「直撃地獄拳 大逆転」はおもしろいぞ、という話

(2021.6.2追記)この映画「直撃地獄拳 大逆転」が6/4〜6/11までYouTubeで無料配信されるそうです。未見の方はぜひ!

この映画を観たのはたまたまでした。池袋の新文芸坐で新春喜劇特集をやっていたとき、母が漫画版を愛読していた『伊賀野カバ丸』の映画版がかかると知り、そちら目当てで行ったときの2本立てが『直撃地獄拳 大逆転』でした。『伊賀野カバ丸』はJAC(ジャパンアクションクラブ)がアイドル路線を模索していた時期の作品で、主人公のカバ丸が黒崎輝、ライバルが真田広之、ヒロインが武田久美子というような陣容で、チョイ役で千葉真一と野際陽子も出ていました。映画としての出来はギャグも含めてまあ普通の漫画原作ものといった印象。

それでせっかくの2本立てだからと観た『直撃地獄拳 大逆転』が滅茶苦茶おもしろかったのです。一言でいうなら「コロコロコミックに連載されたルパン三世」という感じ。はっきり言ってタイトルだけでアクションもの、格闘ものだと思って食わず嫌いしてたらもったいない傑作ギャグ映画です。いちおう前作『直撃 地獄拳』の続編なのですが、前作を観ていなくても楽しめます。というか前作なんかお構いなしにぶっ飛ばしていくのでほぼ関係ない。

ストーリーらしいストーリーはなくて、いちおう前半は「誘拐された子供を助ける」、後半は「慈善活動家を装った悪党から宝石を盗み出す」という筋書きがあるにはあるのですが、その筋書きに沿いつつ一流俳優たちが本気でくだらない、小学生レベルのギャグを演じてくれます。コロコロコミックといえばとりあえずウンコ・オシッコ出しとけばいいみたいなイメージがあるし、実際その程度の下ネタで小学生は大喜びするのですが、本当にそのレベルに近いことをやってくれます。頭カラッポにして笑いたい人にオススメの映画です。
申し訳程度のお色気シーンもないではないのですが、コロコロのライバル誌だったコミックボンボンのほうがエロいのではないか?というぐらいしょうもない出来です。

なんでこんな吹っ切れたギャグ映画ができてしまったのかというと、『網走番外地』シリーズやカルト映画の代名詞とも言うべき『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』でおなじみ石井輝男監督が、たまたま作ったカラテ映画(前作『直撃 地獄拳』のこと)が当たってしまったので続編を!と求められ、カラテ映画なんて撮りたくなかったので無茶苦茶やってやろう、ということで出来上がってしまったのだそうです。
当時ブルース・リーのカンフー映画が人気絶頂で、東映は対抗して千葉真一のカラテ映画を次々と量産していたのですが、それらに紛れ込んだ異色作……というか超ド級のコメディが『直撃地獄拳 大逆転』なのです。

メインキャストとなる3人組は、甲賀流忍法の継承者で自衛隊レンジャー部隊に所属していたところを連れてこられた千葉真一(今や新田真剣佑の父親といったほうがわかりやすいかな)、元麻薬捜査官の殺し屋で戦時中は航空兵の訓練も受けていた(自称)という佐藤允、それに武術の師範で凶悪犯の死刑囚……のはずがなぜか格闘より金庫破りが特技で、本作一のコミックリリーフ「トンチキ」として活躍したりする郷鍈治(ちあきなおみの夫)。
警察では裁ききれない悪人をとっちめるためにこの3人を招集するのが、『青い山脈』でどう見ても無理のある高校生役を演じたことでおなじみ池部良。そしてルパン三世でいうところの不二子ちゃんポジション、お色気要素はほぼないものの、3人のお目付け役として配される中島ゆたか(ミス・パシフィック日本代表)。
宝石を盗むよう依頼してくる保険会社の社長が丹波哲郎で秘書が志穂美悦子なのですが、まさか丹波哲郎がそれだけの役で出てくるはずもない。ヒントとして千葉ちゃんとの共演作「キイハンター」を挙げておきましょう。志穂美の悦っちゃんもおとなしい秘書役でとどまるはずもありません。ちゃんとアクションシーンの見せ場があります。
あとはチョイ役で出てくる山城新伍。一人二役で、いまどきコントでもやらないようなコテコテのギャグをかましてくれます。これも僕のオールタイムベスト映画『喜劇 特出しヒモ天国』(この傑作についてもいずれ書くことがあると思います)でのシリアスでねちこい名演とはまた違った魅力を見せてくれるでしょう。
そのほか悪役の用心棒で出てくる安岡力也が笑うしかないすごいやられ方をしたり、嵐寛寿郎がセルフパロディ的に最後の最後でおいしいところをかっさらって、この破天荒なギャグ映画にいちおうの結末を付けてくれたりします。

セスナが飛び、超強力接着剤や精密盗聴器や火炎放射器などの魅力的なガジェットが次々に登場するのも魅力のひとつ。またそれぞれが単にカッコいいだけでは終わらず、必ずギャグ要素とつながっているのが見ものです。超強力接着剤を活かした朝食シーンでのギャグの応酬は本作のなかでも一二を争う名シーンですが、個人的には特にセスナで3人組が飛ぶシーンのハチャメチャぶりと、そこでヤケクソのように流れる鏑木創のテーマ曲(痛快なブラスロック!)がたまりません。

残念ながら配信サービスで観るとしたらアマプラに登録したうえでさらに東映のチャンネルに登録しなければならないという二重の関門が待っているのですが、この暗いご時世、とにかく笑ってみたい方に是非オススメです。千葉ちゃんの登場シーンから悪役軍団との最終決戦に至るまで笑いどころが満載なので。

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