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藤田俊太郎 師・蜷川幸雄の思い出。その5 俳優の力を真正面から問う。よい演出家の条件は、愛と怒りの強さか。

藤田 蜷川さんの場合、俳優に対する怒るパワーを持ってる愛の強さと同時に、これは素晴らしいことだと思うんですけど、愛と同じくらいの憎悪感というのも持っていたと思います。じゃなければ、いい仕事できないです。そういう蜷川さんがすごいなって思うのは、歓びと同時に反骨精神がある。自分を鼓舞する、マイナスを力に変えていくものすごい欲望がありましたね。もしかしたらその断られたってことすらも、力に変えていく才能をもっていた気がします。

長谷部 この間木場勝己さんに話を聞いたんだけど、蜷川さんが作品作りの原点と重ねておっしゃっている櫻社の事件をかなり捏造している部分もあるのかと思いました。1対50で罵られたって言ってるけど、そうじゃなかったって。みんなしばらく沈黙して、誰かがぼそぼそってしゃべっただけだと木場さんは証言しています。蜷川さんがいいうように、全員が蜷川さんを吊るし上げた雰囲気じゃなかったみたいです。

藤田 そうなんですか。えー。

長谷部 木場さんはまだペーペーだったから、隅のほうに居て、「俺が止めたかっていうとそうじゃなかったんで、俺も卑怯な男ですけど」って。でも、そんな吊るし上げみたいなことじゃなかったって言っていらっしゃいましたたよ。だから、蜷川さんは、その時代の経験を集約して、創作の原動力にするために、参宮橋の事件をわざと捏造してた部分もあるのかなと思いました。

藤田 思うんですけど、蜷川さんってすごい天才なんですよね。だから、話が変わることってよくありましたよ。「そんなことなかったのになぁ」って。要するに、1の話が100くらいになっているっていうことがよくありましたね。

 だから、櫻社の話も蜷川さんの気持ちのなかで大きくなっていって、いつのまにか変わってしまったって思います。蜷川さんの話ってだいたい間がないですよね。すごい極端ですよね。櫻社の話や、映画を見ていたら、少年にナイフ突きつけられた話。あれも変わってるというか。その方自体どこにいるかわからないですけど、それ自体も作り話なんじゃないかっていう疑いもあります。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。