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将棋漫画が熱い今日この頃、「バンオウ-盤王-」(綿引智也、春夏冬画楽 著)が面白過ぎる件について(hasegawonderの月刊漫画2024年2月号)

漫画の題材に色々なものがあれど、対決するなら1対1がやっぱ盛り上がるワケじゃないですか(唐突)。だから長いことスポーツ漫画は1対1が描きやすく、静と動が分かりやすい野球が隆盛を極め、他の集団スポーツは描き方が考えられるまで時間がかかった的な記事を昔なんかで読んだことある気がするよね(テキトー)。

その理屈で言えば、スポーツじゃないにしろ「将棋」なんて非常に漫画に向いてるんじゃなかろうかと思っていたワケよ。俺がティーンエイジャーの頃、将棋漫画といえば「月下の棋士」くらいしかなかった(と思う)ことを考えれば近年はだいぶ増えてきたし。んで俺も将棋って各コマの動かし方くらいしか分かんないけど、あれがもの凄く戦略性に富んだゲームであることは意外と皆知っている。

ちょっと前に柴田ヨクサル先生の「ハチワンダイバー」がブレイクしたり、羽海野チカ先生の「3月のライオン」がヒットしたりで微妙に波が来始め、最近はそこに現実の藤井聡太棋士の勢いなんかもあって、漫画の1ジャンルとして定着しはじめて来たんじゃないかというイメージがある。俺が読んでないところだと、「それでも歩は寄せてくる」や「龍と苺」なんかはだいぶ人気ありそうだもんな。奇人的で悩みの多い主人公を描く「花四段といっしょ」や、病弱なこと以外ほぼ無敵の女流棋士に挑む天才女子高校生を描く「永世乙女の戦い方」みたいに、俺の好きな感じの漫画もだいぶ出て来てるし。

一方で、一回将棋に挫折した人がアマチュアからプロを目指す喪失感たっぷりな所から始まる「リボーンの棋士」とか、初の女性プロ誕生のシーンから始まったクセ強キャラ揃いな「将棋指す獣」みたいな俺が可能性を感じた漫画が相次いで打ち切りになり、なんとも言えない「うあぁー‼︎」感を感じていたところにようやっと推せる将棋漫画がジャンプ+から登場だ。この面白い漫画を、俺たちは打ち切らせるワケには行かない‼︎(まぁ今のところ人気もありそうだし、余計なお世話かしら。とかnoteが書き上がらないウチに、フツーにちゃんと連載終わりそうヤバい‼︎)

てなワケで、今回のテーマは「バンオウ-盤王-」について‼︎

吸血鬼感ゼロの主人公、月山の設定が見事すぎる

永遠の命を持て余していた吸血鬼・月山が出会ったのは“将棋”。将棋の奥深さに魅了された彼は三百年を経て圧倒的な棋力を手にしていた。人間社会で正体を隠してきた月山だが、馴染みの将棋教室を救うために最高峰の棋戦・竜王戦に挑戦することに! 凡才吸血鬼VS天才棋士。将棋界を揺るがす戦いの幕が上がる!

1巻のあらすじより

ちなみにこの時点でちょっと気になった人は、以下の分なんか読んでないでさっさとジャンプ+のリンクに飛んでバンオウ読んでね‼︎

主人公月山はウン百年以上生きる吸血鬼だが見た目は20〜30代のシュッとした男性で、将棋に出会って以来300年以上の将棋を見てきた蓄積がある。日中体力が落ちるとかの弱点こそあれど、プロ棋士にも勝っちゃったりするワケね。

そうなるとフィクションだけど「ズルい」感が出そうなもんだけど、これが全然出ない。何故か?

