自身が経験したことのない景色が夢に出てくるようになりました。まるで、亡くなった月子さんが、私を牽制しているみたいです。
「あなたが片想いするのは勝手だけど、彼から、女として愛されているのは私だけ。彼の心にいるのは私だけ」
そんな月子さんの言葉が聞こえてきそうな、仲睦まじい二人の様子を夢に見るのです。枕を何度涙で濡らしたか分かりません。
次第に私は、自分の中に月子さんがいることについて、確信めいたものを感じるようになっていました。ただ、そのことは誰にも言えませんでした。もし、それが表沙汰になったら、私は不良品としてラボに返却され、遠矢と離れ離れにされてしまうかもしれません。それだけは、どうしても嫌でした。
同時に、私はアイデンティティについても深く思い悩むようになりました。なぜ私は遠矢を好きになったのか? これまでは、彼の不器用な優しさや、誠実さが好きだと思っていましたが、それは私自身が感じたことではなく、もしかしたら月子さんの記憶に振り回されているだけなのかもしれない。そもそも、どこまでが月子さんで、どこからが私なのだろう。いや、私独自だと思っているけれど、そんなものはないのかもしれない。
自分で自分を定義できない、自分が分からないことは、私をひどく苦しめました。
悲しいかな、私が恐れていたことが遂に起こりました。真実が暴かれたのです。
ある日、遠矢の通院のために運転していた私は、自宅前に多数のカメラとマイクを持ったマスコミの人たち、そしてスマホを構える野次馬がたむろしているのに気づきました。
「光崎氏とダフネが、今、外出先から帰って来ました!」
興奮気味に叫びたてる女性アナウンサーの甲高い声が耳に触ります。目が見えなくても、助手席の遠矢も異様な気配で何事かが起こっていることに気づいたようです。
「ダフネ。家の周りに誰かいるのか?」
「……ええ。たぶんマスコミの人と、通りすがりの野次馬とが両方ね。二、三十人ってところかしら」
「この時期に結果が発表される公募が何かあったかな?」
「ないと思うわ。残念だけど、遠矢の受賞をお祝いしに駆け付けてくれた人たちではなさそうよ」
「そうか。じゃあ、ここは無視して通ることにしよう」
リモコンで門を開けて車を滑り込ませ、すぐさま門を閉めました。さすがに遠矢が取材を拒否したことは伝わったらしく、無理やり門をこじ開けたり、塀を乗り越えたりするような無茶な人はいませんでした。
遠矢は無言でリモコンを操作し、テレビを付けました。何が起きているかテレビの報道で分かるかもしれないと思ったのでしょう。すると、さっき私たちが門を通り抜けてきた映像が映るではありませんか!
呆気に取られて見続けると、賢そうな人たちが、深刻そうな表情を浮かべています。
「先ほど映像が現地から届きましたが、芸術家・光崎遠矢氏が所有するダフネというアンドロイド。こちらには、光崎氏の亡き妻である月子氏の記憶が一部組み込まれているということが、アメリカのメディアで報道されました。実在の人間の記憶をアンドロイドに埋め込む『ダフネプロジェクト』のかなり詳細なデータが記載されていたということで、内部関係者からのリークではないかと言われています」
女性キャスターは、カメラに頷いて見せました。それを合図に、映像はアメリカのテレビ局の映像に移っていきます。
唖然とする私のスマホが鳴りました。私の番号を知っている人は、ごく限られています。発信者を見ると、弓美さんでした。
「ダフネ! ああ、無事に家に入れたのね? 大丈夫? 変な人が家の中まで入ってきたりとか、してないわね?」
「まさか。さすがに門の中までは来ませんよ」
「それなら良かったわ。でも、もし何かあったら、すぐに警察に電話するのよ。……さっきから、何度も兄さんに電話してるんだけど、全然繋がらないの。たぶん、色んなところからの電話が殺到してるんでしょうね」
弓美さんからの電話は、これで終わりました。遠矢は、未登録の番号からの着信を受け付けていません。それでも彼のスマホには色んなところからの電話が掛かってきて、繋がりにくい状態になっていたようです。呆然としていると、彼のポケットの中でスマホが震え始めました。
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