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プロジェクトスケジュール管理に真剣に向き合おうとしているあなたへ - 心がまえ編 -

2021.11.18 初版

「書類がまだ揃っていないみたいで、出荷は一週間遅れるようです。」
「お、おぉう、そうか・・・(あれ、先週の会議でも一週間遅れると言ってなかったっけ?大丈夫なの・・・か?でもまぁ担当者も特に問題があるとも言ってないし、大丈夫なん・・・だろう。というかこの部品いつまでに必要なんだ?今さら聞けないし・・・みんなわかってるんだよ・・・な?)」

各部門のリーダーを集めて実施している毎週の定例報告会議は、既に一年以上が経過しており、報告もマンネリ化している。正直言って、内容も報告のための報告となっており中身がなく、参加者もなんとなく聞き流している。状況報告されても、自分たちがいま計画に対して遅れているのかどうかもわからず、意見のしようがない。皆さんもマネジメントをするなかでこういう経験はありませんか?

「今週中に図面を仕上げる予定だったのですが、本社の研修が入ってしまいまして、、、来週でも大丈夫ですか?」
「そ、そうか、、、研修が入ったのか、、、来週でも大丈夫だと思う・・・よ?(・・・残業して仕上げる必要はないのか?でも最近遅くまで残ってるみたいだし、これ以上やると45時間超えちゃうか?超えたらたしかダメなんだよなぁ・・・?)」

本当は残業して間に合わせてほしい。しかし、本当にそこまでして急ぐべきなのかわからないため、部下に対して強く指示することができない。

「サプライヤーから納期回答がきたのですが、こっちの要求と合わなくて、、、。特急料金なら1ヶ月早められるそうです。どうしましょうか?」

この特急料金を受け入れるべきかどうか、スケジュール管理をなしに判断できるでしょうか。

一方スケジュール管理をすることで、プロジェクトメンバーからはこんなにいい反応が返ってきます。

「自部門の作業がいつごろ発生するのかわかるので、他の作業と調整がしやすい」
「いちいちプロジェクトに聞かなくても状況が分かるので助かる」
「遅らせてもいいタスクが明確なので負荷が調整しやすい」
「その作業がクリティカルパスだったのか!?そっちを頑張ろう」

スケジュール管理はしなくても構いません。時はながれ、最後はなるようになります。いよいよやばくなったら誰かが必死にフォローをして、なんとか形にするので、何となくうまくいったような錯覚に陥ります。くりかえしますがこれは錯覚です。
本当に成功していれば、計画通りの利益が出て会社の業績に貢献しているはずでした。必死になってフォローした人が、過労により身体を壊すこともありませんでした。プロジェクトのカオスな状況を見て幻滅した若手が、他部門へ異動願いを出すことはありませんでした。再雇用の安い給料をいとわず、後輩たちのために協力してくれたベテラン技術者が、がっかりした気持ちで会社を去ることはありませんでした。

1.基準計画の作成が最初で最後の一番大きな山

スケジュール管理に取り組む気持ちになったあなたは、早速エクセルを開きガントチャートを引き始めます。近しい人のアドバイスをもらいながら、なんとか全体像を描くことができました。できたスケジュールをプロジェクトのメンバーに展開したところ、猛ツッコミをうけます。

「こんな短いスケジュールできるわけないだろ」
「この日程にコミットした覚えはないよ」
「うちの部門の作業抜けてない?」
「っていうかスケジュール成り立ってなくない?」

スケジュール管理を始めた人が最初に受ける洗礼です。あなたはここで心が折れそうになりましたが、各部門の意見を一つ一つ聞いて、調整することに踏み出すことにしました。

あなたが作ったスケジュールを見ると、設計工程は作業が細かく書き出され細分化されていますが、製造工程のチャートがほぼ一本線になっています。これはあなたがプロジェクト管理を始める前に設計部門にいて、その工程に詳しいからです。製造工程のスケジュールを細分化し正しい情報を入れるためには、製造部門の協力が必要です。

製造部門に対してスケジュールの細分化をする依頼をメールで送りましたが、一向に返信がありません。督促すると「図面もないのにスケジュールは立てられない」「他の作業で忙しい」といろいろ理由をつけ、出してくれそうにありませんでした。他の部門も同じような反応で、情報はいっこうに集まりません。

「なぜこんなに協力してくれないんだろうか」

それもそうです、今までスケジュールなんて作らなくても、仕事はできていました。設計は製造と、製造は品証と、品証は出荷部門と、担当者間で予定を共有しながら、仕事はできていたのです。まだ物もできていない、図面も出ていない状況で、なんでスケジュールを立てないといけないのか。いやむしろ立てられないだろう。余計な仕事を増やさないでもらいたい。これがメンバーの正直な気持ちです。

