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「ただいま」と言える場所 8月28日

毎年恒例となっている松本行き。
写真家の大沼ショージさんとともに、漆の宮下智吉さんのもとへ
展示のDM&映像の撮影、そして打ち合わせをするためだ。
でもそこにプラス、どこか親戚の家にでも行くような近しさが加わって、
宮下家の子どもたちの成長も楽しみのひとつとなっている。

これまではずっと秋頃に訪れていたのが、今回初めて晩夏の松本を旅することとなった。
松本へは郡山から新幹線で大宮まで行き、長野新幹線に乗り換えて長野で下車。そして長野からは特急電車に乗って松本へ向かう。時間で言うと4時間弱の旅。でも普段は目にしない車窓からの風景は新鮮で、それほど移動時間は気にならず、飽きることはない。特に長野→松本間の景色は時間が許すのであれば普通列車に乗って、さらに途中下車なんかもしてみたいと空想している。ホームから見えるのどかな景色。そこでベンチに座ってコーヒーでも飲みながら、ぼんやりと過ごしてみるのはどうだろう。
駅名の由来や、土地との関りを想像してみるだけでも面白い。実をつけたりんご畑、やや黄色く色づき始めた田園風景。
特急電車の速度はそれらを捉えるには少し速すぎる。今だけの、今日だけの色と光が目の端をビュンビュンと流れて過ぎていく。それが惜しくて居眠りもできないまま松本駅に到着した。

空が近いなぁ。入道雲を見上げる角度が三春とは違う。
電車も駅も松本の町中も、大きな荷物を抱えた外国人の方や観光客らしい方々が多く、とても平日とは思えない。気温の高さと相まって「夏休み」の空気がまだまだ漂っていて、こちらもそんな気分になってしまう。
賑わいを見せる町中から車で20分ほど山へ向かったところに宮下家がある。毎年見ていた山の木々はまだ緑が深い。こうべを垂らす稲穂が風になびいている田んぼの景色も新鮮だ。知っているはずの風景が見せる違う季節の顔。その顔に出会うことができた嬉しさがこみあげてくる。そして一年ぶりに訪れた宮下家に着いてホッとしている自分がいる。

「ただいま」

自分の家や実家と同じように、こう言える場所があることが嬉しい。
撮影という目的があって毎年足を運んでいるのだけれど、それだけではここまで何年も通い続いていただろうか。目的だけではない何か。余白のようなもの。かたちのない、その何かを探し続けているのかもしれない。


8月28日(月)松本市 最高気温33℃ 最低気温21℃
松本の山の上は町中よりもさらに空気が乾いていて秋の匂い。