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お酒を飲むと父は下手くそな冗談を言う、


私の父親は、酒癖がちょっとばかりよろしくない。
普段はとても寡黙な昭和の人間で、声を荒げたりすることはもちろん、感情を表に出すことも珍しいほどなのだが、ひとたびお酒が入ると、全くの別人になってしまう。

顔を真っ赤にしながら1日3本と決めた”氷結レモン”を片手に、下品な話題でガハハと笑う。
幼い頃は、この父の姿が得体のしれない化け物になってしまったようで、なんとなく怖く、夜になるのが憂鬱だった。


とある日は、
「お前はなぁ、お父さんの本当の子どもじゃないんよ。」と、
父、母、わたしが映る家族写真をアルバムから引っ張りだすと、
見切れて映っていたどこかのおじさんを指さして、
「これが、お前の本当のお父さんなんだよ。お母さんには言うなよ、まだ言わない約束になっているからな。」とセンスの悪い冗談を言う。元々、コミュ力が低く、友達も少ない父は、このあたりのさじ加減がわからないタイプなのでかなり厄介。大変、冗談と分かりづらい。というか、そもそも小学生にその冗談は通じないからやめてくれ。


父には、話下手なのに酔うとご機嫌になってボケたがる習性があるのだ。


思いつく”お酒の思い出”を書いていると、
テーマである”いい時間とお酒”から大きく脱線してきていることに気がついたので、そろそろ元に戻そうと思う。


そんな父は今年68歳になった。
これまで何度も大きな病気を患い、昔と比べるとできなくなったこともたくさんある。
そんな父が、唯一、昔から変わらずに、
大切にしているのが、”夜の晩酌の時間”だ。

相変わらず氷結を片手に、
下手くそな冗談を言っては、母に怒られている。

父にとって、この時間は間違いなく大事な時間なのだろう。


大人になって分かったが、日々、生きているとなかなかしんどい。

そんな時に、”ふっと自分を解放できる、ありのままの自分でいられる瞬間があるとしたら”。それが、父にとっての安らげる場所であり、このお酒との時間なんだろう。


この年末は、実家に帰る。
しょうがないから、氷結1本もらって、父の話を聞いてあげるとするか。
こんないい娘と、お酒が飲めることを幸せに思ってくれよなって思う。



#いい時間とお酒

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