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『無表情な日常、感情的な毎秒 2021年3月16日ver』台本無料公開

僕の主宰する演劇ユニットで、12ヶ月毎月公演をしています。芸人がネタを一年たたいて賞レースを目指すように、一本の戯曲を様々な場所でやり強化してみるという企画です。noteとYouTubeで稽古などの様子を随時アップしていくので、12ヶ月追ってもらえると面白いと思います。配信でも観れます。

先月の台本はこちら↓

この公演の台本を無料で公開します。ネタバレが凄いので、先に内容を知りたくない人は読まないでください。大丈夫な方は、昔の映画のドラえもんやクレヨンしんちゃんが映画公開前に原作者の書いた同じ内容の漫画を公開していたのと同じ感覚だとだと思ってください。今の若い子にはわからないかも(笑) 今月は16日と21日の2チームに分けて公演します。それぞれ好きな台本を選び、自分たちで構成します。なのでどちらの日も内容は違います。

まずは16日バージョンの台本です。

読み辛いと思いますが楽しんでいただけたら幸いです。




【0】


世界が変わろうといている。僕達が止まろうとも地球はまわるのをやめない。
先が見えない今、僕達にできることは現在のその場に現象を起こし足跡をつけること。
世界が変化の時だろうと、恋もするし、バイト先のことで悩んだりだってする。
目の前のリアルこそが現実だ。
その日の、その日だけの本当。そこに立っているという事実は公演中のみ確認できる。
虚構の中に現在という事実を映し出すその日の公演。

※注
配役の組み合わせは自由で、登場人物の性別も特に指定はない。
様々な場面が描かれるが、基本的には舞台セットはないことを想定している。
一人称や語尾や言い回しなどは、演じる俳優に合わせて変えていい。
話と話の繋がりはあまり考えなくていい。組み合わせによって話は変化する。言いたいことが伝わればどれだけ台詞を崩してもいい。
やる月によって順番を入れ替えたり、削ったりするのは自由。

会場には観客と同等にクリエイションメンバーが自然に自分の意志で動き呼吸をしている。

定刻になったら照明が変わるがメンバーは変わらず談笑を続ける。日常と公演の境が無いように。

良きタイミングで観客に挨拶をし各々自己紹介をする。
挨拶が終わったら

「では、ここからお芝居はじめますね」
「と言っても、たまに自分の言葉でも話します」
「と言っても、その言葉は役に入りながらだから厳密には自分の言葉ではないのかもしれません」
「魂が肉体から出たり入ったりする感じですよね?」
「違います」
「どうしたんですか急に?」


【1】

[天国]


「ノストラダムスの大予言って昔あったじゃないですか」
「あぁ、ありましたね。1999年に人類が滅亡する的なやつでしょ」
「はい。それです。それです。あの頃って、世界中が終わりを期待してる感じがあったじゃないですか」
「そうですか? …まあ、なんとなくわからないでもないけど」
「あそこの時点で地球は終わっているわけですよ。そこからは惰性で続いている。だから、今は希望がない状態なわけです」
「はあ…」
「終わることも続くことも期待しない。ただ、徐々に終わりに向かうだけ」
「確かに、徐々に終わりに向かっている感はありますね…」
「どうして、こんなことになってしまったんでしょうね」
「満足しちゃったんじゃないかな?」
「どういうことですか?」
「現状に満足したら引退するじゃん。そういうこと」
「? いやわからないです」
「人類って、原始時代以来、ずっと「問題が過剰で解決策が希少」っていう時代を生きてきたわけじゃない」
「確かに」
「それが、科学の進歩とかで問題がどんどん解決されていたってことですか?」
「まあ、そんなところですね」
「なのにどうして私たちは満たされてないんですかね?」
「ワクワク感じゃないですか?」
「ワクワク感?」
「小さい頃、台風来たらワクワクしたでしょ?」
「しました?」
「人類の長年の夢だった「差し当たって、今日を生きるのに大きな心配がない」という状況が、多くの人にとって現実のものとなったにもかかわらず、何かが満たされていない、 人生において何か本質的に重要なものが抜け落ちているような感覚」
「確かに、なんでも欲しいものは手に入るし、物質的なものは満たされてますよね」
「だから、やっぱりワクワク感が足りてないんですよ」
「あの……」
「どうしました?」
「で、これって今どういう状況なんでしょうね?」
「私にもさっぱり。気がついたらここにいましたからね…」
「真っ白い空間にこのメンバーだけがぽつりと存在する」
「出口も見当たらない」
「これは…死後の世界ですね」
「え?」
「このあと、神の裁きがあって何に転生できるのか決まるんです…」

