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おとさんの夏休み③旅をしようよ

 道行く人たちが無言で暑さを訴える昼下がり。空腹を抱えた私たちも無言で暑さを訴えながら、背中を丸めて歩く。
 軽く何か食べることができたらという願いはむなしく、なんにもない。あった~と思った寺カフェはclosed。
 にし茶屋街へ行こうと歩くとソフトクリームか何かを食べて歩いている人とすれ違う。何かあるだろうと期待して、ちょっと勢いづいた。
 けれども。
 大きな道に出て見回しても、何にもない。コンビニを見つけ、飲み物を買う。
 振り返るともう一つ道を先に行くとにし茶屋街がありそうだとわかった。
 もう歩く気のないヘロヘロのおとさんと月が立っている。
 うん、妙立寺へ行こう。
 予約時間まで30分以上あったけど、おとさんも月も座り込んで動かない。
 私だけふらふら散策してまわる。
浄行菩薩様は薄暗い静かなお堂の中でたっていらして、たくさんの人にこすられたのがよくわかるほど、顔がなくなってツルツルになっていた。私も、申し訳ないけれど、月や母の代わりに、水をかけ、たわしで頭や顔をこすってお参りさせていただいた。
 予約時間になって、受付をすませると、大勢の人が本堂の中で座って待つ。
 大まかな説明を聞いたあとは、いくつかのグループにわかれ、ガイドさんに案内していただいて回る。
 かなり古いので、デリケートに歩かなくてはならないし、もちろん勝手に触ってはならないし、勝手に入ってしまうと戻ってこれないくらい入り組んでいる建物なので、ガイドさんもちょっと神経を尖らせている。
 私たちを案内してくださるガイドさんは中でも物言いがはっきりしていて、口うるさく感じられる方ではあった。妙立寺の保存を思うと、そして、1日に何度も何人もの人のガイドをしてみえるのだと思うと、わかりやすく、キビキビと話されるのは当然だなと思った。どうも最近曖昧な表現での物言いが多いから、スッキリサッパリ気持ちがいい。観光客に注意をするのも観光客やこの妙立寺を大事にしているというプロ意識が感じられた。

 いや。なんといっても、説明がよどみない。間がすばらしい。おとさんは拝観料1200円は高いと思ったけど、ガイドさんの説明を聞いたら納得したと喜んでいた。
 月も建物の面白さだけでなく、詳しくわかりやすく説明をしてくださったのもおもしろかったと言っていた。
 小学生の子は、あんな説明じゃわからないと怒っていた。
 でも、説明云々じゃなくて、あれこれ注意事項が多いことや、小学生は大人と一緒にと注意をはらわれるので、窮屈な上、説明が多く、見る時間が限られているから、自由さがなくて、おもしろくないだろうなあと思って聞いていた。そして何より暑い。不快指数が増えるばかりよ。
 妙立寺の歴史も興味深いけど、妙立寺を建設した人の知恵に惚れ惚れした。
 そして、信仰の場でもある裏で戦の舞台にもなり得る場であるということも興味深い。
 おもしろかった。
 満足して、さてもうホテルに向かおうとバスを探す。
 乗り換えることはわかったけど、目的のバス停が見当たらずてくてく歩く。おとさんが何やら調べてあっちの方へ行けば8分くらいというのでついて歩く。
 さっぱりわからず、もう一度調べると8分でなく30分近く歩かねばならない。降参。
 駅へ行って乗り換える方が簡単だということになって、駅へ向かうバスに乗る。
 あちこち歩いたけど、バスからも景色を眺めたけど、店らしい店が見つからぬ。スーパーも見つからぬ。 ステーキ屋さんとか和菓子屋さんは民家に溶け込んでいて、目の前を行くと、おおこれはお店だったのかと思うほど、さほど目立った看板もない。
 わが町は駐車場やら派手な看板やら、お店が目立つ。そしてやたらと外食チェーンや喫茶店や飲食店が多い。全然違っていておもしろかった。金沢の人は外食しないの?買い物はどこでするの?と不思議に思いながら景色を眺めた。旅に行くと、地元のスーパーを見るのが楽しみなんだけどな。
 駅は立派だった。町は静かで穏やかなのに、駅はどーんと立派で、駅前は都会だった。おお〜。
 車へ荷物を取りに行って、結局車はそのまま置いていくことにした。駅前のホテルには駐車場がないから、駐車場を探してウロウロしたくなかったから。駅前は一方通行やら慣れてないと走りにくいと感じたのだ。
 ホテルまで駅前のバス停から歩く。駐車場は意外といっぱいあった。
 ホテルにつくと、手続きの間ウェルカムドリンクを自由にいただくことができた。コーヒーやコーラといったソフトドリンクから、ウィスキーや焼酎、ワインやカクテルまで用意されていた。
 おとさんは最初アイスコーヒーをいただいたけど、遠慮がちに赤ワインもいただいてきた。月は嬉しそうにコーラをおかわり 夕食は1人3000円のチケットが渡され、指定されたいくつかの店を選んで食べに行く。ウェルカムドリンクをいただきながら説明を受けて、エレベーターへ向かうとラボットが挨拶にやってくる。かわいい。ずーっと話しかけていそうだねとおとさんに笑われながら部屋へ行く。
 数字を入力して解錠なので月が解錠係。
 部屋は狭いけど、セミダブルベッドの上にシングルベッドがあって、壁にちょっと大きすぎないかい?というくらい大きな画面のテレビがあった。もう月の喜びようったら。
 早速2段ベッドの上でテレビをつける。ユーチューブが見れるとまた大喜び。自分の空間があるのが嬉しいとどっしり落ち着いた。


