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『無表情な日常、感情的な毎秒 2021年3月21日ver』台本無料公開

僕の主宰する演劇ユニットで、12ヶ月毎月公演をしています。芸人がネタを一年たたいて賞レースを目指すように、一本の戯曲を様々な場所でやり強化してみるという企画です。noteとYouTubeで稽古などの様子を随時アップしていくので、12ヶ月追ってもらえると面白いと思います。配信でも観れます。

先月の台本


16日の台本

この公演の台本を無料で公開します。ネタバレが凄いので、先に内容を知りたくない人は読まないでください。大丈夫な方は、昔の映画のドラえもんやクレヨンしんちゃんが映画公開前に原作者の書いた同じ内容の漫画を公開していたのと同じ感覚だとだと思ってください。今の若い子にはわからないかも(笑) 今月は16日と21日の2チームに分けて公演します。それぞれ好きな台本を選び、自分たちで構成します。なのでどちらの日も内容は違います。

21日バージョンの台本です。

読み辛いと思いますが楽しんでいただけたら幸いです。


【0】

世界が変わろうといている。僕達が止まろうとも地球はまわるのをやめない。
先が見えない今、僕達にできることは現在のその場に現象を起こし足跡をつけること。
世界が変化の時だろうと、恋もするし、バイト先のことで悩んだりだってする。
目の前のリアルこそが現実だ。
その日の、その日だけの本当。そこに立っているという事実は公演中のみ確認できる。
虚構の中に現在という事実を映し出すその日の公演。

※注
配役の組み合わせは自由で、登場人物の性別も特に指定はない。
様々な場面が描かれるが、基本的には舞台セットはないことを想定している。
一人称や語尾や言い回しなどは、演じる俳優に合わせて変えていい。
話と話の繋がりはあまり考えなくていい。組み合わせによって話は変化する。言いたいことが伝わればどれだけ台詞を崩してもいい。
やる月によって順番を入れ替えたり、削ったりするのは自由。

会場には観客と同等にクリエイションメンバーが自然に自分の意志で動き呼吸をしている。

定刻になったら照明が変わるがメンバーは変わらず談笑を続ける。日常と公演の境が無いように。

良きタイミングで観客に挨拶をし各々自己紹介をする。
挨拶が終わったら

「では、ここからお芝居はじめますね」
「と言っても、たまに自分の言葉でも話します」
「と言っても、その言葉は役に入りながらだから厳密には自分の言葉ではないのかもしれません」
「魂が肉体から出たり入ったりする感じですよね?」
「違います」
「どうしたんですか急に?」

【1】

[共同生活]            

〇等身大の自分での会話から漫才のように芝居に入る。
「最近寝不足なんですよ」
「なんで」
「彼女と同棲してるんですけどね」
「いいじゃん」
「そうなんですけどね」
「喧嘩でもしたの?」
「そういうわけじゃないんですけど。居心地が悪いというか…」
「性格が合わないとか?」
「そういうわけでもないんですよ」
「どういうこと?」
「なんかね、、、くるぶし辺りを蹴られてるんです」
「え?」
「朝起きるとね、、、くるぶし辺りを蹴られてるんです」
「彼女に?」
「…はい」
「寝てる間に?」
「多分」
「多分って、記憶ないの?」
「蹴られた記憶はないんですけど、毎朝起きるとくるぶし辺りが痛いんです」
「…怖い話ですか?」
「違う、違う」
「彼女がベッドで寝てまして、僕はその下に布団を敷いて寝てるんですよ」
「一緒に寝てるんじゃないんだ」
「で、朝ベッドから降りてくる彼女にくるぶし辺りを蹴られるんだよね」
「なんか悪いことしたの?」
「寝顔が腹立つんだと思います」
「普通は好きな人の寝顔って愛おしいけどね」
「なんか、それが原因かわからないんですけど、夜眠れなくなっちゃって…」
「それで寝不足になっちゃったんだ」
「だから、夜中はいつも散歩してるんです」
「彼女は心配しないの?」
「彼女が寝たのを確認してから外に出ます」
「なんか大変だね」
「まあ」
「同棲してどれくらいなの?」
「2年くらいですかね」
「彼女はなにが不満なんだろうね?」
「それを知りたいので、ちょっと彼女やってもらえません?」
「私が?」
「はい。で、どこが悪いか見てください」
「嫌です」
「…じゃあ(別の人を指す)」
「わかりました。私が彼女役をやればいいのね」
「場所は、同棲中の新中野のボロアパート。深夜1時くらい」

