日本人の英語力はきわめて低い。アジア諸国の中でも、最低位に近い。 しかも、私の印象では、時代の経過とともに日本人の英語力は低下している。学生を見ていると、それを痛感する。
丸暗記した教科書の内容は忘れてしまったが、シェイクスピアはその後何度も繰り返しているので、忘れない。丸暗記するには、内容が自分にとって魅力的であることが重要だ。
そして、政治家の名演説を丸暗記しようとした。ところが、私が高校生のときには、音源を見つけるのが大変難しかった。その当時発明された「ソノシート」でケネディの就任演説を手に入れたときは、宝物を見つけたような気分になった。
仕事に就いている人であれば、自分の専門分野に関連した文章やニュース記事がよいだろう。メールを書く機会の多い人は、相手のメールを丸暗記すればよい。専門用語や専門的な表現については、専門分野の教科書や論文を覚えよう。
私はresilientという言葉をどうしても覚えられなかった(「柔軟な」「弾力性のある」という意味)。ところが「ホーム・アローン」という映画の中で主人公の男の子がChildren are resilient.(子供は何にでも対応できる)と言っているのを聞いて一度で覚えてしまった。
繰り返そう。孤立した単語や、短い文章を覚えるのは、難しい。一見して無駄に思われるが、ストーリーがある文章を丸暗記するのが、最も簡単だ。
文章を丸暗記していれば、個々の単語の意味を苦労して覚えなくても、文脈に位置づけて、自然に覚えられる。前置詞の使い方なども、自然に習得できる。
したがって、重要なのは、対象にいたる道筋をつけることだ。まとまった文章なら、いったんきっかけが見つかると、それを手がかりに、いもづる式に記憶が出てくる。
シュリーマンは、「学校でとられている方法はまったく誤っている」という。「ギリシア語文法の基礎的知識はただ実地によってのみ、すなわち古典散文を注意して読むこと、そのうちから範例を暗記することによってのみ、わがものとすることができる」。
本書が提唱する丸暗記法は、This is a book. をひとかたまりのメッセージとして、そのまま受け入れるのである。日本語に置き換えることは一切しない。その代わりに、人が本を指さしている姿を想像することにする。