くま式

キリンの親知らず

「キリンにも親知らずはあるの?」
 娘の不意打ちに私は固まってしまった。
「お父さんキリン好きでしょ? 知ってる?」

 確かに私はキリンが好きだ。普通の人よりは知識も多いと自負している。しかし、「キリンに親知らずがあるのか」なんて考えたこともなかった。私は答えに困ってしまい、トイレに逃げてググろうかとも思ったのだが、ふと思いついてこう提案してみた。
「じゃあ、お休みの日に動物園に行って確かめてみ

もっとみる

ジラフ イン ザ ボトル

「ユーリがいなくなったぁ?!」
 いましがた僕が口頭でした報告に、課長の大きな声が事務棟中に響き渡った。部屋にある書類棚のガラス戸が震えるほどだ。皆びっくりしてこちらを見ている。
「飼育小屋の中にもいないのか?」
「本当に探したのか? またエリアの端っこにいて見落としたんじゃないのか?」
「あんな大きな動物がいなくなるわけ無いがだろうが!」
 課長がつばを撒き散らしながら続け様に僕に言葉をぶつけて

もっとみる

からあげ海産

総理がホテルニューオータニでからあげの会を開いたことが政治資金規正法違反にあたり野党の追求を逃れきれず解散に至った。メディアは「からあげ解散」と大々的に報じた。どうでもいいことばかりとりあげられるから政治に興味を失った。嘘、始めから興味ない。

車の中で寝ていたらラジオで「しあわせなら手をたたこう」が流れてきた。手だけじゃなくて足鳴らして肩叩いてほっぺ叩いた。ほっぺ叩くのはヤバくない?とか思ってし

もっとみる

知らないくせに!

一昨日から少女はマスクを三つ必要とした。二つでは足りなくなってしまったせいだ。薬局で右用のマスクと左用のマスクをレジへ持っていくのはひどい辱めを受けているような気持ちだった。今度からは早めにネットで買おうと心に誓う。

朝起きて鏡を見るのは憂鬱だった。ぼさぼさの髪よりも腫れぼったい目よりも耳の近くまで大きく裂けて笑っている口が苛立たしい。毎朝自分に嘲笑われているような気持ちになる。

始まりは左上

もっとみる

【投稿企画】ショートショート大募集

著者2名、編集1名、デザイナー1名でチームを組み、2日間で小説を執筆し、電子書籍としてリリースするイベント「NovelJam」。

そこでチームとして「くま式」が結成、2冊の小説が11月3日にリリースされました。

『多頭少女(左から三番目)の憂鬱』(著:式さん)

『失せものは夕凪に』(著:戸森くま)

『多頭少女(左から三番目)の憂鬱』では「親知らず」が、
『失せものは夕凪に』では「失くしもの

もっとみる

【ショートショート】痛いときは痛い

                            著:戸森くま

 私の歯は虫歯になりやすいので、高校生の時、かかりつけの歯科医院の先生から親知らずを早めに抜くことを提案されました。
 最初の二本は特に問題なく抜けたのですが、三本目(確か、右下の歯だったと思います)を抜く際に「前よりも麻酔が効いてないな」と感じました。私の表情に気付いた先生は「あ、まだ痛いかな」とすぐに麻酔を追加してくださり

もっとみる

【ショートショート】交番と落し物

                             著:式さん

「あの、落とし物です」
 若い女性が命の落とし物を、交番に勤務する俺に差し出した。
「また会いましたね」
「えぇ、最近よく命が落ちていまして」
 二十代から三十代の男性の命。俺が命の落とし物の情報をリストに書き加えている途中で、彼女は「それでは」と言って立ち去った。
 彼女はこれまでに何度も命の落とし物を交番に届けにきた。最初

もっとみる