芝居に入る。

場所は、東京の同棲中のボロアパート。(深夜)

「僕は新中野に住んでいて、八畳くらいの家なんですけど、とても綺麗にしております。で、ここにベッドがあって、その下に布団を敷いています、、、最近グッピーが子供を産んで、で、産みすぎて水槽の中がぎゅうぎゅうになってしまいました、、、」

A横たわる。B座っている。
沈黙
「…寝てる?」
「…起きてる」
「…起きてたんだ」
「…」

A起き上がり冷蔵庫から水を取り出しグラスに注ぎ飲み干す。

「幸せになりたいなー」
「…」

Aまた横になる。

「聞いてんの?」
「あ、うん」
「なんか話してよ」
「……」
「いつも私ばかり話してんじゃん。クロスしてよ。トークをさ」
「……ごめん。寝ぼけてて」
「起きてたのに?」
「……」
「会話しないと一緒にい住んでる意味なくない?」
「ごめん…」
「なにか言い返してよ。じゃないと私が悪者みたくなるじゃん」
「ごめん」
「だから、なんでも謝るのやめてよ。悪いと思った時だけ謝って」
「……ごめん」
「(溜息)怒ってるわけじゃないんだけど私。そうやって怒られてるみたいなポジションとることで、安心するのとかマジやめてくれる」
「…マウンティングされてますみたいな感を俺が出し過ぎるってことでしょ?」
「そう」
「それが悪い癖だっていうことは前話したよね。…ごめん」
気まずい沈黙
「顔相が良くないよね。顔相が」
「がんそう?」
「そんな暗い顔じゃ次の時代にいけないよ」
「次の時代って、この前言ってた「何とかの時代」ってやつ?」
「そう」
「そっか」
「信じてないでしょ?」
「いや、……どうだろ」
「スピリチュアル的な怪しいやつだと思ってるでしょ?」
「…まあ」
「スピリチュアルって別に怪しくないから。てゆーか、スピリチュアルみたいな見えないものを信じられない人は次の時代に行けないから」
「この前言ってた「二極化」ってやつでしょ?」
「そう。ちゃんと覚えてるじゃん」
「あれだけユーチューブ見せられたら覚えるよ。(ここから観客と他の出演者に話す)なんかね、240年ぶりに時代が変わるらしんですよ。この動画観てみてください」
「社会意識をリードする惑星と、時代のルールを創る惑星が、240年ぶりに違う惑星に変わるの」
「誰なんだよコイツ」
「「前の時代」が象徴していたのは、物質的な豊かさや生産性、安定で、それによって、ヒエラルキーと貧富の差が生まれたわけ。家や車、家電製品などを所有する、お金を貯める、受験勉強をしていい大学へ、そして優良企業に就職して人生を安定させる。そういうことが最高の到達点とされてきたでしょ」
「それって、ルールと社会意識に洗脳されて生きてきた証拠じゃない?」
「全然話が入ってこないんだよ」
「今後は、情報、体験といった目に見えない豊かさ、ネットワークや人脈の広がりが大切になっていく」
「ということは、カラダよりも精神の解放が大切な時代になるんだと思うんだよね」
「どういうこと?」
「だから、つまり物質的な幸せじゃなくて、自分の中の精神的な幸せを求めるようになるってこと」
「ふーん。…で、結果、俺は次の時代に行けないわけ?」
「これから、二極化でポジティブな波動を持つ人とネガティブな波動を持つ人に別れるわけ。ポジティブな波動を持つ人とは、自分の心に正直に、自分の望むワクワクに沿った生き方を選択することのできる人。本来の、ありのままの自分が完璧だったと気付いた人のことをいいます。ネガティブな波動を持つ人とは、旧態依然のまま変化をしない、変化できないと思い込んだまま目覚めないことを選択した人です。なので、あなたは次の時代にはいけません。さようなら」
「…そっか」