みんな困惑する

「え? それどこからの情報ですか?」
「どこからって…私の予想だけど」
「推測ってことですか?」
「そうだけど?」
「推測を確定した情報みたいに言わないでもらえますか」
「いや、どうなるかわからないんだから推測していいでしょ」
「よくないですよ」
「大体、死後の世界なんて、転生する前の準備段階みたいな感じって相場は決まってるでしょ」
「だから、まだ死後の世界って確定してないでしょ」
「このあと、神様に聞かれるんですよ。「生き返ったらなにになりたいですか?」って」
「だから、それも推測でしょ?」
「そうですけど?」
「推測を確定の情報みたいに拡散しないでもらえません?」
「別に確定みたいに言ってるわけじゃなくて、自分で考えて発信してるわけだからいいじゃないですか」
「いや、一方的な発信だけじゃなくて、話し合いましょうよ」
「話を止めてるのはアナタでしょ?」
「はあ?」
「あなたみたいな人は、人間に転生させてもらえませんよ」
「また推測」
「今のは願望です」
「はあ? なんでも思ったこと口に出さないでもらえますか?」
「どうして? そんなの勝手でしょ。独り言なんだから」
「ちゃんと勉強してから発言してもらえます? 知識がないのに発言しないでください」
「…知識がなければ発言もするなってことですか?」
「姿も形もない状態で真っ白な空間にいるのにいてみんな不安なんですから、不安を煽ったりするのはやめましょうよ」
「思いついたこと言ってるだけじゃないですか」
「自分で発言したんだから責任持ってください」
「人間、日々変わるんですから一言一言に責任なんて持てませんよ」
「無責任すぎるでしょ」
「じゃあ、あなたが聞かなきゃいいんじゃないですか?」
「できないでしょ。聞こえちゃうんだから。あと、どうして僕が聞かない努力しなきゃいけないんですか? あなたが言わないようにすればいいだけでしょ」
「わかりました。すみませんでした。これでいいですか?」
「謝ったら削除できるわけじゃないでしょ。発信しちゃってるんだから。ちゃんと責任もって」
「はいはい。すみませんね」
「まあまあ、他に人がいるかもしれないし、ここからでる為の方法を探しましょう」
「あの人に聞いてみましょうよ」
「見た目、偉そうなご老人ですし、なにかの神様かもしれないですよ。きっと有益な情報をくれますよ」
「え? 老人に見えてます?」
「老人でしょ?」
「僕は物に見えてますけど…」
「いや、僕には白髪の老人に見えますね」
「自分の視点からの情報を押し付けないでもらえますか」
「てゆーか、神様かどうかもまだわからないんだから」
「あなた神様ですか?」


【2】 

[共同生活]            

〇等身大の自分での会話から漫才のように芝居に入る。
「最近寝不足なんですよ」
「なんで」
「彼女と同棲してるんですけどね」
「いいじゃん」
「そうなんですけどね」
「喧嘩でもしたの?」
「そういうわけじゃないんですけど。居心地が悪いというか…」
「性格が合わないとか?」
「そういうわけでもないんですよ」
「どういうこと?」
「なんかね、、、くるぶし辺りを蹴られてるんです」
「え?」
「朝起きるとね、、、くるぶし辺りを蹴られてるんです」
「彼女に?」
「…はい」
「寝てる間に?」
「多分」
「多分って、記憶ないの?」
「蹴られた記憶はないんですけど、毎朝起きるとくるぶし辺りが痛いんです」
「…怖い話ですか?」
「違う、違う」
「彼女がベッドで寝てまして、僕はその下に布団を敷いて寝てるんですよ」
「一緒に寝てるんじゃないんだ」
「で、朝ベッドから降りてくる彼女にくるぶし辺りを蹴られるんだよね」
「なんか悪いことしたの?」
「寝顔が腹立つんだと思います」
「普通は好きな人の寝顔って愛おしいけどね」
「なんか、それが原因かわからないんですけど、夜眠れなくなっちゃって…」
「それで寝不足になっちゃったんだ」
「だから、夜中はいつも散歩してるんです」
「彼女は心配しないの?」
「彼女が寝たのを確認してから外に出ます」
「なんか大変だね」
「まあ」
「同棲してどれくらいなの?」
「2年くらいですかね」
「彼女はなにが不満なんだろうね?」
「それを知りたいので、ちょっと彼女やってもらえません?」
「私が?」
「はい。で、どこが悪いか見てください」
「嫌です」
「…じゃあ(別の人を指す)」
「わかりました。私が彼女役をやればいいのね」
「場所は、同棲中の新中野のボロアパート。深夜1時くらい」

