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投資視点|通期決算前の確認事項10選

  多くの国内上場企業の決算月は3月のため、通期決算開示を目前に控えた4月は個別株投資において事前確認しておくべき事項が多いです。思わぬ考慮漏れで足元をすくわれないように、ポジションを抱えている又は抱えようとしている銘柄は、下記の「確認事項10選」をチェックしておきましょう。 

①計画と着地見込みの差異
 会社が開示している最新の業績計画と着地見通しが相応に異なるなら、事前に修正開示が出る可能性がある点に注意しましょう。基本的には売上高で10%、各段階利益で30%の乖離が修正開示の目安となります。「前期は業績が悪かったが中長期のポテンシャルは高いので、悪材料が出尽くしてからロングポジションを持とう」、「1~3月の統計や月次売上を見る限り短期業績は悪いから、決算前にショートポジションを持っておこう」といった投資戦略のタイミングを見誤る可能性があります。

②過去のガイダンスの出し方
 ガイダンスの見栄えが良いか悪いかは、決算発表直後の株価動向への影響が相応に大きいです。過去のガイダンスの出し方(挑戦的or保守的)は事前に確認し、決算跨ぎでポジションを持つ上でのリスク要因に成り得ないかは確認すべきでしょう。また、大型株の場合は「今までどのようなガイダンスを出してきたか」自体はマーケットに織り込まれ済みのケースが多いので、「昨今の業況や経営トップの交代等から今までと異なるガイダンスが出る可能性が無いか」といった観点で確認するのが望ましいです。

③海外収益比率と実績・計画の為替レート差異
 コチラもガイダンス上の影響が大きな項目です。本質より見た目の話に近いですが、前期と今期でどの程度為替レート前提が異なるか、また利益インパクトはどの程度かは事前に確認しておきましょう。23年4月で言えばドル円が130円強で安定してから日が経っているので、アナリストカバレッジの多い大型銘柄では為替レート差異はマーケットに織り込まれ済みでしょうが、中小型は十分でない可能性があります。

④有利子負債総額と支払利息÷経常利益倍率
 普段はそこまで気にする必要の無い項目ですが、23年4月に限って言えば長期金利が上昇しているので金利負担増リスクは気にかけておくべきです。特に金利依存度の高い不動産の開発や流動化プレイヤーには気を配っておきたいです。

⑤リスク性資産の状況
 回収可能性に疑念がある固定資産は減損処理が検討される時期です。特にDCFで回収可能性を判定している場合は、長期金利上昇から適用割引率が上がり価値評価が厳しめになる可能性があります。日本基準であれば特損処理になるため営業利益段階までの見栄えは悪くなりませんが、ROEの低下には一定留意が必要です。なお、減損処理で次期以降の償却費負担が減る点も同時に押さえた上でのポジション判断が重要になるでしょう。

⑥実績・計画の実行税率差異
 テクニカル且つ細論と軽視されがちですが、何かしらの理由でこれまでと実効税率が変わる場合は、結果的にP/E水準の見え方が変わる重要要素ですので留意が必要です。過去蓄積した繰越欠損金の消化終了に伴う標準値への回帰、オーナー持分低下等に伴う留保金課税の未適用化、資本金額の変更に伴う事業税⇔外形標準課税の変更(外形標準課税が計上される販管費水準も合わせて確認)、M&Aによるのれん償却費の積み増し及び会計上利益と税務上所得の乖離拡大(損金不算入項目の拡大)あたりは往々にあり得る実行税率変更事由です。

⑦キャッシュポジションと自社株買いの方針及び過去実績
 還元方針で自社株買いを明言していなくても毎年同じ時期に一定額の自社株買いを実施する企業は相応にあります。株価水準やキャッシュポジションを踏まえ、自社株買いの実施可能性があるか頭の体操をしておきましょう。ただし、特に商社をはじめとした大型株に関しては、自社株買いの規模が期待に届かずネガティブ視されるケースも相応にあるので、実施可否だけでなく還元余力を踏まえた実施額まで見極めることが不可欠です。

⑧配当方針と足元業績
 増配や配当性向の引き上げがあり得ないか、有報の配当政策の項目や説明会資料等の言及を確認しておきましょう。グロース→プライムへの指定替えがあり得る銘柄の場合、セットで還元強化を謡う可能性もあります。特に、低P/E銘柄で配当性向の引き上げが行われた場合は、途端に配当利回りで見て魅力的な銘柄に早変わりする可能性がある点は注目しておきたいです。

⑨中期経営計画の経過年
 前期が最終年の場合は新中計が、今期が最終年だとしても次期中計に向けた言及が増え始める局面で、短期でなく中長期目線の評価が意識されやすくなります。短期業績をカタリストにトレードしようと考えている方は、中長期目線で想定ポジションと逆の評価がされ得る要素が無いか、確認するのが望ましいでしょう。「中計サイクルは流石に忘れない」と思う方が多いでしょうが、4-5年前に中計発表した後に形骸化し、決算説明資料での言及が無くなっている企業も一定ありますので、改めて確認しておくべきです。

⑩同業他社の決算発表日
 類似企業がマーケットで複数上場している場合、先に決算発表した銘柄の業績動向が業界環境や収益動向のベンチマークと成り得ます。目当ての企業の決算が発表される時には、既に好況・不況は織り込まれ済み、ベンチマークを上回る業績だったか否かが短期株価の焦点となるパターンがあり得ますので、セクター内の銘柄はポジションの有無に関わらず一通り決算確認するよう心がけましょう。

 以上、「通期決算前の確認事項10選」でした。何かしら漏れてる重要論点があれば、下記コメント又はTwitterのDMなりでご連絡下さい。

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