なにも気にせず寝ようとする。

「そっかじゃないでしょ?」
「え?」
「今からでも変わろうと思わないわけ?」
「…別に次の時代に行けなくてもいいし」
「はあ? 普通行きたいでしょ。変わろうと努力しなよ」
「…まあね」
「私、「まあね」っての嫌い。そのあと確実になにか含んでんじゃない。言うの我慢した言葉をさ」
「まあね…」
「それ!」
「…人間なんでも思ったこと言えばいいってもんじゃないじゃん。オブラートに包んでさ、相手が嫌な思いをしないで、それでいて一番刺さる言い方ってもんに変換しながら話すわけじゃん」
「自分の気持ちをしっかり相手に伝えられないなら次の時代に行けないよ。はっきり言うことこそが正義でしょ。はっきり言わない癖に後出しで「あのとき失敗すると思ってたんだ」とか平気で言ってくる奴とかホント無理。最初から言えよって叫びながら近くにあった鈍器でなぐりたいくらい」
「別に俺は俺のやり方で生きててもいいじゃん」
「そんな古い考えじゃ次の時代いけないって。これからは、我がままでいいの。自分の心の意見をちゃんと聞いて自分の為に動かないと取り残されるよ。我がままの字の通り、我のままで生きるの」
「もういいって」
「良くないでしょ。いつまでも布団の時代でいいの? そんなんじゃベッドの時代にいけないよ」
「なんだよベッドの時代って!」
「深く考える人は次の時代行けないよ。その場の直感で動かないと」
「いや、本当に別に次の時代に行きたくはないんだって!」
「そうやって変化を怖がって前に進めない人も次の時代に行けないから」
「ちょ、ちょっと待って!」
「なに?」
「人に自分の意見押し付けてくる奴は次の時代に行けるわけ?」
「そんな奴は次の時代行けないでしょ」
(指を指す)
「え? なに?」
「めちゃくちゃ押し付けられてるんだけど…」
「押し付けてはないし。選択肢の話だし」
「俺は今のままで良いって心の底から思ってます!」
「だから、そのネガティブ思考をやめないと」
「ポジティブです!」
「え?」
「勝手にネガティブにしないでください! 僕はポジティブで言ってます!」
「でも…」
「あと、ネガティブも悪いとは思ってません! それはポジティブな思考でそう思ってます! 色々な考えがあります! 多様性です!」
「…もういいや」

A寝る
Bくるぶし辺りを蹴る。

【2】

[後藤田君]


