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『ダンキラ!!!』破走ベガはなぜ星にちなんだ名前なのか。『星の王子さま』との関係性

7月7日は七夕。「星祭り」とも称されるこの日は、『ダンキラ!!! - Boys, be DANCING! -』のファンにも特別な記念日だろう。

作中に登場するダンサー・破走ギンコが、友であるフェネックと出会ったのは七夕の日。
ギンコは彼に「ベガ」という名前を付け、以来生活をともにしている。

ギンコの趣味は星を観ることなので、きっと七夕に縁のある星にちなんでベガと名付けたのだろう。

しかし理由は本当にそれだけだろうか。

以前から記事で述べてきたように、『ダンキラ!!!』の設定にはダンスの歴史『古事記』など、さまざまな要素が盛り込まれていると考えられる。

きっとほかにも名付けの理由があるに違いない。
そもそもネコやイヌではなくなぜフェネックでなければならなかったのだろうか。

その謎を解く鍵は、誰もが知る名作文学に隠されていた。

※トップ画像は以前伊豆シャボテン動物公園で撮影したフェネックの写真。
※本稿はあくまで個人の解釈であり、公式や実在する作品・人物等とは一切関係ない。

フェネックの生態をおさらい

フェネックは北アフリカを中心とした砂漠などに生息する世界最小のキツネ
全長約40cmで、そのうち15cmほどが耳である。
耳には毛細血管が張り巡らされており、暑い日には血流を多くすることで体内の熱を放出するそうだ。

ちなみに伊豆シャボテン動物公園には人工保育で育てられた双子のフェネック「ベガ」と「アル」がいる。しかも七夕生まれ。
ギンコと暮らしているベガとは性別が異なるが、機会があれば会いに行ってみてほしい。

参考
https://www.aquamarine.or.jp/animals/fennec/
https://shaboten.co.jp/wp/wp-content/uploads/2018/07/410540d9c1e8130565ec181a42943dd4.pdf

フェネックと星の関係性

伊豆シャボテン動物公園のフェネックは、おそらく七夕にちなみベガとアルと名付けられた。
ベガは織姫に見立てられていること座の1等星。夏の大三角形のひとつで、「降下するワシ」を意味するアラビア語が名前の由来といわれている。
一方彦星に見立てられるのは、わし座の1等星であるアルタイルだ。

フェネックと星には、七夕以外にも関係性が見られる。

フランス人作家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの『星の王子さま』をご存じだろうか。

飛行士だったサン=テグジュペリは兵役後に航空会社に勤め、ヨーロッパやアフリカなどを飛び回った。
1935年、パリとサイゴンを結ぶ航路の最短飛行記録に挑戦すべく離陸するが、リビア砂漠に墜落してしまう。
絶体絶命の状況の中助けを求めて歩き続け、5日後にアラブの隊商に出会い一命をとりとめた。
この経験が『星の王子さま』に反映されているのは言うまでもない。

つまりサン=テグジュペリの経歴とフェネックとの共通点は砂漠である。

フェネックの生息地は、冒頭にも述べたように北アフリカなどの砂漠
サン=テグジュペリが墜落したリビア砂漠も、北アフリカに位置する。

そして『星の王子さま』に登場する、やたらと耳の大きなキツネ
文章中では単に「キツネ」と書かれているが、サン=テグジュペリによるイラストからは顔と同じくらい長い耳が描かれているとわかる。(ビジュアル参考:https://wwws.warnerbros.co.jp/littleprince/#about-the-original-book

生息地や身体的な特徴から推測すると、このキツネは高確率でフェネックだといえるのではないだろうか。

参考
https://www.nao.ac.jp/faq/a0309.html
https://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1568782748340/index.html
https://www.shinchosha.co.jp/writer/462/
http://id.nii.ac.jp/1399/00012815/

フェネックが教えてくれたこと

キツネ(以下、本稿ではフェネック)は、『星の王子さま』21章に登場する。

地球に不時着してさまよっている王子さまは、長い間孤独に耐えていた。
ある日リンゴの樹の下で出会ったフェネックに「一緒に遊ばないか」と声をかける。
しかしフェネックは「僕はまだ君に飼いならされていないから」と拒否。
「飼いならすとはどういうことか」と尋ねる王子さまに、「それは絆を結ぶということだよ」と説く。

フェネックが語る絆とは、お互いが唯一無二の存在になること
たくさんいる人間の中のひとり、たくさんいるフェネックの中の1匹ではなく、「君じゃなければだめなんだ」と思えるほどの存在にならなければ、絆は芽生えないという。

だからこそ王子さまとフェネックは、時間をかけて少しずつ距離を詰めていく。
別れが近づくと悲しくて泣いてしまいそうになるほど、両者の絆は深まっていった。

ギンコとベガも、きっと最初から仲がよかったわけではないだろう。
王子さまとフェネックのようにゆっくりと心を通わせ、唯一無二の“心友”になったのかもしれない。

参考
Antoine de Saint-Exupéry (2015) : Der Kleine Prinz, Fischer Taschenbuch Verlag

見えないものが大切

『星の王子さま』のフェネックは、王子さまとの別れ際にもうひとつ大切なことを教えてくれる。

「一番大事なことは、目で見ることはできないのだと。

思い返してみると、ベガと名付けられた星は人間の目にもはっきり見える一等星
その周囲には天の川が流れており、地球までは光が届かないような星も集っている。
地球人が気にも留めないはみ出し者のような星々も、目に見えない大切なもののひとつではないだろうか。

キンヤや蓮太郎、賢人など、周囲に集った多くの光にギンコが気づけたのは、もしかするとベガのおかげなのかもしれない。

参考
https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/seiza/seiza01.html
Antoine de Saint-Exupéry (2015) : Der Kleine Prinz, Fischer Taschenbuch Verlag

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