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お嫁に行く動機と母との契約

「このミキサーめっちゃ気になってんねんな。」

「わかる、絶対コレよな」

「高いねんなー。」

「ほんまそれな」


寂れかけた町を何とか、かんとかして盛り返そうとしているショッピングセンターの3階にある、その館には似つかわしくないようなオシャレな雑貨屋さんで、オーブントースターでいうバルミューダ的なミキサーを目の前にして、母との会話。たしか、スターバックスで使われているミキサーだった気がする。バルミューダは暫くして読めるようになったけれど、そのミキサーのメーカーは私の中ではまだ、なんとかかんとか。ってメーカーでしかない。Vで始まったと思う。独り暮らしの私がもし、そのミキサーをもっているとしたら、おそらく「新しく家族が増えました♡(猫)」みたいな状態になる気がするから、あまり良くないと思う。ということは母には言わなかった。憧れている状態でその場は凌ぎたかったのもあったりなかったりする。現実には戻されたくない。(笑)

衝動買いをしない代わりに「絶対的に良いもの。」を選出するのがきっとうちのルールだろうと思う。何かを「買う」にしてみても、それは「選択」のひとつに他ならない。と今は思う。



ミキサーの種類にはやっぱりグレードあって、お店の人が言うには「全自動でしてくれるやつ」「ステンレスかプラスチックか」が値段の差らしい。必要なかったとしても、一生分のミキサーなら「ステンレスの全自動やろ」という私の意見に対して、母は「場所をとらない小さいやつやな」と言った。人生歴25年の差はこんなところでも生まれる。私が無事、人生50年を生きているとしたら、きっと母と同じことを言っただろうな。とも思った。お店の人は丁寧に「来月に使い方の説明会を兼ねた店頭イベントがあるので、是非!」と誘ってくれた。

店の敷居を跨ぐくらいに、母は「こうしよう!あんたが結婚したら結婚祝いに買(こ)うたるわ」と、今思いついたかのようなセリフを投げてくれた。その気遣いに母が普段どれだけ、どのくらい私の未来を心配しているか。ということが感じ取れたし、世間でいう「ちゃんと」をしてない自分でごめん。とも思った。「絶妙なラインの取引やな。でも確かに一番具体的で現実的やな(笑)」と返答しておいた。

母は昔から絶対に「勉強したら?」と言った類の言葉を私には向けたりしない。根っからのいい子ちゃんの私が、言うことを忠実に聞いてくることをよく知ってるからだと思う。今まで結婚という二文字の言葉を一切今してこなかったのに、今回実家に帰ったら刷り込むかのように芸能人の何とかさんも、誰さんも結婚したね!と声をかけてきたから、どうしたのだろうと思っていたのだけれど、昨日、独り暮らしの布団に入った時に「独りで踏ん張るのにも限界ってあるのかもしれない」とふと思ってしまって、例えば誰かがおはようと声をかけてくれたりすれば素敵なんだろうな。とも、人生で初めて他人事ではない感覚で考えた。
そんな私の微妙な変化を彼女は、やっぱり私より先に察知できるのかもしれない。


母の戦術によって私がそう感じたのかもしれないし、無意識でそう感じていた私に母が気が付いて具体的に話したのかもしれない。それはどんな切り口で考えても後の祭りだけれど、何しろ「選択」は「絶対的にいいもの!」しか、私の中にも母の中にもないことはブレることがない現実で、ミキサーを手に入れるまではまだ、ハードルがいくつもあるな。と思った。


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