「なんか、なんとなく、最近、SNSをやめた、なんか、なんとなく、体調が良くなった、気がした。仲の良かった、後藤田君が急に会社に来なくなって、それからというもの、誰にも心を開いていない。会社の奴等は、なんか、一歩引いてるやつとか多くて。なんていうか、自分は違うぞポジション取りすぎな感じ。なにか失敗しても、誰かケツ拭いてくれるっしょ的な。だからあの会社はダメ。まず、社長が経営へたくそ。三代目だからポンコツ
なんだよね。だからさ、結局さ、後藤田君が昼休みとかに言ってた改善点なおせば絶対業績上がると思うんだよ。でも、群れてる人間には、後藤田君の良さ伝わんなかったよね。孤立しちゃってさ。俺だけだったもの。後藤田君の話し理解できるの。普通にちゃんとしてる人が孤立して、変な奴らがのうのうと生きてるのって、どうなんだろうね」
「で、その後藤田君はどうなったわけ?」
「一切連絡が取れないから、家に行ってみた」
「死んでたりしたら最悪だね」
「後藤田君は、高円寺駅のアパートに住んでいて、何度か遊びに行ったことがあった。、、、高円寺駅の北口を出て左にコメダ珈琲とかケバブ屋さんが並んでる通りがあるんだけど、そこをずーっと真っ直ぐ歩いていく。通りはなんか、びっしり隙間なく建物が並んでいて、その大体が飲食店で、たまにコンビニとか古着屋さんがあって、、、、ここのクレープ屋は、最近となりの定食屋が火事になって、それに巻き込まれて今は休業中で、今もまだ少し焦げ臭い感じがする。で、またしばらく歩くと、、、なんかちょっとヤバい感じの、ちょっと怖い感じの古着屋があって、、、そこを左に曲がる。、、、駅から数えて大体10分くらいのところに後藤田君のアパートがある。あ、ちょっとドアやってもらっていいですか?」
「あ、はい。いいですよ」

インターホンを押すマイム。

「ピーンポーン」
「インターホン押したけど反応はなくて」

ドアをノックするマイム。

「ドンドンドン」
「あ、いや、それだと強いな」
「なにが?」
「そんな強く叩いてなかったんでコンコンくらいにしてもらえます?」
「ああ、わかりました」

ドアを叩くマイム。
咳き込む

「いや、そういうコンコンじゃなくて」
「キツネ的な?」
「そうでもなくて、、、もういいです。無音で」

ドアを叩くマイム。

「なんとなく気配を感じたからドアをノックしてみたんだけどやっぱり反応なくて」
「そりゃそうでしょ。無音なんだもの」
「実際はコンコンいってたんです!」
「キツネが?」
「…諦めかけたけど、一応ドアノブをまわしてみたら扉が開いて」
「カランコロンカラン」
「いらっしゃいませ」
「1名様ご案内です」
「こちらのお席どうぞ。ご注文どうなされますか?」
「じゃあ、コーヒーで」
「かしこまりました」
「なんか、後藤田君は会社を休んでいる間になんと家でカフェを開いて、、、おーい!」
「え?」
「違う違う! カフェ開いてない!」
「そうなの? 聞いてなかっから」
「普通のアパートのドアやって!」
「わかりました」
「…諦めかけたけど、一応ドアノブをまわしてみたら扉が開いて」
「ぎーーっ(古びたドアの開く音)ばさばさばさきーきー(コウモリが出てくる感じ)」

ドアを閉める。

「古びた洋館になってる!」
「ようこそ我が屋敷へ(中腰でランプ的なものを持って出てくる)」
「後藤田君そんなじゃないから!」
「後藤田様は奥の大広間でお待ちです」
「そいつ誰だよ!」
「執事ですけど」
「執事もいない! 普通のアパート!」
「うああああーーーー」
「今度はなんだよ!」
「後藤田様のお飼いになられているケルベロスです」
「後藤田君は地獄の番犬買ってないから! ホントにちゃんとやって!」
「すみません」
「お客さん話忘れちゃうから! 頼むよ!」
「はい」
「…諦めかけたけど、一応ドアノブをまわしてみたら扉が開いて」
「それで?」
「恐る恐る中に入ってみると、真っ白な壁の部屋に家具も何もかもなくて」
「夜逃げ的な?」
「で、壁に不自然な黒いシミがあったんだよ」
「なにそれ」
「それがよく見ると人のカタチしてるように見えてきてさ」
「なになに? これ怖い話?」
「いや、多分後藤田君の幽霊がいたんだよね」
「怖い話じゃん」
「幽霊って言っても死んだ後の感じじゃなくてさ」
「死んでる以外の幽霊っているの?」
「カタチがなくなって魂だけになった感じかな」
「それを死んだって言うんじゃないの?」
「俺にはすぐわかったんだよね。あ、後藤田君、次の時代に行ったんだって」