それでもあなたは踏ん張りました。各部門の担当者の机を訪れて、スケジュールの必要性を説明することで、ようやく理解が得られ情報が出始めてきたのです。

スケジュールが集まってくると、新たな問題に直面します。スケジュールをエクセルで出してくる人、メールの文面で書いてくる人、MS Projectで出してくる人、メンバーから出されるフォーマットはバラバラです。業を煮やしたあなたは、提出フォーマットを統一することにしました。あなた自身、最初こそExcelを使っていましたが、途中からMS projectに切り替えたため、各部門のメンバーにもMS projectでスケジュールを出すよう指示しました。MS projectはOffice標準ソフトではありませんが、各部門に1ライセンスくらいは持っているだろうと考えたのです。ところがその指示を出したとたん情報が出てこなくなりました。実態としてはほとんどの部門でMS Projectのライセンスを持っておらず、あったとしても担当者がまともに触ったことが無いため、それがスケジュールを出す上でのハードルになってました。あなたはフォーマットの統一を諦め、指示を取り消しました。

いつまでたってもスケジュールを出してこない担当者がいます。度重なるフォローをしましたが「今週は忙しい」「出張で不在だから」と言を左右にし、いつまでも出てきません。こういう場合は、本人も何から手をつけていいのか、分かっていない可能性があります。もう少し噛み砕いで指示を出します。まずはじめにやるべきことの項目出しをしてもらいましょう。そのリストをもらったら、あなた自身の理解をもとに、タスクの前後関係のつなぎ合わせをします。また必要期間を適当に入れていきます。これで一応スケジュールの形にはなったので、それを担当者へ返しレビューしてもらいます。実態からかけ離れた、ありえないスケジュールになっているはずなので、担当者からのコメントを引き出すことができます。ここまでやらないとスケジュールは出てこないのです。

ようやく全ての部署からスケジュールが集まりました。これからあなたは、出てきた情報を一つのスケジュールとしてまとめます。部署間のタスクの前後関係の繋ぎ込みができていないので、その作業も必要です。各部署がどういうインターフェースで仕事を流しているのか、理解する必要があります。こうして整理してみると、所掌範囲が曖昧だったり、情報の流れが寸断されている部分も見えてきます。そういう部分は、あなたが積極的に入って調整する必要があります。

このように、調整に次ぐ調整により出来上がるものが基準計画です。これがプロジェクトスタート時の共通認識になります。

2.継続できるペースでスケジュール管理をする

基準計画を完成させたあなたは、一番大きな山の頂上まで登ることができました。これからはアップダウンのある尾根づたいの道です。山の頂上をめがけて一生懸命登ってきた道に比べると、平坦な道や下り坂も出てきます。トラブルが起きた時は、上り坂だと思っていてください。プロジェクトが順調に進んでいけば暇になることすらあります。プロジェクトによっては先の見通しが難しいもの、延々とスケジュールが遅延していくものもあるので、そういう時でもモチベーションを切らさずに継続する力が重要になります。

ここからは本格的にスケジュールの進捗を管理していくフェーズとなります。意気込んでたくさんのことをしたくなりますが、同じペースで継続できる範囲に留めてください。例えばで目安を挙げると、一年間のプロジェクトの場合、進捗フォローの頻度は週に一回程度、全体スケジュールの見直しと発行は月に1回程度とします。フォローの頻度は週に1回でも、この間に情報収集、リスクの洗い出し、対策の立案と、やることはたくさんあるので、あっという間に次のフォローアップになります。あとはプロジェクトの状況によって頻度を変えたり、リスクの高いタスクだけを頻度をあげてフォローするなど、調整してください。特に注意が必要なのは、Microsoft Project などのスケジュール管理ソフトの中には、リソース管理ができる機能が備わっています。ついついこれを触りたくなってしまいますが、リソース管理をやり始めると、管理側のリソースがいくらあっても足りないのでやらないでください。プロジェクトしてリソース管理をするのであれば、別に人をあてがった方が良いでしょう。

なぜリソース管理は大変なのか?
あなたの上司は仕事の負荷を適切にコントロールしてくれていますか。他のメンバーとのバランスはどうでしょうか。一部の人に負担が偏っていることはありませんか。
おそらくほとんどの会社で、完全にバランスの取れた負荷状況の管理というのは、されていないはずです。これはメンバーそれぞれの業務の処理能力や、業務ごとの難易度が異なるためです。これらを正しく評価できれば厳密に管理することが出来ると思いますが、これは非現実的な話です。そこにかかる管理リソースを賄うだけの余裕がある会社はほとんどなく、またどれだけ費用対効果があるのか、管理側も懐疑的であるためです。

3.計画を見直せるかどうかが、成功のカギ

実際に進捗をフォローし始めると分かりますが、まず間違いなく基準計画に対して遅れます。あまり気にしないでください。私はこれまでプロジェクトが前倒しで進捗するのを見たことがありません。ひとつずつ担当者とコミュニケーションを取りながら、冷静に対処すれば解決できます。具体的なやり方については次の「実践編」で説明します。

