雑誌「演劇界」が休刊となる。その残酷に身がすくむ。
雑誌「演劇界」の休刊が決まった。
頻繁に寄稿していた時期があるので、突然の報を聞いて、なにか取り戻しようもない決断が下されたと思う。
もちろん、中断していた時期があるとはいえ、一九○七年に創刊された「演藝画報」からの連続で考えると、その歴史は百年を超える。図書館の書庫に、「演藝画報」「演劇界」のバックナンバーがあるのは、歌舞伎についてものを書く人間の拠り所になっていた。今の勤務先に職を得たとき、いつでもこの圧倒的な資料群に、いつでもアクセスできるのだと思うと幸福感でいっぱいになったのを覚えている。
『菊五郎の色気』(文春新書 二○○七年)は、私にとって思い出深い。歌舞伎について書いたはじめての単行本である。その基礎となったのは、「演劇界」に書いてきた劇評があるのはいうまでもない。
この本のあとがきのなかで、私はこんなことを書いている。
「親しい友人のお嬢さんから、質問を受けた。歌舞伎を見始めて二年くらいになるけれども、どう観たらよいのかよくわからない。いつまでもイヤホンガイドを聴きながら、舞台を観るのは嫌なんです、というのである。
好きな俳優をひとり決めて、その俳優の舞台は、できるだけ観るようにしたらどうですか、それと歌舞伎専門誌の「演劇界」を毎号読むといいですね、と私は答えた。」
この文に粉飾はない。このとき私の頭にあったのは、小学館の系列にはいって、B5版からA4判へと判型を改めた第三次「演劇界」だった。かつて私が学生時代に愛読した利倉幸一編集の第二次「演劇界」ではない。
グラビア紙の色彩が強くなったとはいえ、劇評は毎号掲載されていた。歌舞伎を観始めた人がその好奇心を満たすために、絶好の雑誌であった。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。