【3】

[労働前のファミレス]
            
「やめたほうがいいよ」
「なんで?」
「なんでって、趣味悪いよ」
「そう? 楽しいよ」
「まあいいや。ドリンクバー取ってくるわ」
Aドリンクバーを取っているマイム
「毎朝、彼とこのファミレスでコーヒー飲んでから仕事行くのが日課で、毎朝くだらない話をしあっている、、、。迎えのバンが来るまでは、何も考えなくていいから幸せだ」
Aドリンクバーでコーヒーを入れて持ってくる。
「あれ? またコーヒー?」
「ああ、なんかカルピスソーダにしたら、水みたいのしか出てこなかった」
「店員さんに言えばいいじゃん」
「いいよ。忙しそうだし」
「言ってやろうか?」
「いいよ。コーヒー入れちゃったし」
「いいよ。言ってきてやるよ」
「いいって言ってんじゃん!」
「……そうか」
沈黙 携帯見る
「でも、やっぱり変だけどな」
「まだ言う?」
「なにが楽しいの?」
「どうでもいい日常がかいてあるのがいいんだよ。今日髪切りましたとかさ」
「アイドルとかじゃないんでしょ?」
「普通の一般人」
「絶対に面白くねーよ」
「ただの一般人が飯食ってるだけとかがドラマチックでいいんだよ」
「まったくドラマチックじゃねーだろ」
「結局、人は他人の話に現実感を感じるのは難しいから、フィクションに感じてるわけ。友達が結婚しようが、知り合いの親が死のうが、自分の現実ではないからね」
「なにが言いたいんだよ?」
「そんなフィクション達が繋ぎ合わさって世界が動いてると思うとゾクゾクしない?」
「しねーよ! きもちわりー!」
「例えばさ、Googleストリートビュー。あれとかさ、いつ撮ったかわからない写真が繋ぎ合わさって世界を構築してるわけ、、、ゾクゾクしない?」
「だから、しねぇーって」
「たまに犬とか歩行者写ってるじゃん?」
「ああ、たまにあるね」
「そういうの発見した時なんて絶頂だよ! 絶頂!」
「なに言ってんの? マジで」
「どうして伝わらないかな?」
「いや、だって絶対に映画とかの方が楽しいでしょ」
「映画なんて見ないもん」
「はあ?」
「一般人のブログとか、路上での人間観察とかの方が楽しいから」
「え? じゃあ、ドキュメンタリーとかは?」
「見ないに決まってんだろ? 人が手を加えたものは見れたもんじゃないよ。カメラ回ってる時点でいつも通りの行動はしないからね」
「…ただの変態なんじゃないか?」
「いや、普通だろ? ドラマチックなものが見たいじゃん」
「映画のほうがドラマチックだろ!」
「おまえは、誰かが死んだりとか悲劇がおこるとか事件がおこるものを、ドラマチックって言ってるんだろ? でも、その物語もはじめは無価値なところからはじまるわけ。ということは、悲劇なんかおこらないことこそが価値があり、ドラマチックなわけ」
「…まったくなに言ってんのかわからないわ」
「養殖より、天然で、あまり市場に回らないレアな魚の方が高額だろ?」
「はあ?」
「そういうことだ」
「どういうことだよ?」
「とにかくなにもおきないのが一番のドラマってこと」
「いやいや、なかが起きてるからドラマでしょ!」
「いやいや、普通に人間として生きてることが一番のドラマだよ」
「じゃあさ、なにも起こらないのにどうやって話終わらすわけ?」
「終わらないよ」
「最悪じゃん。結末で泣いたり驚いたりしたいじゃん」
「終わらないから、想像するわけよ。その人のその後の人生を」
「客に負担かけんなよ」
「負担を嫌がってたら、どんどん想像力とか考える力が衰えていくよ」
「いいよ。そういうの」
「じゃあ、おまえはどういうので感動するわけ?」
「え? 俺?」
「うん」
「爆発して、、死ぬ」
「……待って。百歩譲って死ぬのはわかるわ。でも、爆発はどうして感動するわけ?」
「爆発は引き込むじゃん。もし、普通に仲の良いカップルの話しで始まって、わいわいイチャイチャしてる中、その五分後に部屋が爆発してさ、彼女が死んだらさ、感動するじゃん」
「…全く共感できないわ」
「こっからどうなるんだろってハラハラするでしょ」
「そっから回収できたらいいよ。できんの?」
「回収はどうでもいいよ。爆発のインパクトが説得力持たせるから」
「説得力ねーよ。派手なら良いってもんじゃねーから。地味な方が感情の流れとかわかるだろ」
「寝ちゃう寝ちゃう! そんなの見てたら! みんな疲れてんだから! なんで金払って疲れなきゃならねーんだよ!」
「じゃあ、おまえが今までで一番感動したのってなによ?」
「バックトゥザフューチャーかなー」
「SFかぁ。その時点でないわ」
「最後さ、タイムマシンの車に乗ってさ、また現代に帰らないといけないんだけど、いろんなアクシデントがおきてさ、なかなかワープできなくてさ、やばいやばいやばい、どうなっちゃうの? どうなっちゃうの? ホントに帰れんのってなってさ、ダメ押しでさ雷がバーンって落ちてさ、そのケーブルみたいなのが切れちゃってさ、あーもう終わりだ―って思ったら、博士のドクっておっさんがさ、そのケーブルとケーブルを繋いで、がっって、ビビビビビビビビビ、ばしゅーってなってさ、、、ボロ泣き」
「どこで感動したんだよ!」
「感情移入を強いるな! なにも考えたくないんだよ!」
「もっと人間をみないと、人として成長できないよ」
「強いるな! 何も考えずに爆発とか見てーんだよ! 何も考えずに泣きた
いの。映画なんてストレス発散の場! カラオケと一緒!」
「そんな考えだと次の時代行けないぞ」
「やめろよその話」
「物質的なものじゃなくてさ、もっと精神的なものを見て楽しんでいかないと。取り残されるよ」
「彼女にも毎晩言われるわ」
「そうだろ?」
「俺はこのままでいいんだけど」
「俺も最近は瞑想とかもはじめてさ。「なんとかの時代」に備えてるよ。まあ、来月に迫ってるからな」
「もう時間だな。そろそろ車来てるんじゃない?」
「あ、作業着忘れたかも」
「現場行けば誰か貸してくれるだろ?」

