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【劇評213】第三部Aプロ。玉三郎の『隅田川』。これは夢かあさましや

 役者が積み上げてきた技藝と伝承は、どんな関係にあるのか。

 歌舞伎座第三部Aプロを観て、そんな疑問が浮かんだ。まずは吉右衛門、幸四郎の『楼門五三桐』である。
 石川五右衛門という世紀の盗賊のイメージを極端に拡大した演目である。南禅寺に楼門に陣取り、天下を見下ろしている。その気宇壮大さがテーマの演目である。

 吉右衛門は時代物での大きさを見せる英雄役者である。国崩し、辛抱立役の第一人者であるが、こうした役者の大きさを見せる芝居でも無類の大きさで舞台を圧する。
 この大きさは、もちろん客席へと向いているが、相手役として奈落で出を待つ幸四郎は、どんな心持ちで、吉右衛門の台詞を頭上から聞いているのか気になった。
 もとより奈落から、舞台の吉右衛門が見えるわけではない。けれど、その音声の微細な動きは感じ取れるだろう。

  芯になる役者が相手役を指導するのは、よくあることだけれども、同じ舞台に立つことだどれほどどの伝承となるかはいうまでもない。  
  舞台での息遣い、呼吸する肉体が、間近にいる。そこにある役者同士の信頼感を感じて、舞台の面白さをふたたび感じた。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。