「プロジェクトがスケジュール通りに完了することができました」
こういう話をよく聞きますが、その場合、説明の中に前提条件が抜けている場合が多いです。最初からかなり余裕のあるスケジュールを組んでいたか、計画を変更して完了日を遅らせているかです。前者の場合はおそらくスケジュール管理をしなくても問題なかったはずで、あまり難しいプロジェクトではありません。後者の場合は成り行きでそうなった場合もありますが、ステークホルダーと交渉した上で完了日の延長を引き出したのであれば、良いスケジュール管理です。

基準計画からの乖離が大きくなると、次第に何を基準にして遅れていると言っているのか、わからなくなってきます。ここで必要なのが基準計画の見直しです。見直した基準計画にもとづいて、現状の遅れを評価していきます。これができるかどうかが、スケジュール管理を続けられるかどうかの大きな分かれ道なので重要です。多くの人は基準計画の見直しをせず、その結果自分でも意味のない管理になっていることに気づき始め、次第に進捗管理をやらなくなっていきます。

基準計画を見直さない理由は、日本人の性質によるところが大きいと思います。我々は一度決めた計画を変更するべきではないと考えがちです。段取り八分と言われるように、計画段階に非常に多くのリソースを割き、計画通りに実行することを得意としています。一方で計画に時間がかかるため、実際に行動を起こすのが遅い傾向にあります。
正確な計画を作ることは、事前に十分な情報が得られることを前提としています。今や競合相手は世界中の企業となり、その競争の中でステークホルダーからの要求納期も、どんどん短くなっていきます。それに応えるためには、計画段階で情報を十分に集めるだけの時間がありません。さらには、計画しながら実行に移すような体制が求められます。このような体制はアジャイル型のプロジェクト管理と言ったり、コンカレントエンジニアリングなどと呼ばれます。もう少し抽象化した言い方では「走りながら考える」という言葉を聞いたことがないでしょうか。
また現代社会は状況変化のスピードが非常に早いです。計画時点で十分な情報を得られたとしても、すぐにそれが現在の状況に合わなくなり、せっかく立てた計画も使い物にならなくなってしまいます。そのため計画の見直しが必要になります。
以下、少し脱線するので読み飛ばしてください・・・。このように我々は先が見えない中でプロジェクトを前に進める必要があるのです。あなたは真っ暗な部屋の中にいます。そこから出るためには、止まっていてもしょうがないので、前に進むしかありません。しかし何があるかわからないため、前に進むことに大きな不安を感じます。その不安のことを「リスク」と言います。リスクには「見えているリスク」と「見えていないリスク」があります。あなたは今歩いているので、どうやら床があることは確かなようです。次に考えるのは、もし床に穴が開いていて、そこから落ちたらどうしようと考えます。これが「見えているリスク」です。そのため反射的に四つん這いとなり、手で周りの状況を確認しながら少しずつ前に進みます。「見えているリスク」には対策を取ることができます。あなたは四つん這いになりながら慎重に前へと進みます。すると壁に当たりました。壁伝いに少しずつ進んで行くと、その壁が周状になっていることがわかり、自分が小さな穴の中にいることがわかったのです。あなたは初めて自分の上側に注意を向けると、遠くに小さな光が見えます。自分が井戸のようなところに閉じ込められていて、このままでは外に出られず、いずれ死んでしまいます。あなたは不安になりながらも前に進むことで自分の状況を把握し、それまで見えていなかったリスクを顕在化させることができたのです。
話を戻すと、計画段階でいくら悩んでいても、プロジェクトを前に進めない限りはどうなるかわからないということです。ですので、計画をしながら実行に移し、またその結果を計画に反映するという作業が必要になるのです。計画は何度も見直すものという認識を持ってください。

基準計画を見直すことで、あなたは進捗管理に手応えを感じてきます。メンバーもスケジュール管理が実際に役に立つものだと、実感し始めているはずです。急な仕様の変更やトラブルの発生で大変なこともありますが、それをコントロールするためスケジュール管理はなくてはならないものとなっています。これまでもなんとなく仕事ができると思っていましたが、スケジュール管理でプロジェクトの成功確率が飛躍的に上がったのです。

4.最後に。実践編への導入

ここまで読んでいただきありがとうございます。スケジュール管理の必要性や、それがいかに大変でリソースが必要なものであるか、分かっていただけたかと思います。ずいぶん長くなってしまいましたが、改めて整理してみると、この「心がまえ編」が最も重要な内容になりました。スケジュール管理という大きな山に挑むための、あなたの心がまえはできました。

次の「実践編」ではエクセルやMicrosoft Project を使った具体的な方法や、管理を楽にするためのテクニックを紹介します。いくらモチベーションが高くても、こういったテクニック面も知らないと、途中で息切れしてしまいます。険しい山道を軽快に進む方法を知ることで、ゴールまでたどり着くことができます。

近日中にUpするので、「実践編」楽しみにしていてください。

きんたろう



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