【4】

【新ネタ】 3月版

『狸』

「東京に上京してきて間もないんですけど、なんか思ってた東京と違うっていうか」
「思っていた東京ってどんな感じ?」
「なんか、、、なんていうんだろ? 僕のイメージだと、もうホントに自分の目線から見ても、上が見えないくらいのビルがいっぱい並んでて、なんか普通の家なんてほとんどないんだろうなみたいな。でも、実際は僕の住んでる家の周りは住宅街で、地元とあまり変わらくて。ああ、やっぱり住んでる人もいるんだなって」
「今の話聞いてて思い出したんですけど、私の家、庭に狸が出るんですよ」
「東京なのに?」
「都内でも夜歩いてるとたまに見かけますよね」
「見たことない」
「夜、二階で寝てるんですけど、一階で狸が喧嘩してる音が凄く聞こえて、、、」
「庭で?」
「そうです。で、寝る前にスマホとかいじってると、窓越しに「きゃん、きゃん、きゃん、」って、鳴き声がするんですよ。多分、狸なんですけど、、、その狸が変わってて」
「変わってる狸ってどんな?」
「なんか全部、毛が抜けちゃってて」
「結構、狸の全容はわかってるんですね」
「私、お婆ちゃんと住んでて、お婆ちゃん狸に餌をあげてて、そうすると狸たちは餌を食べに集まってくるじゃないですか」
「え? そんな一杯いるの?」
「だから、気抜けだぬき一匹のせいで病気がどんどん広がっちゃうわけですよ。でも、お婆ちゃんも良かれと思ってやってるから止められなくて。毎日、病気の狸の鳴き声を聞きながら寝ています」
「なんか悲しいですね」
「病気の狸って、狸界では病気って認識されてるんですかね?」
「確かにどうなんだろ? コイツに近づくとうつるから気をつけろ適なのあるのかな?」
「気抜けだぬき以外の狸がみんなマスクしてたら面白いけどね」
「想像すると少し可愛いかも」

