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【劇評204】死の気配が漂うテレビ局。感染症による突然の死が、劇に盛り込まれている。永井愛『ザ・空気』三部作が完結した。

 永井愛の『ザ・空気Ver.3 そして彼は去った……』は、前二作と同様、テレビのニュースショウを舞台にしている。

 反原発報道で圧力を受け、自ら首をくくった桜木正彦の影が、今を生きる人々の生き方に影響を与えている。

 今回は、かつて反権力を唱えていた元・新聞記者で、現在は政権を擁護する政治ジャーナリストの横松輝夫(佐藤B作)を中心に物語が展開する。70.4度の発熱がある横松は、別室に隔離されるが、その部屋は桜木が縊死した部屋だった。

 アシスタント・ディレクターの袋川(金子大地)は、横松のわがままに振り回される。10年のAD生活を全うしてチーフディレクターにたどりついた新島(和田正人)は、万事、無難に事態を収めようとする。

 この日は、独自の報道を貫いてきたチーフ・プロデューサーの星野(神野美鈴)が番組を担当する最後の日だった。アーカイヴ室に異動する星野は、周囲から左遷ではないかとささやかれている。

 メインキャスターや報道局長は、舞台には登場しない。
 体制の擁護に回る彼らが姿を現さないことで、現場に立つ人間にかかる圧力は、目に見えないからこそ忖度を加速させるのだと思い知らされる。将来に野心を持つサブキャスターの立花(韓英恵)によって、局内の微妙な立場の相違が明らかになる。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。