芝居に入る。

場所は、東京の同棲中のボロアパート。(深夜)

「僕は新中野に住んでいて、八畳くらいの家なんですけど、とても綺麗にしております。で、ここにベッドがあって、その下に布団を敷いています、、、最近グッピーが子供を産んで、で、産みすぎて水槽の中がぎゅうぎゅうになってしまいました、、、」

A横たわる。B座っている。
沈黙
「…寝てる?」
「…起きてる」
「…起きてたんだ」
「…」

A起き上がり冷蔵庫から水を取り出しグラスに注ぎ飲み干す。

「幸せになりたいなー」
「…」

Aまた横になる。

「聞いてんの?」
「あ、うん」
「なんか話してよ」
「……」
「いつも私ばかり話してんじゃん。クロスしてよ。トークをさ」
「……ごめん。寝ぼけてて」
「起きてたのに?」
「……」
「会話しないと一緒にい住んでる意味なくない?」
「ごめん…」
「なにか言い返してよ。じゃないと私が悪者みたくなるじゃん」
「ごめん」
「だから、なんでも謝るのやめてよ。悪いと思った時だけ謝って」
「……ごめん」
「(溜息)怒ってるわけじゃないんだけど私。そうやって怒られてるみたいなポジションとることで、安心するのとかマジやめてくれる」
「…マウンティングされてますみたいな感を俺が出し過ぎるってことでしょ?」
「そう」
「それが悪い癖だっていうことは前話したよね。…ごめん」
気まずい沈黙
「顔相が良くないよね。顔相が」
「がんそう?」
「そんな暗い顔じゃ次の時代にいけないよ」
「次の時代って、この前言ってた「何とかの時代」ってやつ?」
「そう」
「そっか」
「信じてないでしょ?」
「いや、……どうだろ」
「スピリチュアル的な怪しいやつだと思ってるでしょ?」
「…まあ」
「スピリチュアルって別に怪しくないから。てゆーか、スピリチュアルみたいな見えないものを信じられない人は次の時代に行けないから」
「この前言ってた「二極化」ってやつでしょ?」
「そう。ちゃんと覚えてるじゃん」
「あれだけユーチューブ見せられたら覚えるよ。(ここから観客と他の出演者に話す)なんかね、240年ぶりに時代が変わるらしんですよ。この動画観てみてください」
「社会意識をリードする惑星と、時代のルールを創る惑星が、240年ぶりに違う惑星に変わるの」
「誰なんだよコイツ」
「「前の時代」が象徴していたのは、物質的な豊かさや生産性、安定で、それによって、ヒエラルキーと貧富の差が生まれたわけ。家や車、家電製品などを所有する、お金を貯める、受験勉強をしていい大学へ、そして優良企業に就職して人生を安定させる。そういうことが最高の到達点とされてきたでしょ」
「それって、ルールと社会意識に洗脳されて生きてきた証拠じゃない?」
「全然話が入ってこないんだよ」
「今後は、情報、体験といった目に見えない豊かさ、ネットワークや人脈の広がりが大切になっていく」
「ということは、カラダよりも精神の解放が大切な時代になるんだと思うんだよね」
「どういうこと?」
「だから、つまり物質的な幸せじゃなくて、自分の中の精神的な幸せを求めるようになるってこと」
「ふーん。…で、結果、俺は次の時代に行けないわけ?」
「これから、二極化でポジティブな波動を持つ人とネガティブな波動を持つ人に別れるわけ。ポジティブな波動を持つ人とは、自分の心に正直に、自分の望むワクワクに沿った生き方を選択することのできる人。本来の、ありのままの自分が完璧だったと気付いた人のことをいいます。ネガティブな波動を持つ人とは、旧態依然のまま変化をしない、変化できないと思い込んだまま目覚めないことを選択した人です。なので、あなたは次の時代にはいけません。さようなら」
「…そっか」

