デザインの現場

電通の過労死の問題ですが、長時間労働は広告業界全体の昔からの体質でもありますよね。...2005年にミクシィに投稿した日記を改めて読んで、当時の状況を思い出し、心底ぐったりしたのでここに再掲させてもらいます。

こちらは博報堂の子会社のプロダクションでの話です。



久しぶりに、というか10何年ぶりに広告プロダクションで働いた。
合計12日間で約150時間労働。徹夜5回。最長で1日21時間労働....。

実のある仕事ならまだいい、しかし全てプレゼンのための画像合成。
雑誌をスキャンしたり、ストックフォトのサイトからそれらしい写真をダウンロードし合成して、広告代理店の意向に添うようなイメージを作り上げていく。

かっこいい女のコバンドの画が欲しい、日本人だと生っぽいから外人で。
キルビルのユマ・サーマンのイメージ。。。

新人が走り回ってキルビル特集の雑誌を手に入れる。
使えそうな全身写真は表紙のみ。だが、ポーズをとるユマ・サーマンの上には思いっきり文字が乗っている。スキャンしたあとチクチクとスタンプツールなどを駆使して綺麗に文字を消し、全身を切り抜く。髪の輪郭に毛を描き足し馴染ませる。刀の変わりにギターやドラムスティック、サックスなどを持たせて複製、コスチュームの色をそれぞれ変え、遠近感を付けて配置する。

昔、デザイナーをやっていた頃、マックがなかった頃のプレゼンだったら女のコバンドの写真とキルビルの写真の2種類を白黒コピーして見せて説明すればオーケーだったはずだ。

しかし、今の時代そうはいかないらしい。代理店もクライアントも
想像力というものを全く持ち合わせていないようなのだ。

そんな頭の悪い連中にわかってもらう為に、
デザイナーは無茶な画像合成を強いられ、徹夜を繰り返すはめになる。

次の日、女のコバンドは日本人のほうがいいから日本人の女のコで
作り直して欲しい、と代理店の別の営業が言っているとのこと。
は? 日本人だと生っぽいから外人で!って最初の話はどこへ行った?

わかりましたと、キャンペーンガールの女のコを切り抜いて、それらしくまた楽器を持たせた。すると夕方、やっぱりコスチュームはキルビルがクールだから、最初のヤツに顔だけ日本人に差し替えてよ。

アホか!どーだっていいだろ、んなもん。
おめーが口で説明すりゃ済む話だろーが...。
(...と、心の中で叫びました。)

いやはや、一事が万事こんな調子で何種類ものプレゼンを抱えているのだ。営業の思いつきに振り回され、クライアントのご機嫌を伺う代理店のサービス精神に翻弄される。会社の営業、代理店の営業、クライアントの担当、そして社長とあいだに何人も入ってるからまるで伝言ゲームばりに話がズレていて、全く違うニュアンスのものを作り上げ、またやり直すはめになったりもする。
まったく無駄が多い。そしてその作業は実に不毛だ。

しかしそんな状況下でも、アートディレクターを始め、デザイナーは誰も文句も言わずに徹夜をし、言われた通りにやり直している。果たして「出来ない」とか「無理」という言葉は禁句なのだろうか?ただ、多くのデザイナーが人権も人格も放棄してこんな労働を続けていても、それは先方にとっての当たり前になるだけで、決して感謝されたりすることはないだろう。それどころか、さらに要求は厳しくなり、益々デザイナーの負担が増えていくのだ。

私はまだ外部の人間だから気楽だが、社員は違う。
エンドレスに働いている。2ヶ月間休みナシ。先月の労働時間400時間だったって話を聞いてこっちが倒れそうになった。

不景気だからなおさらクライアント様々になっているのか、
パソコンの普及が首を絞めているのか...
とにかくそんな広告業界の異常に悪化した悲惨なデザイナー事情を
目の当たりにして、暗く重たい気持ちになったワタシでした。



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