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役者人生に微妙で、重大な影響を与える「代役」。玉三郎、三津五郎、海老蔵、菊之助について。

 代役という言葉にひかれる。
 歌舞伎の世界に留まらず、代役によってチャンスを得た人は多いに違いない。
 私が一九九九年から五年ほど、日本経済新聞で現代演劇の批評を書く機会を与えられたのも、代役だったと聞く。
 予定していた筆者に不都合があって、亡くなった文化部編集委員の川本雄三さんが推薦して下さった。川本さんとは芸術祭の審査委員でご一緒していたときに毎日のように劇場でお目にかかった。その決め手になったのは、「観劇態度がよい」だったと周囲から聞いた。姿勢を崩さずに観ていたのがよかったのだろう。

 以来、代役という言葉に敏感になった。
「代役か、なぜ、初めから自分は選ばれなかったのだろう」
ではなく、
「チャンスはこんなふうにやってくるのだな」
 と、前向きに考える癖がついた。

 今回、十二月歌舞伎座第四部で、菊之助は、七日間とはいえ、玉三郎の代役として、岩長姫を勤める。近松門左衛門の作品であり、こんなかたちでもなければ、演ずる機会はなかったかもしれない。代役は、チャンスであり、これでひとつ引き出しが増えたと思えば、何よりのことだ。

 菊之助は、今、どんな思いで、この役を受け止めているのだろうか。おそらく、筋書の談話には、間に合わなかったはずで、代役が本役にならずに終わったくらいの時点で、その感想を聞いてみたいと思った。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。