なにも気にせず寝ようとする。

「そっかじゃないでしょ?」
「え?」
「今からでも変わろうと思わないわけ?」
「…別に次の時代に行けなくてもいいし」
「はあ? 普通行きたいでしょ。変わろうと努力しなよ」
「…まあね」
「私、「まあね」っての嫌い。そのあと確実になにか含んでんじゃない。言うの我慢した言葉をさ」
「まあね…」
「それ!」
「…人間なんでも思ったこと言えばいいってもんじゃないじゃん。オブラートに包んでさ、相手が嫌な思いをしないで、それでいて一番刺さる言い方ってもんに変換しながら話すわけじゃん」
「自分の気持ちをしっかり相手に伝えられないなら次の時代に行けないよ。はっきり言うことこそが正義でしょ。はっきり言わない癖に後出しで「あのとき失敗すると思ってたんだ」とか平気で言ってくる奴とかホント無理。最初から言えよって叫びながら近くにあった鈍器でなぐりたいくらい」
「別に俺は俺のやり方で生きててもいいじゃん」
「そんな古い考えじゃ次の時代いけないって。これからは、我がままでいいの。自分の心の意見をちゃんと聞いて自分の為に動かないと取り残されるよ。我がままの字の通り、我のままで生きるの」
「もういいって」
「良くないでしょ。いつまでも布団の時代でいいの? そんなんじゃベッドの時代にいけないよ」
「なんだよベッドの時代って!」
「深く考える人は次の時代行けないよ。その場の直感で動かないと」
「いや、本当に別に次の時代に行きたくはないんだって!」
「そうやって変化を怖がって前に進めない人も次の時代に行けないから」
「ちょ、ちょっと待って!」
「なに?」
「人に自分の意見押し付けてくる奴は次の時代に行けるわけ?」
「そんな奴は次の時代行けないでしょ」
(指を指す)
「え? なに?」
「めちゃくちゃ押し付けられてるんだけど…」
「押し付けてはないし。選択肢の話だし」
「俺は今のままで良いって心の底から思ってます!」
「だから、そのネガティブ思考をやめないと」
「ポジティブです!」
「え?」
「勝手にネガティブにしないでください! 僕はポジティブで言ってます!」
「でも…」
「あと、ネガティブも悪いとは思ってません! それはポジティブな思考でそう思ってます! 色々な考えがあります! 多様性です!」
「…もういいや」

A寝る
Bくるぶし辺りを蹴る。


【3】 

16日用 新ネタ

『すみませんでした』


「なんか、この間、会社のパソコン、、、やばい、これ配信もあるんだ、、まあ、いっか。会社のパソコンを落としちゃって、、、始末書を書きました」
「バチバチに怒られるんですか?」
「最近はハラスメントのこととかもあるし、怒られはしないんですけど、謝るって言う行為が、、、まあ、私が悪いことをしたという前提があるんですが、、、働いていると「すみません! あ、そうでしたかすみません! ああ、すみません!」みたいに、会話の中ですみませんを五分間の間に30回以上いうみたいなことが多々あるんです。それが、なんていうか、捨てられたすみませんっていうか、、、言葉に意味がこもってないのに、言っちゃっている自分が自分じゃないみたいで。まあ、慣れると普通にすみませんとかごめんなさいが出てくるようになるんですけど、段々と自分の中の本当のすみませんがなんなのかわかならくなってくるし、持っていたすみませんストックがマイナスになっちゃうんです。心がすり減っていくというか、、、なんか、まだ自分が悪いと思っている時はいいんですけど、わからない時もあるじゃないですか。相手と根本的に倫理観が違う時とか。そういう時に、一般的に普通とされている正論を振りかざしてくる人が苦手で。だって、なにも言えないじゃないですか。それに、そもそもその正論は誰目線の正論なのかわからないし。それって、多数派の意見でしょ?って。私は、多分マイノリティ側の思考なんですよね。だから、そもそも他人の感情はよくわからないわけです。他人に興味もないし。だから、放っておいてほしいのに、こいつもきっと多数派でわかりあえると決めつけて説教してくるやつマジでこの世から消えてほしい。自分のエゴで決めつけんなよ。こっちは自分の考えが伝わらないの理解して、極力他人と関わらないようにしてるんだから。ムツゴロウみたいに無理やり私のオリの中に入ってこないでほしいんですよ。心は必ず通じ合うって考え方は人間のエゴですからね。じゃあ、私がどれだけミスを責められても「すみませんでした」と言うことを回避できるか実践してみていいですか?」
「あ、はい」
「じゃあ、私、ミスをした社員やるので、みなさん上司と先輩やってください」
「わかりました」