【5】 

[終電]


「人間一人で生きていたら会話なんて必要ないわけで、でも進化の過程で人間はそこがす
ごく発展した。なのに僕は、人の話を聞くのが苦手だ。相手の気持ちなどを予測したりす
る事が僕にはできない。予測するけど、予測が大体外れる。で、なんか素っ頓狂なことを
言ってしまったりだとかして、相手の頭の中が見えなくなってくる。そういったことがす
ごくよくある。会話の中で視覚情報で相手を感じたり、予測したり、気持ちを汲み取った
りと同時に沢山のタスクを開く。この行為は生物としてかなり高等なことだと思う。だか
ら、人間凄いなぁと思う傍らそういう行為が自分は凄く苦手だから、人としてどうなんだ
ろうなと思ったり、今ちょっとそこの狭間でいろいろとグルグルしている」

「例えば、飲み会の時とかに、大勢で集まるじゃないですか。で、会社が大塚なので池袋と
か、その近辺で飲むんですけど。でも、僕は神奈川に住んでるんで、だから終電とか早い
から、先に帰っちゃうんですね」

「おい! このタイミングでピッチャーで頼んだの誰だよ」
「全然飲めるでしょ!」
「すぐ寝るくせに何言ってんだよ」
「うるせーよ」
「あの」
「どうしたの?」
「終電早いからそろそろ出るよ」
「え?」
「うそ?」
「ごめん」
「もう出るってこと?」
「そう」
「いいよ、最悪うち泊まってきなよ」
「いや、、、」
「明日早いの?」
「そういうわけじゃないけど」
「盛りさがるじゃん。もう少しいなよ」
「いやもう終電だからさ」
「マジで言ってんの?」
「うん、全然気しないでみんな楽しく飲んでて」
「えー、もっと飲もうよ」
「ごめん。帰るわ。いくら?」
「伝票一回貰う?」
「そうしようか」

「そう、なんか、飲み会とかの席では、結構なんか、自分では、浮いちゃってるなとか思ってて。なんだろ、普通に話してる時も色んなテーブルで色んな話で盛り上がってて、でも、自分のテーブルだけ話がはずまなくて、愛想笑いとかされてるなぁなんて感じて。で、終電が早いから、先にじゃあねとか言うと」
「じゃあさ、もう一件だけ行こうよ」
「とか言って、誘ってくれるんですけど、なんか馴染めてない気がして、でも、一応ついて行こうかなとか考えるんですけど、やっぱり帰ることにする」
「でも、先に帰ったら悪口言われてるんじゃないかなって想像したりする」
「だったら、残ればいいのに」
「カラダは、みんなの集いには「興味ないもんね」みたいな態度をとるんだよね。でも、気になるってことは、自分は本当はみんなが何してるかすっごく気になっちゃうタチなのかも」
「かもって、自分のことなのにわからないの?」
「本当の本当はどうなんだろう? 自分だけ誘われない、とかいうことがあっても気にしたことほとんどないしな…」
「だったら集まりには興味ないんじゃない?」
「人との関係性において、根底の根底で自分が本当はどう感じているのかというのが、自分でもわかっているようで、よくわからない、、、」
「うーん」
「本当は、無意識に、みんなから置いてきぼりになる恐怖や焦りみたいなのがあるのかも」
「集団というものへの自分の本心って、他者への気遣いとかも入ってくるから、もはや自分
だけの意志ではないのかもね」
「最近は、自分の人生の問題を、個として、考えることが難しくなってきた感じはする」
「ネットを使えば、個の人生の問題にすぐ他人を巻き込むことができるからね」
「どんどん自分のことがわからなくなりそう」
「今日は良い日だったって言っても、本当に自分の過ごした一日のことなのかわからなくなる」


