【劇評307】古典を着実にアップデイトさせる團十郎の構想力。
古典をいかに現代に向けてアップデイトするか。
團十郎は、歌舞伎座七月大歌舞伎の夜の部で、この永遠の課題にまっすぐに取り組んでいる。猿翁が三代目猿之助時代に提唱した「3S」が、すぐに思い浮かぶ。
猿翁は、STORY(物語)とSPEED(速度)とSPECTACLE(視覚性)を、歌舞伎が生き残るための必須条件と考えていた。
古典は、見巧者や歌舞伎通のためにあるのではない。初心者が無条件で楽しめるための工夫を、團十郎もまた心がけている。
まずは、『神明恵和合取組 め組の喧嘩』である。
序幕に「島崎楼店先の場」を出して、鳶の者、亀右衛門(市蔵)と長次郎(右左次)の酔った姿を見せて、続く「広間の場」の鳶と相撲の諍いが起きた伏線を見せる。
さらになかなか出ない「焚き出し喜三郎内の場」で、喜三郎(又五郎)と辰五郎(團十郎)の友愛を見せる。さらに、戸口で立ち聞きしている辰五郎の女房お仲(雀右衛門)が、ふたりの話を最後まで聞かずに去ったために、次の「辰五郎内の場」での離縁騒動と繋がった。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。