演技に入る。

「先方には、私の方からすみませんでしたと伝えておいたから」
「…はい」
「いや、はいじゃないでしょ。ありえないことなんだから」
「見積見ればわかるんだからさ」
「見たんですけど…ね」
「見たか見ないかじゃないんだよね。俺はこういうのはどういう気持ちで見てたかだと思いますよ。俺だったらちゃんと責任感をもって見ますもん。ぼーっと見てたって駄目なわけ」
「気持ちは関係ないかと…」
「いや、俺は関係あると思うよ。ぼーっと見たって仕方ないんだから」
「(首を傾げる)」
「数字はちゃんと見た?」
「見ました。はい」
「でも、見てないからこんなことになったわけだよね?」
「…まあ、結果的には」
「俺は、過程がどうあれ結果駄目なら駄目なんだと思うけどね。俺の持論だけど、結果が駄目なやつは過程も駄目だし」
「人によるんじゃないですか」
「俺の経験上は大体そうだったけどね」
「ダブルチェックはした?」
「しました」

沈黙

「なんでさ、自信満々だったわけ?」
「というと?」
「任せてくださいとか、完璧ですとか言うけど、大体いつもミスするじゃん。僕の経験上、できない人間ほど自信満々だから。だから、確認をあまくしちゃうんだよ」
「でも、確認はしましたよ? 合ってるはずなんですけどね」

沈黙

「じゃあ、どこで間違ったんだろうね?」
「それがちょっとわかんないんですよね」
「(食い気味で)だよね。だからこんなことになってるんだもんね」
「だからさ、もう言訳はいいんだよ」
「言い訳ではないです。質問に返してるだけです」

沈黙

「さっき送ったやつを見直してたじゃない。それは結局間違ってたわけ?」
「結局間違ってました」
「じゃあ、最初から間違ってたってことでしょ?」
「そうですね。筆跡も私と言えば私のなんで、私のミスなんでしょうね」
「……どうして、そんなに落ち着いていられるわけ? 君のミスだよね?」
「私がそこは間違っているかもなんですが、他の人のミスってケースもなくはないかなと」
「僕の経験上それはないよ。長いことこの会社で働いてるけど、それはない」
「だと思います」

沈黙

「前々から、数字の間違いが多いって言うのは自分でわかってるんだよね?」
「まあ、そうですね。多いとは思いませんが、ある時もありますね」
「先週もあったよね?」
「まあ、そうですね。でも、チェックは他の人より多くしてますしね」

沈黙

「あの、反省ノートは書いてるんだよね?」
「書いてたんですけど、ちょっと今月は、書けてない日もあります」
「なんで? ルールなんだから書きなよ」
「ちょっと他の仕事も忙しくて」
「いや、みんな忙しいからさ。自分だけ大変みたいなのはカッコ悪いよ」
「ダメなのはわかりますが、なにをもってしてカッコ悪いのかはわからないですね」
「忙しぶってるのは人としてかっこ悪いでしょ?」
「私は思いませんね」

沈黙

「まあ、色々あるとは思うけど、とりあえず謝ろうよ」
「違う部門の仕事も今月手伝っててっていうのもあります」
「うん。まあ、俺も若い頃はさ、いろんな仕事掛け持ちでやったけどさ、そのせいにはしなかったよ」
「それは、部長の話じゃないですか」
「俺は、先輩の話は聞いたほうが良いと思うよ」
「それは先輩の持論じゃないですか。私は私なので」
「それにしても、そとの部署のことで忙しいのは関係ないでしょ」
「でも、同じ会社のことじゃないですか」

沈黙

「でもさ、その仕事は私が指示して手伝ってきなさいと言ってるわけじゃないからさ。だろ?」
「はい。まあ、それはそうですね」
「そもそも、ちゃんとここでの仕事もできてないのにどうして他の仕事手伝うわけ? 普通に考えておかしいよね」
「そう。ウチの部署の仕事ができてからの話だよ…ね!」
「はい。まあ。普通がなんだかわからないですけど。あと僕、最近少し体調悪いのもありまして」
「少し体調が悪いから、見積もりを間違えたってこと?」
「いや、それは全然関係ないんですけど、伝えておかないとなと」
「俺的には、そういうのが言い訳って言うと思うんだけどね」
「先輩的にはですよね? 私は私なんで。
だから要は、色んなことに手を出し過ぎて、、」
「(食い気味で)そうですね。まあまあ、私が悪いのかな? 私が自分のキャパシティを把握してなかったからですね。結局私がうまくやれれば良かったのかなって感じもありますよね」