【END】 

【就寝】

「私、転校したことがあって、生まれが東京で、長野に転校して、それから上京してきたんですよ。都会から田舎に移り住んだから、自然の中で暮らすってことがなんか現実感が無くて、幻想的な感じで。東京ってあんまり星ないじゃないですか。でも長野は星がたくさん見えて、転校して友達がいなくなっちゃったので毎日一人で帰りながら、帰り道に星を眺めてたんです。なんか、星の向こうに、、向こうにって言うのもなんか変ですけど、山があって、あの山の向こうに行って東京に戻れるのは、いつなんだろうって。山の上には星があって、山の下には田んぼがあって、で、そこに住んでる人がいるんです。山は高くて、そこを越えたいけど高くて怖くて。でも、気が付くと、いつの間にか長野での生活が普通になってました」


「深夜の散歩。人気のない道は自分の存在さえも消す感じがする。そこには足音だけ存在する。気が付いたら、商店街にあった行きつけの居酒屋がなくなっていた。その隣の喫茶店は普通にまだある。誰もいないコインランドリーで乾燥機が回っている。誰もいない公園のベンチで煙草をふかしながら池を眺める。なにか達成感や、生き甲斐が欲しい。なんて思ったこともあったんですよ。でも、そんなものがあっても何かが変わる気はしなくて。今は、なにも期待せず生きている。と、いうか息をしている。他人事じゃないなんて思うこともあるけど、結局は他人事で。たまに他人と自分の境界線がわからなくなるけど、やっぱり自分は自分で。自分は他人に認識された時にナニかになるんだなーって最近思う。つまりは自分次第的な。劇的な物語がなくたって、ただなんとなく、いつもより綺麗に洗濯物が畳めただけで救われる夜もある。ナニがってわけじゃなくて。なんとなく」

家に入り寝る準備をする。

「だからさ、結局さ、後藤田君が昼休みとかに言ってた改善点なおせば絶対業績上がると思わない? でも、群れてる人間には、鈴木君の良さ伝わんなかったよね。孤立しちゃってさ。俺だけだったもの。後藤田君の話し理解できるの。普通にちゃんとしてる人が孤立して、変な奴らがのうのうと生きてるのって、どうなんだろうね」

いつもの場所に寝る。

彼女が部屋に入ってくる。くるぶし辺りを蹴って二人で少し笑い寝る。

「……まあな」

外に他のメンバーいる。

「ねえ、あれ」
「なに?」
「狸?」


終演

↓この記事を読むと更に公演が楽しくなります。是非読んでみてください。

3月公演詳細
Performance of the day
『無表情な日常、感情的な毎秒』3月公演

画像1

2021年3月16日・21日 CHARA DE新宿御苑
原作・構成 長谷川優貴

公演情報・感染対策はこちら
https://yennui.com

【クリエイションメンバー(50音順)】

<21日出演チーム>
小林駿
齋藤永遠
結木ことは
ヨシオカハルカ(演劇ユニットRe-birth)

【タイムテーブル】
2021年
3月21日(日) 13:00/18:00

【チケット】
<券種・料金>
配信観劇チケット(事前精算・1週間アーカイブ付) ¥800


配信観劇 ツイキャス プレミア配信(1週間アーカイブ視聴可能)

<21日13時>
https://twitcasting.tv/hase0616/shopcart/58761

<21日18時>
https://twitcasting.tv/hase0616/shopcart/58762

【会場】
CHARA DE新宿御苑
〒160-0004 東京都新宿区四谷4丁目7-10 小林マンション3階

【お問い合わせ】
yennuinfo@gmail.com



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