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冬の秋田と岩手(花巻)、アウト・オブ・民藝から複眼的な視点を得る

国内で東北と北陸はご縁があまり無くて、秋田と岩手はほぼ行ったことがありませんでした。今回の目的は美術作家・遠藤薫のリサーチ同行、秋田公立美術大学や大学が設置したNPO法人アーツセンターあきたで働く知人に会う、NPOが主催し知人が関わる公募企画「アウト・オブ・民藝」を見に行く(レビューも書くことに)、NPOが運営計画づくりなどで携わる秋田市文化創造交流館(仮称)や秋田の文化政策の状況の勉強など。人は理由が3つくらいになると腰をあげるらしいですが、なんだかんだ5つくらいになってしまい食や観光的な動きも入れると4泊5日びっしりな旅程となりました。

民藝をめぐる過去へ複眼的に向き合う「アウト・オブ・民藝」

中村裕太×軸原ヨウスケ×宇野澤昌樹の「アウト・オブ・民藝|秋田雪橇編 タウトと勝平」は、誠光社が書籍化した『アウト・オブ・民藝』をある意味で象徴する、民藝をめぐる相関図をローカライズしたものを軸として構成した展示の秋田版。つい先日までアーツ前橋で行われていた企画「表現の生態系」でも相関図の群馬版とそこで扱われている物を実際に見せるということが行われていました。

秋田では同様のローカライズ展開はもちろん、1935,1936年に秋田を訪れたブルーノ・タウトと彼を案内した地元の木版画家・勝平徳之のテキストが当時書いたテキストのクロスポイントを丁寧にひらいて提示するという試みも行われていました。相関図が民藝運動立ち上がり当時の日本のいわばデザイン界隈の様相を水平的に示していたとすれば、その状況のなかで、世界的な建築家であり、知られざる日本の魅力を紹介していたタウトが秋田にどのように出会っていたのか。言わばグローカルにグッとくる風景を深掘りもして紹介するというアプローチ。秋田の民具コレクター・油谷満夫による油谷これくしょんも使いながら、立体的に見せてくれる構成になっていたのも素敵な着地でした。

それは、ささやかながら資料類から見出せるファクトベースのリサーチ成果展という体裁をとりながらも、様々な事物から「これはこういうことだったのではないか」という想像力にも基づいたプレゼンテーションが機能していたからではないかと思います。これは史実化されにくい「アウト・オブ」の部分をどのように扱うのかという課題へのひとつの応答とも言えるのかもしれません。

例えば「かまくら」という建築・デザイン的風景と一応とらえられるものについての眼差し。レビューも予定しているので詳しくはそちらに譲りますが、このトピックをあえて選び、関連する2人のテキストを抜き書きし、その風景と直接は関係しなくてもそれに共振する民具/民藝品を合わせて展示するということをしているのです。これはささやかですが彼らなりに文脈を編み、紡ぐという表現行為でもあると思います。

そしてそもそも、彼らはアウト・オブ研究者とも言える存在。いい意味で部活的に活動が行われているのです。だからこそのびのびと物事をとらえ、表現することができる。その可能性をここにみたような気がします。

アウト・オブ・民藝|秋田雪橇編 タウトと勝平
会期:〜2020年5月10日(日)
会場:秋田公立美術大学ギャラリーBIYONG POINT(ビヨンポイント)

秋田公立美術大学とアーツセンターあきたの社会連携事業

2013年にできた秋田公立美術大学(前・美術工芸短期大学)と、大学の社会連携事業部分を担うため2018年にできたNPO法人アーツセンターあきたの活動に関しても、複数の関係者のお話を聞いたり、関連施設を案内いただく時間をつくることができました。

美術大学ってどうしても、その地域の一般的な人々からすると専門性が高くてうきがちな存在になると思うのですが、他の大学と同様に地域にも貢献せよ、社会連携もしましょうというのは命題みたいで、それに取り組みやすくするためにNPOができたようです。秋田駅前のサテライト施設、地元テレビ局社屋内のギャラリー運営などもやっていて、アウト・オブ・民藝は後者の関連企画。

そして、官民問わず大学にいろいろな相談が行く流れがただでさえもあると思うのですが、社会と関わるアートが盛り上がりつつあるこの時節。秋田市をはじめとする自治体の文化事業にNPOが関わるという場面が次々と出てきているようで、気になっていた秋田市文化創造交流館(仮称)の運営計画づくりなどがその例のひとつです。自治体のトップダウン型文化事業は進め方があやうい場面が多いのはどこも同じですが、そこをうまくマネジメントできればなかなか面白そうな芽が見えてきそうなフェーズだとみました。

NPOはまだ3年目なのだけれども、これまで公私とも節々のタイミングでお世話になってきた美術家の藤浩志さんが理事長および大学教授の立場で、ノマドプロダクションで企画運営を担っていたTokyo Art Research Lab講座にも参加していたMさんが事務局長という立場で奮闘している様子でした。2人が価値観を共にしながらも、指向や性格をいい意味で異にしているので、それぞれの言葉ととらえ方で今の状況を共有してくれたことで、とてもリアルにいまの秋田の状況をとらえることができたように思います。

NPOのスタッフや元スタッフにも知人がいましたので、それぞれから見えている風景も少し聞くことができ、小さく新しいけど、大きく続いていきそうな組織に求められる運営体制などについても考えさせられる機会になりました。

時代の流れとして、芸術祭・アートプロジェクトが興隆した後に、縮小社会へ向けてアートセンターやそういった施設の運営を部分的にでも担うことのできるNPO組織などの役割が益々重要になってくるだろうと思っています。

(大学、NPO、アウト・オブ・民藝関係)

美術作家の視点でまわる秋田、山形(花巻)

今回、タイミングがうまくあったので、遠藤薫が夏に発表する作品のために全国をまわるプロジェクトのリサーチ同行も一部かねた旅程になりました。また3月あたりを目処に公開予定のウェブサイトができた時にでもエントリをたてたいと思いますが、2,3人の同業者とともに企画協力の立場で関わっています。

といったわけで、自分だけだったらあまり見て回らなかっただろうなという場所にも。彼女がここには行きたい、とあらかじめ決めていた場所もあったし、僕よりも彼女とつきあいが長いNPOスタッフのFさんや、岩手ではEDIT LOCAL LABORATORYメンバーのKさんが僕らの予定に合わせていろいろと案内をくださいました。

自分も地元や縁のある場所へ人を案内すること、自分が案内されることはしばしばありますが、今回はあくまで同行。限られた時間の中でFさんやKさんが提案してくれる場所の中には、やはり彼女にとって「これこれ!」という場所もあり、その様子を側で楽しませていただきました。自分がわりとその日の予定くらいは調べてから動くタイプということもあり、即興的、主感的な判断が呼び込むような出来事も印象的でした。

といったわけで今回は、どこへ行くという判断も含めてその多くを人に委ねたり、人の視点を聞く割合が多めの遠征となり、ふだんよりも複眼的な視点を得られたような気がします。そしてそう、タウトにとっての勝平のように、我々に必要なのは、そこへ導きつつ寄り添ってくれる人々なのです。

KITAKITA(北秋田)

矢田津世子文学記念室(五城目)

土崎みなと歴史伝承館(秋田)

さかいだ陶器店(秋田)

八橋油田(秋田)

減反画廊(横手)

マルカンビル大食堂(花巻)

北上川河川敷(花巻)

高村光太郎記念館(花巻)



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