沈黙

「旅行に行った方が良い! 俺、バックパッカーだったんだけどさ。どれだけ世界が広いのかとか、一人ではなにもできないんだってわかるから」
「確かに。世界を知らないとね」
「僕なんかはインドに一年行ってたから。大学時代ね。その時に色々な価値観を知ったよ」
「本とかで充分です」
「いや、場所はどこでもいいんだよ。日本語が通じないとこに行ってさ、自分はちっぽけだなとかさ、人に助けられて…」
「(食い気味で)パスポート持ってないんですよ」

沈黙

「で、結局、ちょっとよくわかってないんですけど、損害ってでたんですか? 結局なんか、データで送って、あれ?ってむこうが気が付いてくれて、おかしいよって言って、調べてくれて、連絡来て、結局誰も損はしてないんですよね?」
「ああ、全然わかってないね。こういう時はとりあえずみんなに一旦謝るモノなの。とりあえず謝ろうよ」
「音でなら謝れますけど」
「え?」
「気持ちは入らないので音だけなら発することはできます。すみませんという言葉ではなく音を。それじゃダメですよね?」
「ダメだよ!」

「どうでした?」
「謝らなくてすんだけど、嫌われちゃうよ」
「たまには自分のものじゃない言葉も発していかないといけないんですかね」


【4】 

[終電]


「人間一人で生きていたら会話なんて必要ないわけで、でも進化の過程で人間はそこがすごく発展した。なのに僕は、人の話を聞くのが苦手だ。相手の気持ちなどを予測したりする事が僕にはできない。予測するけど、予測が大体外れる。で、なんか素っ頓狂なことを言ってしまったりだとかして、相手の頭の中が見えなくなってくる。そういったことがすごくよくある。会話の中で視覚情報で相手を感じたり、予測したり、気持ちを汲み取ったりと同時に沢山のタスクを開く。この行為は生物としてかなり高等なことだと思う。だから、人間凄いなぁと思う傍らそういう行為が自分は凄く苦手だから、人としてどうなんだろうなと思ったり、今ちょっとそこの狭間でいろいろとグルグルしている」

「例えば、飲み会の時とかに、大勢で集まるじゃないですか。で、会社が大塚なので池袋とか、その近辺で飲むんですけど。でも、僕は神奈川に住んでるんで、だから終電とか早いから、先に帰っちゃうんですね」

「おい! このタイミングでピッチャーで頼んだの誰だよ」
「全然飲めるでしょ!」
「すぐ寝るくせに何言ってんだよ」
「うるせーよ」
「あの」
「どうしたの?」
「終電早いからそろそろ出るよ」
「え?」
「うそ?」
「ごめん」
「もう出るってこと?」
「そう」
「いいよ、最悪うち泊まってきなよ」
「いや、、、」
「明日早いの?」
「そういうわけじゃないけど」
「盛りさがるじゃん。もう少しいなよ」
「いやもう終電だからさ」
「マジで言ってんの?」
「うん、全然気しないでみんな楽しく飲んでて」
「えー、もっと飲もうよ」
「ごめん。帰るわ。いくら?」
「伝票一回貰う?」
「そうしようか」

