売上分析③|業界分析は代替市場も合わせて確認しよう
はじめに
前回は、売上分析のブレイクダウンの仕方として単価×数量の推移を2軸グラフで把握する方法をご紹介しました。今回は、個社の売上分析を一定進めた後、業界動向を踏まえた理解に落とし込む分析方法について、図表を用いたケーススタディで、視覚的に企業分析を進める方法をご紹介します。
なお、未読の方は事業理解①|兎にも角にも、まず有価証券報告書の「事業の内容」の項を読もう|長谷川 翔平/フリーアナリスト|noteからの閲覧をオススメします。
まずは関連業界の統計情報を探そう
業界分析のファーストステップは、信頼できる業界統計を探すことです。政府統計や業界団体が月次~年次ベースで集計・公表する統計情報が無いか確認しましょう。検索エンジン窓で「XX業界 統計」「XX業界 協会」などの単語で検索してみて下さい。
総務省「家計調査(https://www.stat.go.jp/data/kakei/index.html)」、経済産業省「生産動態統計(https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/index.html)」などは、相応に細かい分類で業界別データがあり、また広範な業界で参照可能な統計となります。仮に適切な統計資料が見つからなければ、富士経済・富士キメラなどの調査機関のレポートが無いか確認してみましょう。
直接的な市場動向だけでなく、代替市場の動向も合わせて確認しよう
業界分析の一つのポイントは、直接的な市場の推移だけでなく代替市場の動向も合わせて確認することです。例えば、電子書籍業界に関して調べると以下図のように高成長な市場だと分かります。
【電子出版の販売額の推移】
これだけ見ると、電子書籍はコミックを中心に高い成長が続くように予想したくなりますが、代替市場である紙出版統計と合わせて確認すると少し見方が変わります。
【紙・電子出版の販売額の推移】
こう見ると、縮小する出版業界の中で紙→電子化のシフトが高い電子書籍の成長率に繋がっていたと分かります。出版市場全体として見ても19年を境に縮小→拡大にシフトしてはいますが、国内人口が縮小傾向にある中では高成長の持続性は期待しにくいでしょう。
また、書籍の電子化率の状況をみると、電子出版の市場拡大を促進したコミックは既に一定の電子化を果たしており、アップサイドは限定的といった見方が出てくるかと思います。
【コミックの電子化率の推移】
可能ならば業界統計も単価×数量で分析しよう
統計データ上の制約から困難なことも多いですが、業界統計に関しても企業分析同様に単価×数量でブレイクダウンした分析が出来ないか確認しましょう。
例えば、首都圏の新築・中古マンション統計を調べると、以下図のように、新築マンション数量が減少する一方、中古マンション数量が拡大しており、需要シフトが進んでいると分かります。
【首都圏の新築・中古マンションの戸数推移】
新築と中古を比較した際、中古の優位性の一つは安価な価格でしょうから、これだけ需要シフトが進んでいると価格優位性が薄れている可能性がありますが、同じく単価推移を見てみると新築-中古スプレッドは60%でほぼ一定であり、優位性は薄れていないと分かります。
また、不動産価格や建築資材の高騰から新築マンション価格が上昇し、それにつれて中古マンション価格も上昇してきた可能性がここから推察できると思います。
【首都圏の新築・中古マンションの単価推移】
このように業界統計についても単価×数量に分けて調査できると、この後、個社業績と業界動向を掛け合わせて分析する際、より示唆のある深い分析になりやすいです。
業界統計が無ければ業界内企業の売上高合計を参考にしてみよう
もし、適切な業界統計が無いようなニッチ業界や新興業界の動向を把握したい場合には、業界内の主だった企業の売上高合計を確認するのも一案です。
例えば、インターネットを用いてスキルの共有側とスキルの需要側をマッチングするプラットフォームを提供するスキルシェア業界は、公的な統計は確認困難なため以下図のように代表企業の積み上げ売上高の推移でもって業界の成長率を把握する手段があります。
【スキルシェア各社の流通高の推移】
おわりに
以上、業界分析の手法や着眼点を紹介しましたが、あくまで企業分析に落とし込むことが主目的ですので、次回は個社業績と業績動向を掛け合わせた分析手法の一例をお伝えします。
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