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美しきマイノリティ【小説】ボーイミーツガールの極端なもの
【読んだ本】
ボーイミーツガールの極端なもの
山崎ナオコーラ
【はじめに】
マイノリティ(英: minority)とは、「少ないこと」および「少数派」という意味の語である。 とりわけ社会的に少数派と位置付けられる人々(マイノリティグループ)を指す意味で用いられることが多い。(Weblio辞書)
皆さんはご自身がマイノリティ、つまり社会的に少数派だと、感じたことがありますか?
私は、5体満足に生まれ、身体的にも精神的にも生まれ持った特性はありません。幼少期に重い病気を患ったり、いじめにあったりも多少しましたが、自分がマイノリティだと感じたことはあまりありません。
近年では、多様性を受け入れる考え方がかなり浸透してきて、このマイノリティという言葉自体に嫌悪感を抱く人も多いのではないかと思います。
ですが、特に日本人はとにかく”みんなと同じ”つまり多数派になりたがる特性を持っていると世界的に言われているように思います。
事実、私もその一人です。
新しいことや、皆と違ったことをするのが怖くてたまりません。何かをするにしても、常に周りの目が気になります。
本作は、そんなマジョリティマインドな私に、マイノリティの世界の美しさを説いてくれた一作です。
社会ではなかなか見られない、見たことのない世界の美しさを是非手に取ってご覧ください。
【あらすじ】
管理栄養士を目指す大学生は野球選手との結婚に憧れ、子育てを終えた中年の女性がファッションデザイナーと巡り合う。
引きこもりニートは松田聖子に恋慕し、その弟は誰に対しても自分から「さようなら」を切り出せず、兄弟の父親は妻と再会する。
人と接するのが苦手な少女は思いがけず人気アイドルになって、アイドルの付き人は嫉妬に苦しみ、三流俳優は枕を濡らす。
植物屋の店主は今日も時間を忘れてサボテン愛に耽る。
年齢も性別も境遇も異なる男女が出会い、恋をし、時には別れを経験する。
「絶対的な恋なんてない」
不格好でも歪でもいい、人それぞれの恋愛の方法を肯定する連作小説集。
【感想】
言葉を選ばずにお伝えするのであれば、気味の悪さと美しさの混在する、とても新しい恋愛小説でした。
表現として適切かどうかは分かりませんが、やはり私も基本的なマインドがマジョリティである以上、マイノリティに対して本能的にある種の気味の悪さを感じてしまいます。
恋愛小説はあまり読まないのですが、マイノリティの主人公が恋することで変化していくような話がありふれていることぐらいは私にもわかります。その時にはみるみるこの気味の悪さは解消されていくことでしょう。
本作は違いました。
私がマイノリティに対して抱く気味の悪さを根底に残したまま、それでも美しい恋愛の世界に引きずり込まれていきました。
全てを包み込んでしまう、恋愛という感情の存在感と、登場人物がマイノリティであり続けることで生まれる対比による恋愛の美しさ。それらがここまで際立った作品には出会ったことがありません。
また、著者独特の言葉選びや表現法が随所に光り、大きな展開なく淡々と進んでいくストーリーをそのまま素通りさせず、立ち止まらせられる工夫がたくさんされているように思いました。
この書き口はこの著者にしかできないものだと思います。
山崎ナオコーラさんの作品に触れるのは今回が初めてでしたが、何か厚い内容を読む元気は無いけれど、本を読んでいる感覚を強く感じたいときにまた彼女の作品に触れてみたいと思いました。
【考察(※書籍の内容を含みます)】
本書では人気多肉植物店・叢Qusamuraの店主・小田康平が植物監修を務めています。
ストーリーの中でも重要なシーンで必ず、多肉植物、中でも形がいびつな種のサボテンがよく登場します。
多肉植物は世界の多様性を示してくれる。(エピローグ)
本書では、多様性や、マイノリティの象徴としてとてもいびつな形をした種のサボテンが取り上げられています。
ですが、多肉植物の愛好家の中でもこれらのいびつな形のサボテンたちが、あまり売れない商品から、愛される商品に変わりつつあるということです。
社会全体としてのマイノリティに対する視線も暗喩しているのではないかと感じました。
「マイノリティのために芸術はある」(エピローグ)
芸術とは個性を何かに表すことだと私は思っています。その、個性においてマイノリティというのはとても強みにもなり得ます。古代からアーティストというのはマイノリティであることが多い気がしています。
もちろん差別や迫害などは無くさなくてはなりません。
ですが、マイノリティとしての個性や美しさというとても大切なものたちが、社会を平たんにするために失われないことを祈るばかりです。
【おわりに】
「独占したい、って思っている方が、わかりたい、って思っている方よりも、相手のことを好きになっている、って、そう主張するの?」(第5話 「さよなら」を言ったことがない)
小難しいことをたくさん書いてきましたが、本書はあくまで恋愛の美しさを説いている作品だと思っています。
その中でも、このセリフには心震えました。
すぐ後のセリフにも続きますが、辞書を引くと
「恋とは、異性を独占したい気持ち」
とあるのだとか。
言葉を言葉として、意味あるものをそのままの意味で捉えることがおかしなことに感じました。
それほどまでに、私たち人間にとって恋愛というものは大きな存在であり、とても不安定な感情なのだと感じました。
誰かを好きになる時、私は何を思って好きになっているのだろうか。そんな永遠とも思えるほど深く美しい疑問を一緒に抱えて、読後感をかみしめています。
最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、また。
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