「そう、なんか、飲み会とかの席では、結構なんか、自分では、浮いちゃってるなとか思ってて。なんだろ、普通に話してる時も色んなテーブルで色んな話で盛り上がってて、でも、自分のテーブルだけ話がはずまなくて、愛想笑いとかされてるなぁなんて感じて。で、終電が早いから、先にじゃあねとか言うと」
「じゃあさ、もう一件だけ行こうよ」
「とか言って、誘ってくれるんですけど、なんか馴染めてない気がして、でも、一応ついて行こうかなとか考えるんですけど、やっぱり帰ることにする」
「でも、先に帰ったら悪口言われてるんじゃないかなって想像したりする」
「だったら、残ればいいのに」
「カラダは、みんなの集いには「興味ないもんね」みたいな態度をとるんだよね。でも、気になるってことは、自分は本当はみんなが何してるかすっごく気になっちゃうタチなのかも」
「かもって、自分のことなのにわからないの?」
「本当の本当はどうなんだろう? 自分だけ誘われない、とかいうことがあっても気にしたことほとんどないしな…」
「だったら集まりには興味ないんじゃない?」
「人との関係性において、根底の根底で自分が本当はどう感じているのかというのが、自分でもわかっているようで、よくわからない、、、」
「うーん」
「本当は、無意識に、みんなから置いてきぼりになる恐怖や焦りみたいなのがあるのかも」
「集団というものへの自分の本心って、他者への気遣いとかも入ってくるから、もはや自分だけの意志ではないのかもね」
「最近は、自分の人生の問題を、個として、考えることが難しくなってきた感じはする」
「ネットを使えば、個の人生の問題にすぐ他人を巻き込むことができるからね」
「どんどん自分のことがわからなくなりそう」
「今日は良い日だったって言っても、本当に自分の過ごした一日のことなのかわからなくなる」


【END】 

【就寝】

「深夜の散歩。人気のない道は自分の存在さえも消す感じがする。そこには足音だけ存在する。気が付いたら、商店街にあった行きつけの居酒屋がなくなっていた。その隣の喫茶店は普通にまだある。誰もいないコインランドリーで乾燥機が回っている。誰もいない公園のベンチで煙草をふかしながら池を眺める。なにか達成感や、生き甲斐が欲しい。なんて思ったこともあったんですよ。でも、そんなものがあっても何かが変わる気はしなくて。今は、なにも期待せず生きている。と、いうか息をしている。他人事じゃないなんて思うこともあるけど、結局は他人事で。たまに他人と自分の境界線がわからなくなるけど、やっぱり自分は自分で。自分は他人に認識された時にナニかになるんだなーって最近思う。つまりは自分次第的な。劇的な物語がなくたって、ただなんとなく、いつもより綺麗に洗濯物が畳めただけで救われる夜もある。ナニがってわけじゃなくて。なんとなく」

家に入り寝る準備をする。

「だからさ、結局さ、後藤田君が昼休みとかに言ってた改善点なおせば絶対業績上がると思わない? でも、群れてる人間には、鈴木君の良さ伝わんなかったよね。孤立しちゃってさ。俺だけだったもの。後藤田君の話し理解できるの。普通にちゃんとしてる人が孤立して、変な奴らがのうのうと生きてるのって、どうなんだろうね」

いつもの場所に寝る。

彼女が部屋に入ってくる。くるぶし辺りを蹴って二人で少し笑い寝る。

「……まあな」


終演



↓この記事を読むと更に公演が楽しくなります。是非読んでみてください。


3月公演詳細
Performance of the day
『無表情な日常、感情的な毎秒』3月公演

画像1

2021年3月16日・21日 CHARA DE新宿御苑
原作・演出 長谷川優貴

公演情報・感染対策はこちら
https://yennui.com


【クリエイションメンバー(50音順)】
<16日出演チーム>
浦田すみれ
鈴木まつり
長井健一
二田絢乃

<21日出演チーム>
小林駿
齋藤永遠
波多野伶奈
結木ことは
ヨシオカハルカ(演劇ユニットRe-birth)

【タイムテーブル】
2021年
3月16日(火) 14:00/19:00
3月21日(日) 13:00/18:00

【チケット】
<券種・料金>
劇場観劇チケット【各回10名限定】(当日精算・日時指定全席自由) ¥2000
配信観劇チケット(事前精算・1週間アーカイブ付) ¥800
(予約・当日共通価格)

<予約>
劇場観劇 カルテット・オンライン

配信観劇 ツイキャス プレミア配信(1週間アーカイブ視聴可能)
<16日14時>
https://twitcasting.tv/hase0616/shopcart/58758

<16日19時>
https://twitcasting.tv/hase0616/shopcart/58760

<21日13時>
https://twitcasting.tv/hase0616/shopcart/58761

<21日18時>
https://twitcasting.tv/hase0616/shopcart/58762

【会場】
CHARA DE新宿御苑
〒160-0004 東京都新宿区四谷4丁目7-10 小林マンション3階

【お問い合わせ】
yennuinfo@gmail.com

エンニュイYouTubeチャンネルにも稽古の模様をアップしています。高評価、チャンネル登録よろしくお願いします!





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