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【劇評278】熱狂の平成中村座。勘九郎、七之助が若手花形を引き立てる。進境著しい獅童。五枚半。

 歌舞伎に、沈黙は似合わない。

 客席にある種の熱狂があってこその歌舞伎であって、コロナウィルスの脅威が私たちを襲ってから、この興奮状態を忘れかけていた気がする。

 久し振りに浅草、浅草寺境内の平成中村座を埋めた観客は、熱い歌舞伎を待ち望んでいた。
 全身全霊を賭けて芝居をする役者を観たい、この緊密な空間に身をおきたい。こうした観客の願いが、強く感じられた。開幕を待つときのざわめき、役者の出に向けて贈られる拍手、いずれも、私たちが待ち望んでいた劇場のありかただった。

 こうした空気感を作りだしたのは、故十八代目勘三郎が創り出した平成中村座のスピリットが、今もなお継承されているからだと思う。場内には、勘三郎の『夏祭浪花鑑』をはじめ懐かしい写真パネルが飾られている。
 勘三郎は、今も変わらず、この劇場を愛している。生前の勘三郎を知らない観客にも、この熱気は着実に伝播した。そこには生きること、演じることの喜びがあった。

 さて、第一部は、勘九郎の濡髪長五郎、虎之介の放駒長吉による『双蝶々曲輪日記 角力場』である。近年の配役は、若手花形を育てるために、ベテラン、中堅が見守るかたちが多い。今回も、虎之介、新悟の成長のために、勘九郎と七之助が盛り立てるかたちになる。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。