知らない

 君みたいに歪んでしまえたらよかったのにな。普通とそうではないの境目を千鳥足で歩いているから、どっちの振りをしても仲間に入れて貰えなくて、足掻けば足掻くほど一人を感じる。のにいつまでも「いーれてっ」を繰り返して拒絶されて、こういうのを馬鹿の一つ覚えって言うんだと思う。愚かだなあと思ってるのに辞められないところが一番救いようがない。
 どこでもないところまでおちてしまっている君、君のいる場所は寂しいですか。
 もし、君が寂しいと答えたとして、そこでしか味わえないであろう寂しさを僕は心底羨ましいと思うだろうし、寂しくないと答えたとしても、その逞しさをかっこいいと羨望するだろうし、これは答えの欲しい問いでは無いんだけど、僕が聞きたいのはさ、君がいるところまでいけば僕は寂しくなくなるのかってことなんだよな。ごめん。君に僕の気持ちなんか分からないから、もし僕がそこに居たらどう思うかなんて聞いても無駄なんだけど、君はどう思いますか。おちてる君にしか見えないものも多分あるんだろ。僕はそれが知りたいです。
 そもそも、僕はそこまでいけると思いますか。これは君に聞いているわけじゃないよ、自問自答。おちるのは簡単だ、身体を委ねろとたまに聞くけど、おちるのも才能だと思う。センスがないやつは基本ずっとセンスがない。僕はまだ何にもなれていません。まだ、とつけているだけ希望を抱いているということです。野暮だな。何になろうとかではなくて、何かになろうとしているのかそれ自体がもうわからないけど、迎合しなきゃ、と焦ったポーズをとって満足しているわけじゃないんだよ。訂正、満足しているだけじゃないんだよ。僕は不安なんだ。何にもならないまま一生を終えることへの恐怖なんていう、いかにも凡人が抱くような不安じゃない。僕が僕の手に負えなくなるのが怖い。リードを離した瞬間に駆けだして戻ってこない犬みたいに、僕の自我が肥大して暴れ出すのが怖い。でも、そんな瞬間が来たら僕は僕に安堵するだろうし、ほらねとしたり顔したいのを堪えることに必死になるだろうな。というかそうじゃないと困る。僕は、僕が想像しうる範囲の僕でいなくちゃいけないんだ。少しもはみ出たらいけない。これもいかにも凡人が抱く幻想かもしれない、うん、そうだね。でも自分が自分じゃなくなる、自分の想像を超えてしまうのが、僕は本当に怖いよ。そんなの僕じゃない。君はどこにいても君のままでいられているみたいに見えるけど、どうしてなんだろう。こういうことを考えるだけで僕は頭がおかしくなりそうだよ。それっぽいけど間違っていることを言うと、「取らぬ狸の皮算用」とやらなのかもしれない。でもその準備は狸を捕まえたとき役に立つかもしれないという可能性を含んでいるからロマンだと思うんだ。まだ捕まえていないからって話なんだろうけど、建った家で何をするか考えながら図面を書くのは楽しいのと変わらないと思うんだよな。違うかもしれない。もうなんでもいいや。
 僕は君みたいになりたいと嫉妬で狂いそうになりながら、君のことを軽蔑しています。おちているからね。死んでも君のようなことにはなりたくないと思うけれど、君が羨ましくて憧れている。こういうの、心理学とかでありそうだよね。なんていうんだろう。傲慢な人間はひとつひとつ感情に名前をつけたけど、僕が君に抱いている感情の名を僕は知らない。僕が君と同じ目線で会話をすることはきっとないけど、同じものを見てみたいと思うのはおかしいことなのかな。僕はそこには行きたくないけど、君が見ているものが知りたい。これは結局、君のことが知りたい、というところに終着するのであれば、恋 なんていう浮ついたものと一緒になってしまうのかな。悔しい。


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