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メチャクチャ真剣に怒られた夜

もう15年になるだろう。
ぼくは漫画を描いている。

もともと
漫画を描こうとしたのは
15のころで。

『スラムダンク』に
ハマったからだ。

(登場人物の)
流川のようなヤツを
主役にした漫画を
描きたいと思ったのがきっかけだった。

学生時代の友人の多くは

「オマエの漫画は凄いよな。
絶対にプロとかになれるだろ」

そう言ってくれた。

それを信じて、

描き続け

描き続け

描き続けた。

で、気づいたら
30になってた。

でも漫画の世界は厳しく。
受賞経験は一度もなく、
漫画で稼げるレベルにはなかった。

漫画の世界には
「25歳がターニングポイント」
という噂もあって、

それ以上になると
「成長が見込めないので
見込みがなくなっていく」と言われていた。

それもあって、30の自分は
すっかり情熱が失せていた。

考えると、
15のあの頃の方が
情熱があったんじゃないか、と
思ってしまうほどで

今ではバイトもしていて
漫画は既に
単なる趣味のようなモノになってた。

「もう、マンガは諦めるか……」

そんな時に
先輩のTさんから電話があった。

「元気か?」

「えぇ、まあ」

電話で他愛もない話をして、
Tさんと会うことになった。

Tさんは自分とは違う。
週刊少年Mと
週刊Mに連載をもつ
売れっ子漫画家だった。

彼はぼくよりも漫画歴は1年浅い。
漫画をはじめた当初は
ぼくが彼に漫画を教えていたくらいだ。

なのに、T賞を受賞した後、
すぐにデビューし、

そこからはグングンと
漫画が魅力的に変化し
人気漫画家になっていた。

もはや、自分の方が
以前から漫画を描いていた、とか
漫画を教えたのが自分だ、なんて
口が裂けても言えなかった。

数日後、
新橋の飲み屋「U」に向かっていた。

Tさんとよく行った店だ。

店に入ると、
ぼくの顔に気づいたTさんが
こっちだ、こっち、
というような
感じで手を振った。

話をしてすぐに思ったけど
やっぱり、Tさんといるのは
居心地がいい。

人気漫画家なのに
以前と同じように
ぼくと接してくれるからだ。

「で、最近は何を描いてるの?」

唐突にTさんはぼくに聞いてきた。

ぼくが言いづらそうに
黙ってると、
さらに続けて言った。

「スポーツものとか
描いてたじゃん。

描いたヤツ
出版社に持込んだり
してるんだろ?」

黙っていた。

漫画はずっと描いていたけど
漫画でお金をもらえるような
自信がぼくにはなくなっていた。

「Tさんのように
才能ないですから……」

そう小さく言った。つづけて

「ぼくにとって
漫画は趣味のようなもので……。
お金をいただけるとは
思ってないので」

ぼくのその言葉を聞いた瞬間、
笑っていたTさんの表情が変わり、
マジメな口調でこう言った。

「だから、ダメなんだよ」

「えっ?」

「だから、ダメなんだって
言ってるんだよ」

ぼくは黙っていた。
Tさんは続けた。

「ダメだよ。それじゃあ。

お金をもらうんだよ。

お金を。

お金をもらうっていうのは
気楽なもんじゃないよ。

オレだって、きついよ。

でも、きつい中、
そのお金にふさわしい
漫画を描こうとするから、
それだけの漫画が描けるんだ。

趣味で描いてる?
何、言ってるんだ。

お金はいらないなんて、
言ったら、

いつまで経っても
お金がもらえる漫画なんて
描けないぞ。

それじゃぁ
趣味にふさわしい、
価値のない漫画しか描けない。

だから、お金だよ。
お金をもらうことを考えろ。

読者に
お金を払ってもいいと
思ってもらえる
漫画を描くことを真剣に考えろ」

いつも笑っているTさんが
顔を赤くして、
真剣に怒るように言った。

怒ってしまったことを
気にしていたのだろうか、
その後は、
いつも以上に笑い話ばかりしてくれた。

でも、
そこまでTさんが怒ったのは
あの時がはじめてだった。

あの時の
Tさんの言葉のおかげで

その後、ぼくは仕事として
漫画が描けるようになったのだと思う。

新橋の街を歩く度、
あの日、あの時のことを思い出す。

今回の話は
猫春雨さんという方の投稿を
もとにぼくが創作した物語。

投稿は次のものでした。

先日こんなツイートが。
「趣味でやっているからお金を取るなんて」に対し、その先輩漫画家はこう応えました。
「だからお前の作品は金を出してでもほしいと思ってもらえるレベルに到達しないんだよ」
この言葉が私の胸にも響いています。

これを見た瞬間、この物語が頭の中にパーっと広がりました。
で、とても書きたくなったのが今回の話です。
(ぼくは漫画家ではありません)

皆さんの何らかのヒントになれば、嬉しいです。

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