それは月山が「天才」じゃないからに他ならない。

将棋の才に恵まれなかった代わりに300年分の蓄積、もっと言えば研究と言ったところか。300年将棋を独学で研究してきた人間(吸血鬼だけど)が、現役のトッププロたちに何処まで通用するのか? という物語である。

ここが実は、めちゃくちゃよく考えられた話だと思うのよ。

というのも、将棋の話を考えた場合上に挙げた漫画たちは(俺が読んでないのも多々あるけども)プロであったり、挫折した人でも奨励会三段(詳しくはググって下さいませ)まで行ってたりで基本的に「天才」および「天才だった」人の話なんだよね。もっと言えば将棋の才能がある前提の話になるから、凡人が入り込む余地がないんだよな。

別にそれはそれとして面白ければ全然構わないんだけど、話は「天才ゆえの苦悩」と「将棋界は天才・神童ばかりだけど変人の集まり」に焦点が集まりがちというか。分かりやすい例で言うと、それこそ最近ジャンプ+で連載してる「目の前の神様」という将棋漫画との比較が分かりやすいですな。


初回全話無料のマンガアプリ「少年ジャンプ+」で「[1話]目の前の神様」を読んでます! #ジャンププラス https://shonenjumpplus.com/red/content/ec1079729

なんかリンクが上手く貼れんので、画像で失礼


この漫画も面白いんだけど、主人公は天才なのに自分よりちょい下に藤井聡太的な天才が出てきたことによりスランプに、またそこでの将棋以外のミスが全国放送されネットミームになりトラウマに……と言った第一話が分かりやすいように、これは天才の再生の物語である。でも主人公には理解者がいて、まだ期待もされてる若手。上で挙げた「リボーンの棋士」は、奨励会からも退会してコンビニバイトをしながらも将棋を打つのと比べると俺の琴線に触れるのは後者なんだよね。月山もコンビニバイトしてるし‼︎


ちょっと話が逸れたけど、それでこのバンオウというか月山ですよ。彼は将棋を始めて300年の蓄積があれど基本は凡才であり、愚直に努力の人なんだよね。天才しか許されない競技に初めて登場した凡才と言ったら言い過ぎかもしれんけど、その彼がちょっとズル目のバックボーンを持ってプロを倒しに行くからワクワクしませんかね⁉︎

もう一個比べるのもアレだが、某有名囲碁漫画の天才霊が関係ない少年に憑いて勝っちゃう話の方がズルいんだからいいでしょ‼︎

「スナックバス江」より。なんか色々敵に回した気がするが、後には引けぬ‼︎

「やっぱズルくない?」という声を封殺したところで、この月山が吸血鬼という設定に至ったのが如何に見事かといいますと。

  • 歴史上、吸血鬼が人間と争ったりした形跡が(少なくとも江戸時代〜現代日本)ない

  • (今のところ)ニンニク、十字架にダメージを受ける描写はない

  • 陽の下にいるとじわじわとダメージは受けるが、灰になる訳ではない

  • 人間の血が吸いたくなる等の描写はなく、血は必要そうだがAmazonらしきもので豚の血を買って飲んでいる辺りでなんとかなってそう


てな辺りの感じから、ぶっちゃけあまり吸血鬼である必要性はあんま無いっちゃ無い。フックの部分として、パワープレーギャグ要員の吸血鬼ハンターであるヒロイン(ヒロイン?)アンナさんを輝かせるためってことかもしれないけど、多分これは遊びの部分だと思う。一回派手に本筋に絡めそうにしつつ、そうはしなかったしね。

設定モリモリなアンナさんだが、完全なるギャグ要員(ちょいちょいシリアス展開は来るけども)

なんだけど吸血鬼設定にしたかった部分の一つとして「長寿」、というか「不老不死」という設定にしたかったんだろうなと。

「頭脳の格闘技」なんてキャッチもある将棋という競技。加藤一二三氏の例を出すまでもなく、老年になってもプロ選手であることは出来そうだけれど基本的には若手の内に目が出なければその後出てくることは難しい。先にも言った通り、基本的には将棋という競技が「天才的な若者」であることからスタートするのが前提なのだ。全国から出てきた天才やら神童やらが挫折、そういう人たちの屍の上に立つのがトッププロたちであるワケよ。

その天才集団に凡人が勝つ方法はあるのか? と考えた結果……

年月かけるしかないっしょ‼︎

天才に凡人が勝つことができるリアリティが最も簡単かつ難しいのは「努力」。そして今まで表舞台に出てこない理由としての「吸血鬼」、しかし300年見てきた蓄積を、薄ら何処かで試したい願望もあった月山。これらは凄く噛み合った設定だと思ったんだよ。