 おとさんと私でどこで食べようか相談。
 候補をいくつかあげて月に選んでもらう。ふぐの唐揚げがおすすめと書いてある居酒屋へ決定。月はふぐを食べてみたいのだ。できればテッサを。今回は無理だろうなと思いつつお店へ向かう。方向音痴のおとさんについていったら案の定たどり着かなかった。
 地図を見直して仕切り直し。危うく反対方向へ突き進むところだった。
 残念ながら、ふぐはなかったけど、つきの好きなポテトフライや鯛の刺し身などを注文する。
 サワラソデの刺し身や金沢おでん、加賀れんこんの天ぷらも注文する。


金沢おでん大根と車麩
タイとサワラソデ
加賀れんこんとイカの天ぷら
にぎり寿司

 それをいただいてもおいしかった。中でも加賀れんこんの甘いこと。おでんも上品でおいしい御出汁。
 月はにぎり寿司にあった貝やイカがおいしかったと言った。
 サワラソデは後で調べたらカジキだった。もっちりと美味しかった。
 そして、辛口の日本酒もいただいた。天狗舞が美味しかった。
 お店の人もとても親切で心地よい時間を過ごした。
 美味しくて楽しくて、ついナスの肉味噌かけなんかも追加して満腹になった。
  デザートはコンビニに寄ることにして、美味しかったね〜楽しかったね~と帰る。
  私と月はコンビニでデザートを買って、おとさんはホテル近くのラーメン屋さんがデザート。
 ウェルカムドリンクが終わっていて残念そうな月は2段ベッドにあがって、ユーチューブで音楽を流しながらデザートタイム。
 あっという間におとさんが帰ってきた。瓶ビールと中華そばを食べて満腹の満腹になったらしい。
 少しのんびりしてお風呂へ。温泉らしい。女性は解錠用の数字が渡されていた。
 テレビでお風呂の混み具合を調べてお風呂へ向かった。便利だねえ。
 静かなお風呂で心地よかった。暑くて汗でベタベタだったよ。
 翌日は金沢21世紀美術館だから朝はのんびり。
 静かなホテルでよく眠れた。朝はバイキング。
 おとさんはカレーが美味しかったって。私は五郎島金時の天ぷらがおいしかった。加賀野菜の美味しいこと。月は珍しく、バター醤油ご飯にして食べていた。

 おとさんが車を取りに行ってくれて、ロビーで待っていると、朝礼の声が聞こえてきた。
  ラボットは受付のお姉さんの朝礼を受けている。
 月はまたここに泊まりたいと満足そう。よかった。
  金沢21世紀美術館に入ると、すでにすごい人混みで、チケット売り場はとんでもない行列だった。ディズニーかと思うほどに。
 気乗りしない月のプレッシャーを感じながら並ぶ。
 新鮮な地獄って何だろうと話しながら待つ。
 入場制限で11時までは入れないので、先に、それは知っている。形が精神になる時の方を観る。
 月は銃を使って楽器になるのがおもしろかったようで、しばらくここにいるという。
 おとさんともはぐれ、迷路のような美術館の中をウロウロ。
 作品もおもしろいけど、観ている人もおもしろい。
 ひたすらカメラを構えて作品を撮っている人、サラーっと観ていく人、近づいたり離れたりうーんと首を捻っている人、遠巻きにじーっと観ている人、様々だ。
 同じ物を観ながら、みんな観ている世界、感じているものが違っているのだろう。
 11時になったら、おとさんが迎えに来てくれた。月も呼んで、いざ新鮮な地獄へ。
 各部屋で様々な映像が流れている。結構な混雑で、座っている人、立っている人、中腰の人と様々だ。
 座って舟をこいでいる人もいれば、真剣に見ている人もいる。サラッと流し見の人もいる。
 新鮮な地獄は、ちょっと受けつけない映像もあれば、おもしろく感じるものもあった。地獄があ。
 ドロドロもポップなのもいろいろだ。
 ミュージアムショップでおとさんはコースターとポストカードを買った。
 月は、回すとエクスクラメーションマークの現れるコマを買った。渋々ついてきたけど、嬉しそうにお土産を買っていて、彼なりに楽しんだのかと思うと嬉しかった。
 ちょっと難解だけど、おもしろい美術館だった。作品より見ている人にも気が行ってしまったから、いつものように作品に集中してないけど、おもしろかった。


 さあて、お次は月が愉しみにしている自動車博物館だ。
 お腹がすいたぞ。
 お昼は自動車博物館へ行く途中で回転寿司とかあるかなあと言いながら自動車博物館へ、向かうことにする。


 

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