365日小説

『2つの1つ』(11月18日・「雪見だいふくの日」)

「あちゃー」

 電車を降りて駅前の駐輪場に行くと、自転車が10台くらいドミノ倒しになっていた。わたしのママチャリも、青いマウンテンバイクの下敷きになって苦しそうにしている。

 今日は、散々な一日だ、と顔をしかめる。

 ずっと温めていた企画がポシャるし、急な修正仕事が入ってスケジュールが崩れるし、上司は現場のことをわかってる筈なのに新しい仕事を押し付けてきた。

 同僚のフォローで謝りに行った

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7

『鬼のつかの間』(11月17日・「将棋の日」)

 パチン……パチン、と乾いた音がする。

 本気で戦っているのに、その音はあまりにも静かで、だからこそ、恐ろしい。

「なんで土曜日なのにやってるわけ?」

 狭い部室には長テーブルが並び、制服姿の若者たちが、2人1組、真剣な表情で向かい合っている。

「なんでって、みんな好きだからじゃないの?」
「昔は違ったじゃないか」
「昔からルールは変わらないと思うけど」

 そりゃルールは変わらないさ、と

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8

『私のエースパイロット』(11月16日・「幼稚園記念日」)

 子供は私じゃない。
 私の意思とは無関係の生き物だ。

 血を分けたし、お腹の中で育てたのに、生まれてきた子は私ではない。私の中から出て来たのに、私ではない。これはなんだか不思議な気持ちだ。人類の神秘! みたいな話ではなく、変な感じっていう話。

 出産するまでヒヤヒヤしたし、出産は手を繋いでいてくれた旦那に「なんか協力してよ!」と初めて怒鳴ってしまうくらい大変だった。

 生まれてからも目まぐ

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明日もがんばります!
10

『僕はかけら』(11月15日・「七五三の日」)

「お前、全部笑ってないな」

 壁にかかっている写真を見て、加賀美辰彦はハハッと笑った。

 リビングの入ってすぐのところにある、サイドボードの上には電話機が置かれている。電話機の上の小さな壁スペースには、家族の写真がたくさん掛かっている。が、それは当たり前の風景だったので気にかけたことがなかったし、子供の頃の写真なんて改めて見ていなかった。

 写真に良い思い出はないから、そうかもしれんなと思い

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11

『宇宙からの落し物』(11月14日・「いい石の日」)

「やめてよ! それは大切な石なんだ!」

 僕がお願いをすると、それを待っていたかのように、大樹は意地悪く表情を歪めた。お願いする僕の姿を見て、楽しんでいる。彼の取り巻き男子二人も、くすくすと笑っていた。

 大樹は小学六年生にしては体格が良く、運動ができて成績も良い。クラスの委員長もやっているから、先生からは「良い生徒」と思われている。騒がしいけどそれは元気な証拠、と大人は思っているだろう。

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10

『飛べなくても、あの場所へ』(11月13日・「飛べない鳥の日」)

 会社からの帰り、電車に揺られながらニュースサイトをチェックしていたら、友人の名前が目に飛び込んできて、ぴたりと指が止まった。

『New Ginza Projectに、気鋭のアーティスト与田正臣氏を起用』

 与田は、僕の美大時代の同級生だ。

 心臓がばくんと跳ねる。

 どきどきというよりも、胸騒ぎがした。嫌な予感だ。

 おそるおそる記事の見出しをタップする。

 内容は数年後から行われる

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お楽しみいただけて幸いです…!
17

『新しい皮膚、新しい自分』(11月12日・「いい皮膚の日」)

 俺には、新しい皮膚がある。

 自分の全身を覆っていて切り離せないものだ。

 朝起きて、制服を着て、イヤフォンをはめてロックンロールを聴く。ぴたっと音楽が体に張り付く。こいつのおかげで何が起こってもノーダメージで、毎日を過ごすことができる。

 雷に打たれたことはないけど、ロックンロールに打たれた衝撃ならわかる。それは、生きることを俺に教えてくれた。いじめられっ子で周囲の顔色ばかりを気にしてい

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8

『初めてのポキポキ』(11月11日・「ポッキーの日」)

 誰も来なかったらどうしよう。

 駅の改札前で、スマートフォンを握りしめて、30分待っている。冷や汗が流れ、ハンカチで拭った。

 子供の頃からわたしはうまくおしゃべりをすることができなくて、いつも黙ってしまうタイプだった。話を切り出すのが苦手だし、相槌を打っても、次の話題に繋げることができない。

 歳を重ねて、高校生になったら変わるかもしれないと思ったけど、全然変わらなかった。相変わらず、引

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『深夜の壊れたメロディ』(11月10日・「オルゴールの日」)

「え? 浮気してなかったんですか?」
「はい、浮気してませんでしたよ。何度質問されても、答えは同じです」

 そう報告をすると、依頼人の曽根川美帆は腕を組み、神妙な顔をした。訝しげな視線で、調査報告書と俺を交互に見ている。浮気調査の仕事は、黒なら話が早いが、白だとこうやって疑われてしまって辟易とする。

「この一週間調査しましたけど、ちゃんと会社で働き、残業して、まっすぐご自宅のマンションに帰って

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11月9日は「119番の日」(365日小説)

 僕であったものが燃えていく。

 ほっとするけど、胸騒ぎもするし、ワクワクもする。

 めらめらと燃える、とよく表現されるけど、揺れている炎を見ていると、本当にめらめらという表現がよく似合っていた。

 深夜、閑静な住宅街にある近所のゴミ捨て場、ゴミでぱんぱんに膨らんだゴミ袋は、最初は火を嫌がるように縮んだけど、ぽっと火が着いてからは何かの生き物みたいに大きくなっていき、めらめらと燃え上がった。

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