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【#創作大賞2024】骨皮筋衛門「第九章:蚊なしき野望②」(2325字)
第九章「蚊なしき野望②」
「こんにちは~」
カランカランと懐かしいベルの音と共に趣のある喫茶店「カサブランカ」に元気に入って来たのは江藤さんと越前さん。彼らは帳面町の人気ラジオ番組「笑顔デスカ♪」のDJだ。
2人は次の企画に向けて「カサブランカ」に打合せに来たのだった。彼らが務めるラジオ局「FMーH&T」の局員は「カサブランカ」の常連でもある。「笑顔デスカ♪」は聴取者参加番組のため、公開放送もここで行うことが多い。
「去年のカラットグランプリはレベル高かったよねぇ」
「次はもっと内容を充実していきたいですよね」
と打合せをしていると砂沼さんが新作のジンジャークッキーとドリンクのセットを運んできた。
「私もすごく楽しみにしています」
「ありがとうございます!」
「企画楽しみにしていてくださいね」
「はい」
カウンターでコーヒーを淹れながらマスターの幸田さんがほほ笑む。そんな穏やかな時間が流れる中、少し離れた席にいた客が江藤さんと越前さんのテーブルに近づいてきた。
「騒がしかったですか?」
と江藤さんがすぐに謝る。しかし、その客は黙ったままテーブルの横に立っているだけだ。
「あの……?」
と砂沼さんが声をかけたその時、
「カサブランカを「蚊サブラン蚊」にしてくださぁぁぁい!」
と叫び、砂沼さんに襲いかかってきた。
「きゃぁぁぁ!」
突然の出来事に皆が動揺して動けない。しかし、カァァンという間抜けな音が店内に響いたおかげで我に返る。音は砂沼さんが手に持っていた銀色のお盆から出たものだった。襲いかかる相手にタイミングよくぶつかったお陰で「蚊ぁぁぁ……」と頭を抱え、うずくまっている。おっとりしている佐沼さんは、たまに見事な動きで危機を回避する才能があった。
「でた!砂沼さんの無欲の攻撃……」
と目を丸くして叫びながら砂沼さんを引き寄せる江藤さん。攻撃した砂沼さん自身は今になって恐怖で動けなくなっていたからだ。
「これ、最近流行っている「か」を「蚊」にって奴じゃないっすか?」
と越前さんが犯人と江藤さん・砂沼さんの前に立ち守ろうとしたのだが突然、周囲の人々が一斉に立ち上がった。
「アイスカフェオレをアイス蚊フェオレにしてくださぁぁぁい!」
「「笑顔デスカ♪」を「笑顔デス蚊♪」にしてくださぁぁぁい!」
「「カラットグランプリ」を「蚊ラットグランプリ」にしてくださぁぁぁい!」
「カサブランカ」にいた他の客が豹変した。焦点の定まらない目のままジリジリと4人に近づいてくる。
「皆さん、どうされましたか?」
「どうされました「蚊」、だ!」
焦点の定まらない目で「蚊!」「蚊!」と叫ぶ人々。
「どうしちゃたのかしら?」
「こ、怖い!」
「みんな!こっちこっち!」
と幸田さんの叫び声の方を見ると裏口のドアを開け3人を呼んでいる。慌ててカウンターの中へ逃げ込み「蚊」と叫ぶ人達に捕まる前に、なんとか外へ逃げだした。ドアを閉めても「蚊ぁぁぁ!」という叫び声と共にドアがものすごい勢いで叩かれグラグラしている。
このままでは、あの人達が外に出てしまう!
「だ、誰かつ……通報!」
「そ、そうだね」
とスマホを操作しようとした時、
「大丈夫だ!」
との声が店内から聞こえ、
ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン
と音がした。
「い、今の音って噂の?」
「かもしれない……」
そっと江藤さんがドアを開ける。
「危ないですってば」
と言いつつ共にのぞく越前さん。2人の取材魂に火が付いたようだ。それをドキドキしながら見守る幸田さんと砂沼さん。恐る恐る覗いた2人が見た光景は白目をむいて倒れている客達とふくよかボディだった。
「ほ、骨皮筋衛門さん!キャー!」
思わず、歓喜の声が江藤さんと砂沼さんから漏れた。
「かっけえぇ……」
幸田さんと越前さんは惚れ惚れと筋衛門を見つめる。
「大丈夫でしたか?」
と軽めの秘技でその場を収拾した骨皮筋衛門は肩に被疑者を乗せながら4人を気遣う。
「いったいどうしちゃったんでしょう?」
といぶかしがる江藤さんに、
「蚊ーニバルの仕業です」
と筋衛門が重々しく答えた。
「蚊-ニバルだって!筋衛門さん!詳しいお話をぜひ!」
と前のめりに話す越前さんにニコリとほほ笑み、
「砂沼さんに後で警察から感謝状が届きますから、そちらを「笑顔デスカ♪」で取り上げてください」
と言い「カサブランカ」のドアから外に出ていった。
「筋衛門が普通にドアを使って外に出た」
「なにかおかしい?」
「だって筋衛門の代名詞は「すっと姿が消え」でしょ?」
当たり前の出来事に混乱した江藤さんと越前さんは動くのが一足遅くなり、筋衛門の姿を見失ってしまった。
「もうちょっとで骨皮筋衛門の秘密に迫れたのに」
「蚊-ニバルの真相に迫りたかったなぁ」
悔しがる江藤さんと越前さんを、まあまあと慰める幸田さん。その時、
「骨皮筋衛門……ステキ……」
とのんびりとした砂沼さんの声が聞こえ、3人はようやく現実に戻った。4人が笑いながら店内に戻ると軽い秘技を受けた客達が
「あれ?なんで倒れてるの?」
「店、すごいことになってる!」
と焦った声を出していた。「蚊ぁぁぁ!」と叫んでいたことは覚えていないらしい。「蚊」に脳を支配されたのは一時的なものだったようだ。
「みなさん、大丈夫ですか?今カサブランカブレンドをサービスしましょうね」
と幸田さんが明るく声をかける。
「え?なんで?」
「ラッキー♪」
ブレンドサービスに喜ぶ客に向かって、
「みなさん、テーブルとイスを戻すの手伝ってくれます?」
と何事もなかったかのように砂沼さんが声をかけた。こうして「カサブランカ」は「蚊サブラン蚊」にならずに済んだ。「カサブランカ」が落ち着いた喫茶店として営業を再開した頃、俺と筋衛門は取調室にいた。
「蚊ぁぁぁ……」
被疑者の異様な姿に俺はゾクリとした。
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