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”大切”ってなんだろう【小説】星の王子さま
【読んだ本】
星の王子さま
著 サン=テグジュペリ
訳 浅岡夢二 絵 葉祥明
【簡単なあらすじ】
主人公であるパイロットは、ある日、飛行機の故障で誰もいない砂漠の真ん中に不時着してしまいます。
どのように飛行機を修理しようか考えて一夜明けた時、不思議な声を耳にして目を覚まします。
「ねえ...ひつじを描いてくれない?」
それが王子さまとの出会いです。王子さまは主人公に一見おかしな質問をたくさんします。ですが、主人公の質問には全く答えてくれません。
たくさんのおかしな質問を繋ぎ合わせて、主人公は少しずつ王子さまのことを知っていきます。
王子さまがどんな子なのかが分かってきたとき、王子さまがかわいらしく笑うようになった時、主人公は大切な何かを知ることになります。
【感想】
「大人でいることが恥ずかしい」
そんな感想を読み始めて間もなく抱き続けながら読み進めました。本を閉じるころには、そんなことを思っていた自分さえもが恥ずかしくなりました。
少しネガティブな表現になってしまいましたが、「子供に戻りたい」という言葉では伝えたいことが伝わらないと思い、あえてこの言葉を選びました。
本書は児童書であり、童話であり、SF小説であり、哲学書であると、私は思います。それは本書を手に取る人、その人が考えていることや置かれている環境によって変わるだろうとも思います。それによって受け取るメッセージも読むごとに変わることでしょう。
私が感じたのは先述したようなことでした。
皆さんは何かを忘れた時のこと、思い出せますか?無理ですね。
新しい何かを知った時のことは、思い出せますか?これは簡単でしょう。
私たちは新しく知ったことばかり覚えていて、それよりももっとたくさんのことを忘れていっていることに気づいていないのです。
本書は、不思議な世界観と、どこか愛らしい挿し絵、どこか軽快なリズムの文章で読む側の心を子供に戻ったような感覚にしてくれます。そのうえで、大人になって、物を知るために、生活するために、気づかぬうちに失っていたたくさんのものを教えてくれます。
王子さまのことばに何度もハッとしました。王子さまのする質問になんども頭を悩まされました。王子さまは無邪気に、主人公と読者である私に問いかけ続けます。王子さまは質問に答えるまで、質問することをやめてはくれないのです。
たくさん胸の奥に重たいものを抱えながら読み進めました。ですが、決して辛い読書ではありませんでした。その重たいものはとても心地よく暖かいのです。まるで、小さな王子さまの体を胸に抱きかかえているようでした。これまでで一番不思議な読後感と満足感を得て読了することができました。
今、この文章を書いていても、空の向こうのどこかの星で王子さまが笑っていることを思うだけで幸せになれます。
星さえ見えない、曇り空(今日の沖縄はどんより曇りです)を眺めるだけで幸せになれる、とても素敵じゃないですか?そんな素敵な時間が読後に訪れる人が、私以外にもたくさんいることと思います。
王子さまが教えてくれるのは、そんな素敵な、大切なことばかりです。
【考察(※書籍の内容を含みます)】
本書から私が受けたたくさんのメッセージから2つ取り上げます。
「大切なのは”モノ”や”ヒト”ではなく、作ってきた時間」
「本当に大切なものはいつも目に見えない」
私が本書で一番好きなキャラクターは物語の中盤で登場するキツネです。
キツネは王子さまに「自分を手なずけろ」と言い、王子さまと一緒に時間を過ごすようになります。その中で、初めはただの一匹のキツネと人だったものが、お互いにとって別れが惜しまれるような、大切な存在になっていくのです。
このキツネと王子さまの関係と、その合間に出てくる庭園の何本ものバラとのエピソード、そこでのキツネの言葉に1つ目のメッセージが含まれています。
何かを大切に思うことには、共にする時間が何より大切なのです。世界には何十億の人がいます。その中から、大切な人を見つけるのではないのです。大切な時間を共に過ごした人が、大切な人になるのです。
そして、そんな”大切”はいつも目には見えないものです。
私たちは目に見えるものしか見ることができません。物事の表面しか見えない。つまり、本質を見ることができないようにできているのです。だからこそ、目に見えるものだけが世界だと思ってはいけません。
これは、本書冒頭の”ヘビの絵”のエピソードから、最後まで一貫して伝わってくるメッセージです。
本書を通して、私は王子さまと少しですが一緒の時間を過ごしました。彼からたくさんのことを教わりました。
今日のような曇り空では星は見えませんし、晴天の日でも王子さまの住むような小さな星は私の目には見えないでしょう。
それでいいんです。「本当に大切なものはいつも目に見えない」のですから。
PS.
著者であるサン=テグジュペリは、実際に飛行機に乗り砂漠に不時着した実体験からこの小説を書き、その数年後に戦争で亡くなったとされています。
私の目には見えない、どこかの小さな星で、王子さまとサン=テグジュペリがバオバブの新しい芽を摘んで、バラについた毛虫をとって、夕日を眺めていると素敵だなあと、思います。
それでは、また。
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