これが野球とかサッカーみたいにスポーツだと、どうしてもチート的な身体能力になっちゃうから余程上手いアイデアを持たないと難しそうだけど、将棋ってのが絶妙なんだよなぁ……

どこまでもお人好しな月山の好感度が高い理由

上で散々ズルさがないと言ってきたけど、そう見えるのは基本的に月山がシンプルに「いい奴」だからってのもある。そもそも竜王戦に出場を決意する大義も常連である将棋教室を救うためだし、子供も好きだし人に優しい。

ただの好青年と言ってしまえばそうかもしれんが、彼がヘイトを溜めない最も重要なポイントはプロ棋士たちにちゃんとしたリスペクトを持っているシーンが描かれているからかなーと思う。

月山からしたら産まれて20年そこいらで自分の蓄積を超える考えを生み出すプロ棋士たちに、なんなら嫉妬する描写の一つや二つあっても良さそうなモンだが彼はリスペクトの方が強い。

こういうところはシンプルに好感が持てるし、いいシーンが多い。

でねぇ、それは建前として俺が月山の何処に1番好感が持てるかっていうポイントが明確にあって。

300年将棋を見続けている吸血鬼とは、例えば「飽きない理由はなんだ」とか「そんなにずっと同じ競技見てることある?」みたいなことが浮かぶかもしれん。「そこは漫画だからさ」ってドライに納得することもできるが、もっと根源的というか、ちょっと自分に置き換えた場合よ。この月山の「そこそこ隠れて生活してれば、自分の好きなモノをずっと見てられる」状態ってのは、将棋じゃなくても中々魅力的じゃないかなって思わない? 俺で言えば300年そこまで老けずに漫画を読み続けられるとかね。人によっちゃ映画やアニメを見続けられるとか、ずっと競馬の予想をし続けられるとか、プロ野球を見続けられるとか。そんなのオタクドリームみたいなモンでしょ‼︎

月山が50年推してきた伊津先生との対局は、この漫画で1番の名シーンじゃなかろうか。文字通り将棋オタクが、50年見てきた推しの棋士と戦うというのは完全なオタクドリームに他ならないワケよ……結末も完璧だったし、推しから認めれた試合後の悲哀・感傷を見ることがこの漫画の1番の醍醐味かもしれないから気になる人はここはぜひ読んでいただきたい。

つまりバンオウは不老不死を手に入れたオタクの話なんだから(暴論)、そんなの共感しかないに決まってるじゃないかってことですよ‼︎

「スナックバス江」より


展開が出し惜しみなくガンガン進む

バンオウは今のところ5巻で来月4月に6巻発売、もう完結するような予告もあるのでおそらく10巻行かない程度で終了すると思われるが、一気に読める割に話が結構濃密。

これにはジャンプ+の性質が週刊少年ジャンプより早い展開を意識してるような気もするけど、それを差し引いても読んでてグイグイ引き込まれるテンポの良さがある。事実俺は1話からずっとアプリで読んでて、その後単行本も買ってるけど今回この記事を書くに当たって通しで読み返しても毎回「うわこの漫画面白え‼︎」って毎回なってるからいい漫画です。たまに来る強烈なパワープレーギャグ回とかも大好き‼︎

他にもこの漫画について言いたいことは山のようにあるんだが(鈴木とか鈴木とか鈴木とか‼︎)、早いところ書ききらないと連載が終わりそうなんだよ……終わると言っても打ち切りではなく、予定通りに終わる感じなのはこの漫画の編集の人もインタビューで狙い通りと言ってたので間違いないところだと思う。

てなことで、これを読んでちょっとでも「面白そう‼︎」と思った人は今すぐジャンプ+のアプリを開いて読んでくれ。

もう一回リンク貼ろうと思ったけど、なんか最近noteは上手くリンクが貼れないので上のリンクから飛んで下さいね、俺との約束だ‼︎

出典のない画像はすべて「バンオウ-盤王-」より




いきなり単行本行きたい人用電書リンクも貼っとくぜ‼︎


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